呪術 | ナノ
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「あれ、名前じゃね?」
「あ、本当だ」
「立ち漕ぎして何してんだアイツ」

夕方任務帰りの特級2人。もう少しで高専に戻る車の中、高専敷地内から必死な様子が自転車を立ち漕ぎして何やら急いでいるのを見つけた。

「止まりましょうか?」
「おう」

同級生だというのは補助監督ももちろん知っている。あの特級五条悟に夏油傑、反転術式を他者に使える家入硝子。そこに平々凡々と言っても過言ではないだろう苗字名前。補助監督の中でも「あんな前例のない人間の中に普通の子がいて…可哀そうに」と言われている。
言えば例外中の普通の子、いや呪術師になろうとしている人間に普通の子というもの変な話ではあるが、例年通りの子が1人だけ異常なくらい凄い人間たちと同級生。他3人が凄すぎて逆に可愛いとも思えてくるほどだ。
ゆっくりと車のスピードを落として窓を開けて夏油が名前に声をかける。

「どうしたの?」
「す、すぐるが!いた!!今から病院、行くの!!」
「はあ?」
「スグルって、飼ってた猫の?」
「そう!!!さっき、みつけ、って!ぼろ、ぼろ、だから……びょう、いん…死んじゃう…すぐ、る……しんじゃ、うの、やだ……」
「すみません、今から名前を乗せて動物病院向かってもらえますか」
「はあ!?んな汚ねえ猫乗せてまだ帰れねえのかよ!んな猫どうでもいいだろ」
「じゃあ悟は名前の自転車借りて帰りなよ。名前、乗って。送ってもらおう」
「はあ!?」
「いいか悟。名前にとってそのスグルは家族なんだよ。汚いとか、そんなことを言ってはいけない。まして弱っているんだから助けるのは当然だ。そして悟が降りて名前の自転車に乗って帰るか動物病院に付き合うか、どうする?」

面倒だけど付き合ってやるよ。とふてくされた様子で長い脚を組みなおしてそっぽを向く五条。
後部座席には2人がいるので名前は自転車を隅に止めて鍵を抜き、猫を抱えて助手席に乗り込む。
2人は家入から「名前の猫、黒くてデカい猫で、名前は優しいと書いてスグルだって。同じ名前でよかったな夏油」と笑われたのはつい最近の事。
名前のバスタオルだろうか、それに包まれてどんな様子かまでは伺えないが名前が不安そうにしているのはわかる。補助監督が「出発しますよ」という声に名前は黙って何度も何度もうなづいた。


「脱水と栄養失調、他怪我あるけど心配するほどではないので大丈夫ですよ」

という獣医の言葉に名前がハラハラと涙を流した。
それに付き添ったのは夏油で五条はぐずるので補助監督が一度寮に連れていき、名前の放置した自転車を回収したうえでまた来てくれると言ってくれたので夏油が頼んだ。名前に今正常な判断はできないから、と。

「しばらく入院になります」
「は、はい……」
「迷い猫?」
「…実家、で飼ってた、猫で……1週間、くらい、前からいなく、なってて…こ、ここで、みつけ、」
「そう」
「こ、ここ、まで……くる、なんて……」

ちなみにどこから来たの?という獣医に名前が出身を言えば「え!!」とかなり驚いていた。
まあこの時名前の出身を改めて聞けば人間だって徒歩で移動なんてしようと思えないし、猫が1週間でここまで来れる距離ではない。
それから待合室で今回の治療費、入院費の大体の額を聞いて後日用意するということで今日は帰ることになった。
さすがに動物病院で待っているわけにもいかないので近くのコンビニで待て居ますと補助監督に連絡をしてそこで待つことにした。

「げ、夏油くん…、ありがとう」
「気にしないで。元気になるといいね、猫」
「うん……お礼に、ジュースでもおごらせてよ」
「気にしなくていいのに。じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「う、うん」
「猫、名前に会いに来たのかな」
「どうだろう…昔から賢かったけど…呪霊ね、小学生の時から見え始めて、すぐ…猫がやっつけてくれてたんだ」
「え」
「ビックリでしょ?私が泣いてると来てくれて、呪霊やっつけてくれたの。多分、私が家からいなくなって心配して、匂いでもたどってきたのかな…歩いてきたわけじゃないのにね」

そんな話聞いたことないもんね、たまたまかな。と名前は続ける。
確かにそんな話は聞いたことがない。人間から生まれて人間に害をなすもの。だが動物にだって見えていてもおかしいことは、ないのかもしれない。と夏油はコンビニで「どれがいいかな」という名前を隣にソフトドリンクを選ぶ。
それから迎えが来て寮に戻り、翌日名前はまた動物病院に向かうときに夏油に声をかけられた。

「お迎え?」
「ううん、昨日の治療費の支払い。退院したら入院費も支払ないとだし」
「ねえ、猫が呪霊やっつけた話って他誰かにした?」
「しないよ。だって、誰も信じてくれないよ」
「私にしたのに?」
「それは…話の、流れ的、な?」
「私も一緒に行っていい?」
「自転車で行くけど…夏油くん自転車あった?」
「呪霊で送るよ」
「私怒られたくないな…」
「バレなきゃ大丈夫でしょ」

ほら。と名前の腕を引いて呪霊に乗せて。ついでに誰にも気づかれないように結界でも張りなよ、と突いてくる。
怒られたくない名前は抵抗したものの、体格差や実力差で到底かなわない。名前は渋々ではあるが結界を張る。人目には効果があるが機械類に効果はないのだが。しかし呪霊とは案外便利なもので、名前自身まったく疲れることはなく動物病院まで移動できたし、他の交通機関でもないので懐も痛まない。ただ同級生が怖いだけである。
どちらがいいかと言われれば断然交通機関を使うか自転車だが、圧には勝てなかった。
病院でお見舞い、入院はこの調子なら3日程度で大丈夫そうだと言われ、昨日の支払いを済ます。

「優しいスグルは実家に帰すの?」
「え…あ、うん…でも、すぐ、猫、私以外あんまり懐いてなくて…ご飯あげれば食べるけど、抱っこもなでるのも私だけで」
「へえ。じゃあ本当に名前を追いかけてきたのかもね」
「かもね…。でも、寮じゃ飼えないし、やっぱり実家に連れて行かないと、かな」

高専に戻って「喉が渇いたな」なんてわざとらしく言うので名前は言われるままに自販機コーナーでコーヒーを渡す。
そして言われたのが猫の話である。

「先生に相談してみたら?」
「え」
「今日先生も心配してるみたいだったし。呪霊の件も話してみなよ」
「……でも」
「でも?」
「すぐ、猫、もうシニアの年でお爺ちゃんなんだ。それに私昔みたいに呪霊で泣くわけでもないし、のんびりしててほしいし…」
「でもスグルは名前に会いに来たんだし。相談だけしておいでよ、私も付き合うよ」
「えっ」
「えってなに、えって」
「や…次は何を要求されるのかなって、思って…」

酷いな名前ってば。とニヤニヤして名前がビビっているのを揶揄う夏油。
夏油自身名前が自分を怖がっているとは思ってはいないので、こうやってじゃれているつもりなのだ。
対して名前は体格差もあるし力の差だって、呪術師としての差もあって怖い。とりあえずは五条よりはマシである、という感覚だ。
ちょうど通りかかった家入に「硝子助けて…!」と名前が助けを呼ぶまでその揶揄いは続いた。

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