呪術 | ナノ
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「………」

戻った。
時計を見れば朝の4時。
ベッドではなく苗字さんの部屋のリビングのソファの上。服は着ている。靴まであるし問題はない。呪具である鉈は苗字さんが回収して高専で保管されている。
静かに靴を脱ぎ、玄関に置く。
いつ戻ったかは分からないが問題はなさそうである。

「あ、ななみくん…もどったんだね」
「!」
「ふく、あるね…おふとつかい?」
「苗字さん寝ぼけてますね」
「おふろ、つかっていいから、ね……ひとのけはいがあって、めがさめちゃった…」
「すみません…」
「あ、ぱんつはあるからつかっていいよ…おやすみい」

寝室から顔をのぞかせて、ボケーっとして言う苗字さん。
恋人でもない成人男性がいるというのにこの緩さはなんだ。いや、信頼されているという意味ではありがたいのかもしれないが。
心遣いはありがたいが、女性の部屋で風呂を借りてその後どうするのか。確かに苗字さんは下着を心配して用意してくれた。シャンプーやボディソープは苗字さんのものである。同じ匂いをまとって高専に行こうものならあの最悪の2人に本当に玩具にされてしまう。
しかし風呂に入っていないこの体はあまりいいものではない、服だって洗濯していないのだ。夏油さんの服を借りるのもアリだろう、だがしかし。

「あ、ななみくん」
「は、はい」
「せんめんだいに、おとこのこのあたまあらうの、からだ洗うの、あっから…つかえ…」
「あ、はい…おやすみなさい」
「んー…すみ」

静かに言われた通り洗面台を探せば試供品の男性物のシャンプーボディーソープ類がある。気を使いすぎでしょう…と思ったが、せっかく気を使ってくれたのだから有難く使わせてもらおう。
なるべく音を立てずにシャワーを借りる。高専の敷地内のシャワーは低くて使いづらいがわがままは言っていられない。
甘い香りが残るここで男性物の香りを使うのは何だが悪いことをしている気分になるが、部屋の主が許可しているのだと自分に言い聞かせ、それでもなるべく短時間で切り上げる。ドライヤーは、やめておこう。苗字さんが起きてからセットする時間をもらえばいい。
終わってキッチンに立ち、コップを借りて水を頂く。





「あ、夢じゃなかった」
「はい?」
「元に戻ってよかったね、七海くん。その様子だとお風呂入った?」
「シャワーを借りました。下着とシャンプーやら色々ありがとうございました」
「ああそれ……五条くんとか夏油くんが私に『彼氏もいない名前ちゃんには無用だと思うけど』って嫌がらせでもらったやつだから」
「………最低ですね」
「ねー。まあゴム寄越さないだけマシだよ…」
「最低を見つけないでください」
「ご飯どうする?」
「そこまでお世話になっては申し訳ないので」
「気にしない気にしない。世話して人の部屋の風呂まで使ったんだし、今更気にする必要ないでしょ」

七海くんの気遣いがあの2人にもあればな…というあたり、苗字さんも苦労している。あの特級と他者に反転術式を使える家入さんと同期なのだ。規格外の中に規格内がいるとなれば浮く。学生のころから苗字だけはあの3人とは違った、いや、苗字さんだけが3人とは同じになれなかった。あの異常な人の中で、言えば普通の能力で、後輩であった私とっては身近な存在だった人。

「七海くんパン派?」
「え、ええ…」

気にしないでください。と再度言おうとしたときだった。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポンピンポンと呼び鈴が連打されている。
苗字さんがうんざりした声で「五条くんだな…」と言って玄関に向かう。おおかた夏油さんに聞いて私が猫になって苗字さんの世話になっていたのを聞いたのだろう。

「やっほー名前、七海は?」
「何の用?ご飯まだなんだけど」
「僕は食べたよ!七海ー!いるんだろ!面白いことになってさ!」

バタバタとした音がして五条さんが飛び出てくるも、私の姿を見て明らかに意気消沈している。そしてその後ろにいた苗字さんに向き直ると面白くなさそうにして

「話が違う。傑の話と違うじゃん名前!」
「何聞いたか知らないけど元に戻ったの。昨晩までは可愛い猫ちゃんでした」
「僕も猫の七海で遊びたい!」
「私は苗字さんに遊ばれていません」
「しかも七海名前と同じシャンプーでもないじゃん!面白くない!」
「五条くんを楽しませるために過ごしているわけじゃないし。あ、お土産」
「僕んの」
「人の部屋入った代金だ、置いていけ」
「えー」
「ジャムあげるから」
「まじで?スプーンは」
「プラスチックのあげるから」

やったー!と喜ぶ五条さんの正気を疑う。

「ってなるか。なんだよジャムって」
「冗談冗談。あ、じゃあかりんとうと交換しよ」
「え、もしかしてあの?」
「そうそう。賞味期限今日まででさ」
「いるいる!あれ超美味いじゃん。僕あれ好きー」

きゃ。と態度が変わる五条さんにいつもの事だといわんばかりに苗字さんは棚を探ってかりんとうが入っていると思われる袋を手渡す。
そこでバリっと封を切って食べ始め、私が猫の時寝床にと借りていたソファに腰かけてテレビをつける。ここは貴方の部屋ではないのだが。

「食パンとコーヒーでいい?」
「僕砂糖入れて」
「五条くんのはないよ。バターとブルーベリージャムどっちがいい?」
「では、バターで…」
「ねえ名前、猫の七海の写真は?」
「ないよ。撮りたかったけど七海くんが可哀想でしょ。あー、あとハムがギリギリかな。玉子も昨日で終わり」
「面白くねー。なんだよ」

こぼさないで。と五条さんを見ずに言うあたり慣れているんだろう。
この二人が付き合っているという話は聞かないし、苗字さんは絶対にそんな感情がないのは知っている。

「七海くん、床でも適当に座ってて。五条くんの隣嫌でしょ?」
「僕も嫌ー。ねえお茶ほしい」
「ないよ。私今日任務だからささっと作って食べて出ていくから五条くんも早く帰ってね」
「いえ、手伝います」
「七海、お茶頂戴」
「嫌です」
「生意気ー」

「苗字さん」
「なに?食べられないのあった?」
「いえ…五条さん、いつもああなんですか?」
「まあ、ね。私の生存確認も兼ねてるみたいだし、好きにさせてる」
「え?」
「五条くんなりの心配の仕方?みたい。あと七海くんも心配だったんだと思う。さすがにこんな朝早く来ないよ、いつもだったらね」

結界で弾いてたよ、何もない朝だったら。と苗字さん。
それから苗字さんは普通に料理をして食事をして、さすがに悪いので後片付けをさせてもらって苗字さんの部屋を出て一度自宅に戻った。
それから高専へ行って家入さんに診ていただき、「大丈夫じゃないか?」と言われたので任務に就いた。

「七海。戻ったんだね」
「夏油さん…」
「いやー、大変だったよ1級が2人抜けててね」
「苗字さん呼び出し食らって任務してましたけど」
「それ本当?」
「ええ」
「まあ呪霊なんて湧いて出るからね。名前に抱いてもらった?」
「………」
「沈黙は肯定と受けてる」
「………」
「マジ?いいな…私も猫になろうかな」

貴方だったら猫にならずとも好きに抱かれるでしょ、いや抱く方でしたね。と言いたくなったが、更に言われるのは目に見えているので黙っていた。


猫になるなんて災難なのに。

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