呪術 | ナノ
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「…なにしてるの?」
「おお!?びっくりした…」

それはこっちのセリフだよ。と夜中の寮の廊下で見つけた名前に声をかけた夏油。
名前の足元には暗くて見づらいが猫がいるらしい。「にい」と声がした。

「任務、ではないね。小腹でも空いたの?太るよ」
「ち、違うよ。今日ね、流星群が、見れるって」
「見に行くの?危ないよ」
「ちょっと外で見てみるだけ。危なくないよ、呪霊もいないし」
「…そうかな」
「ちょっとだけだし、す、猫居るし」
「私が一緒に行ってあげるよ」
「え」
「迷惑?」

そっちの方が危なくない?という名前の心の声は夏油に届くはずもなく、「じゃあ玄関行こうか」と先導されてしまった。
名前は足元の猫と顔を見合わせて、とりあえずついていく。

「名前も眠れないの?」
「タイマーセットして起きたの。優には嫌な顔されちゃった」
「だろうね。ほら、暗いから足元気を付けて」
「うん。夏油くん眠れないの?」
「……え?」
「さっき”も”っていうから。最近顔色悪いし、具合悪い?病院行った?」
「あ、いや……」

靴とは違う、柔らかい靴底の音。軽やかに、それでいて小さく駆け寄る音は夏油にとって少しだけ心がざわついた。
名前の言葉が波立てたのだ。

「夏油くん?」
「あ、いや。どこで見るつもりだったの」
「玄関でて、ちょっと広い所」
「高いところで見ない?」
「優を置いていけないよ。あの辺りで十分だよ」

今度は名前が先導するように歩き、その後ろを黒い猫がついていき、それに夏油が続く。適当なところで名前が立ち止まり、「おいで」と猫を抱き上げて一緒に空をながめる。
雲は薄くかかっているが、流星群というには星は少しも動かない。

「流れそう?」
「わかんない」
「……猫、抱く必要ある?」
「眠いのについてきたから。抱っこしてあげるの」
「…本当だ、眠そうな顔している」
「眠いんだよ。ねんね、ねんね」

猫のスグルも此処の生活に慣れて、人にも慣れた。相変わらず夏油や五条は好きではないようだが、気まぐれにさわせることもある。
初めて触った五条の反応に家入は吹き出したし夏油は腹を抱えて笑っていた。
名前に抱かれて目を閉じている猫の姿は、それでも初めて見る姿だった。
まるで母親に抱かれて眠っている赤ん坊のようで、思わず夏油が「わあ」と声を漏らすと猫は薄目を開けて迷惑そうに「にい」と鳴く。

「うるさいって」
「ご、ごめん…でも猫ってこんな風に寝るんだ」
「甘えん坊で心配性なんだ。あ、抱っこしてみる?」
「え、いいの?」
「うん。夏油くんにも慣れてるし、家族より慣れてるよ。それに可愛いスグルくんは弱っている生き物に優しいから」
「え?」

はい。と夏油に猫を渡す。今まで安定して心地のいい腕の中から不安定な腕の中になり、嫌そうな顔をして、軽く身をよじって居心地が悪いアピールをする。
それから軽く名前から指導をされて抱きなおすと、猫はまあまあ不満顔で大きなため息をついてから抵抗はなくなった。
諦めてくれたのだろうか。

「案外、がっしりしているね」
「だって実家から来ちゃうんだもん、がっしりしてないとね、お爺ちゃん」
「…やわらかい」
「今夜貸してあげるよ、優。傑くんに優くんを貸してあげます」
「なんで2回…」
「優が私以外に抱っこされるの、珍しいんだ。本当弱った人にしかさせてあげないの、だから貸してあげる。優は優しいと書いてスグルだしね!流星群には縁がなさそうだし」

上。と名前が言うので見てみれば、先ほどまでは薄かった雲はこの短時間で厚くなったらしい。星は隙間から見えるが流れる姿は望めなさそうだ。
風はあまり感じないが、上の方は強いのだろう。
名前は夏油の背後に回り込み、ぐいぐいと背中を押して寮の玄関に行き、履き替えて男子と女子の寮の別れる廊下まで来て「また明日」とさっさと自室へ向かったしまった。
残された夏油と猫は言われたままに猫を自室まで連れていき、とりあえずベッドに降ろす。ふんふんと匂いを嗅いで回り、やはり居心地が悪そうではあるがまあいいだろうという態度で枕の上に陣取ろうとするのを阻止した。

「図太い猫め…」

ふん。と今度はまるで見下すように強めの鼻息。
こちらこそ名前が言うから来てやったんだぞ、と言わんばかりだ。しおらしい猫だとは思っていないが、名前の態度と違うのが腹が立つ。
すると今度は枕とは反対側の、足元のほうに座る。ここならいいだろ。というまるで猫が譲歩したかのように。
とりあえずは同級生の猫、という存在だ。それにいちいち猫に腹も立てていられない。夏油は切り替えて、しかし苛立ちも含めて猫を撫でて「ありがとう」と礼を言う。するとわかるのか「にう」と鳴く。
ベッドに潜り込み、眠れないかもしれないな、という心配をしているとまた猫が枕の近くまでやってきた。

「だから、」

駄目だって。というよりも早くそこに座り、ごろごろごろごろと喉音を立てる。
気分がいいとか気持ちがいい時に鳴らすのだ、とは聞いていたが、なぜ今。それにうるさい。でも叩き落とすこともできない。

「…うるさいな、猫が」
「……にい」
「なんだよ」
「に」
「………勝手にしてろよ」

ごろごろごろごろごろ。



「!」

朝、アラームがピピピピピピピピと音を立てているので目が覚めた夏油。
どうやらあのうるさいと思っていた猫の音でいつの間にか眠ってしまったのか、いや、たまたまだ。と思ってアラームを止める。すでに猫の姿はない、どこか出入口を勝手に見つけて出て行ったのだろう。
そもそも夏油の部屋には猫の餌がないのだ、鳴かずに出て行ったくれただけでもありがたい。
朝の準備をしてから教室に行けば、名前が席に座って報告書だろうか、何か書類の記入をしている。

「あ、おはよう。眠れた?」
「おはよう。うん、でも朝には猫居なくなってた」
「起きたら居たよ部屋に。ご飯食べるって起こされた」
「悟と硝子は?」
「どっちも任務。いつもだと私1人だけど、誰かが居るの久しぶり」
「実習あるでしょ?名前だって」
「あるけど朝は私基本的に教室で夜蛾先生と挨拶して予定確認してからだし」

特級と反転術式の特別様とは格が違うからね。と名前は笑う。
するとテテテテと猫が教室に入ってきて、空いている椅子にひょいと座る。名前の様子からしていつもの事らしいが、夏油には初めて見る姿だ。
もちろんその猫、優は名前の猫だという事も知っているし学園内でもたいていの人間は知っている。でもここまで自由になっていたのか、と夏油は自分の席から猫を眺める。

「今日はダブル・スグルだね」
「いつもいるの?」
「最近私1人でね、遊び半分で乗せたら先生も何も言わないし。それからたまに。好きな席に座ってるんだよ」
「今日は悟クンだね」
「昨日はスグルくんだったよ」
「じゃあ硝子チャンの時もあるの?」
「あるよ。前教卓の上にいたら先生に『さすがにそこは駄目だから降りなさい』て言われた」
「夜蛾センが?」
「うん」

先生が真面目に言うから私笑っちゃった。と名前が楽しそうに言うので、夏油もつられて笑った。

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