呪術 | ナノ
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「え、寮内に猫が…」
「本当だ!」

新入生の灰原と七海が寮の廊下の日当たりがいいところでくつろぐ大きな黒い猫を見つけた。
確かにたまに猫の毛らしいふわふわとしたものがあると思ったが、本当に猫がいた。
くああ、と大きく欠伸をして2人をちらりと見て、それから前足をぺろぺろと舐める。

「迷い猫かな」
「さあ…それにしても慣れていますし、寮の猫では」
「でも説明でなかったよね」
「ええ……」

興味本位で猫に近づけば、猫は差っと立ち上がって2人から距離を取り、またくつろぐ。
これは2人にもわかる。触ってほしくないというか、近づいてほしくないのだ。
猫は猫で「ふう」とわざとらしく溜息をついたくらいにして目を細めてくつろいでいる。

「あの猫…」
「あ、また動いた。どこ行くんだろ」

行こ、七海。と七海の袖を引っ張る灰原。
ととととと、と軽やかに歩いて寮の玄関に行き、「にゃおう」と一鳴き。すると女子の声がして「ただいまスグル」と聞こえてきた。

「いい子にしてた?あったかいね、日向ぼっこしてたの?」
「あ、あの…」
「?あ、もしかして新入生?」
「はい、七海建人です」
「灰原雄です!」
「2年の苗字名前です、よろしくお願いします」
「その猫、先輩の猫ですか?」
「うん。スグルっていうの、優しいって書いてスグル。同級生の夏油くんとは同じ読みだけど、字が違うからね」
「可愛いですね!」
「ありがとう。よかったね、可愛いって」
「触ってもいいですか!」
「スグル私以外抱っこも撫でられるのも好きじゃないから…」

撫でてもらう?と名前が聞けば猫はふいっと外に出ていく。2人はどうやら不合格らしい。

「ごめんね」
「いえ…猫、いるなんて聞いていなかったので」
「あれ、硝子も夏油くんも五条くんも言ってなかった?」
「はい!聞いてないです!」
「そっか…ごめんね、アレルギーない?」

大丈夫です。と2人は声を合わせて答える。
確かに入寮当初に「あと1人2年女子がいるんだけど、今出張中」と家入が2人に言っていた。だが猫の話はしなかったあたり忘れていたのかワザとなのかはわからない。
出張だというからには代わりに世話をしていた誰かがいるはずなのだが、もしかしたら謎の猫という事で揶揄おうとしたのかもしれない。

「ただいま」
「おかえり。酒は」
「今回はなし。時間なかったよ、でもお土産あるからみんなで食べようよ」
「あ、名前お疲れ」
「おせーんだよ、愚図」
「五条くんお土産なし」
「あ!?」
「喜久福買って来たのになー」
「オ、オツカレサマデシタ名前サン」

共有スペースに一緒に行き、お土産だよと紙袋をテーブルに置いて名前は「着替えと洗濯してくるね」とまた姿を消す。

「猫、苗字先輩の猫なんですか」
「ああ、スグルな。1年時に名前追いかけて実家から来たんだよ、それから一緒に寮で飼ってるんだよ。言ってなかったっけ?」
「生意気猫な」
「賢い猫だよ。低級だけど呪霊祓えるしね」
「え!すごい!」
「人に害をなさない呪霊だけどね。こら悟、つまみ食いしない。名前が来るまで待つんだ」
「猫のスグルでもちゃんと待て出来るぞ?猫以下じゃん」
「うるせー!」

ぎゃあぎゃあを騒ぐ上級生に1年の2人は「仲が良いね七海」「そうじゃないと思う」と2人の意見は割れる。
しばらく程度の低い争いを眺めていれば名前が戻ってきて、その後ろに猫が続く。

「あれ、まだ食べてないの?」
「ほらー!名前だって食っていい言ってんじゃん」
「それでも待つのがマナーだよ」
「お茶飲も」
「俺ココア」
「おこちゃま」
「自分で入れてね」

にい。と猫が鳴けば名前が「今おやつあげるからちょっと待ってて」とすかさず言う。
備品から緑茶のティーパックを取り出して自分のマグカップにお湯を入れてティーパックを入れ、ポケットから猫の餌らしいものを出して小皿へ。からからと音を立てて小皿の上にでた。それをもって部屋の隅に移動して猫の前に出せはカリッカリっと音を立てている。

「2人も食べて」
「あ、はい」
「いただきます!」
「名前今回時間かかったね」
「サポートに行ったんだけど、そこの呪術師さんが…本当…駄目な、人で…」
「お前以上に愚図いんの?人間?」
「人間人間。出来ない事出来なかった事ぜーんぶ私のせいにされちゃった」
「よーし、誰だい私に教えて」
「今入院してる。ズタボロ」
「名前結界術上手いもんな」
「俺には及ばねえけど」
「苗字先輩はケッカイジュツが上手いんですか」
「今じゃ下手な補助監督よりいい帳降ろせるよ名前は」
「へー」

マグカップをもって名前がソファに移動して座るとほどなくして猫がひょいと膝の上にのり、くつろぎだす。これも2年にしたら普通の光景なのだろう。
新入生の2人にとっては、今まで猫がいたことを知らなかったので不思議な感覚である。
確かに「他に女子1人」とは言われていたから、その人が目前にいる違和感もあるが。それでも人以上に猫という存在はなんだか不思議である。すい、すい、と人間の手をすり抜けていた猫が飼い主である女子学生の膝の上にいるのだ。

「名前が居ない時餌は食べた形跡あるのに姿見せてなかったんだよスグル」
「え、そうなの?優、ちゃんと硝子に挨拶しないと駄目だよ」
「私らは?」
「2人は猫に何もしてくれないでしょ」
「現金な猫ですね…」
「猫ってそういうもんじゃない?」
「寂しがりじゃん。なんたって名前追いかけてくる猫だしな、スグル」

そうだ。なのか、違う。なのか分からないが、名前の膝の上で猫が「にい」と鳴いた。


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