呪術 | ナノ
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※高専


「元気ないじゃん」
「ん?……うん…」
「どうしたのさ」

少し考えて名前は家入にぽそっと話す。
「実家で飼っていた猫がいなくなったって、連絡が来た」と。
その話に家入は「ふうん」と名前にはどういう意味での返答かはわからなかったが、まあ同級生の実家で飼っていた猫が行方知れずだと聞けば誰でもそうなるだろう。
しかし名前にとってその猫は幼い時から一緒にいた家族で、シニアに部類に入る猫である。高専に入学して世間では夏休みに差し迫った今頃に。猫にとってはどうでもいい事ではあるが、それでも夏休みには実家に戻れるのではないかと淡い期待を持っていた名前にとってはショックなことだった。

「しみったれた顔してんな名前」
「悟、そんなこと言うものではないよ。どうしたの?」
「名前の実家にいた猫が行方不明なんだって」
「ねこぉ?」
「それは心配だね」
「……うん。もうお爺ちゃんだから」
「ふーん?たかが猫じゃん」
「うわ、でたクズ発言」

さすがに「たがか猫」と思うことはあっても、飼い主で心配している人間に面と向かって言うことはない。まあそれをやってのけるのが五条悟なのだが。
名前は黙って下を向いて、耐えているのは五条を抜いた2人はわかっているし、それに五条は「意味わかんね」と吐き捨てた。
その後特級の2人は任務。残った女子2人は座学。授業が終われば好きに過ごしていいのだが名前は呪具の教えを受けている呪術師から体力をつけろとランニングのノルマを課されていたので言われたとおりにランニングへ。
家入はそれに付き合いストップウォッチを片手に、くわえタバコで「スピード落ちてんぞ」とタイムを測定していた。

「名前、昨日より遅いよ」
「…っ、ご、め」
「猫?」
「……気に、なっちゃって」
「猫も幸せだね」
「…、?」
「だってそんな心配してもらってさ、そのうち帰ってくるよ」
「……うん」

終わったし自販機行ってなんか飲もうよ。と誘われて一緒に歩いて自販機コーナーへ向かう。
歩きながら「夏休みどうする?」と聞かれたので「実家に帰りたいかな」といえば「任務あるから無理じゃね?」と返されて、どうやら夏休みといえど実家に帰る暇はないらしい。
名前は言えば平々凡々なタイプで暇あるだろうが、他3人は特別だから難しそうなのはわかる。まあここで名前が帰省したら嫌味を言われるのもわかる。
名前は任務はないだろうが東京の近場で過ごした方が嫌味を言われるもの「低級は暇でいいな」と言われるくらいで済むだろう。

「あれ?もう戻ってきたんだクズ共」
「まあ俺らサイキョーだし?んなもん即終わらせてきた」
「名前のトレーニングの付き合い?仲いいね」
「まあな。クズより仲はいいよ」
「お、お疲れ…」
「疲れてねーし」
「挨拶だよ悟。あ、そういえば戻る時猫がいたよ、黒猫」
「あー、いたな。名前が猫の話なんかするから目に入ったんだよ、黒くて汚ねえ猫」
「…それ、どこで見た?」
「門とこ」
「わ、私行ってくる!スグルかもしれない!!」
「え、私!?」

持ってて!と家入に呪具を渡してランニングで疲れていたとは思えない急ぎぶりで門に走る名前。
昨日きた電話では実はもう1週間戻っていないのだと言われた。人間の1週間と猫の1週間の時間の感じ方は違うというのはなんとなく理解している。
それにもうシニアの年になっている猫が1週間家に帰らずにいるとなればもう結果はわかっている。シニアの年になったばかり、ではあったが、それでももうシニア。
その猫がこんな東京まで来るとは思えないが、それでも居ても立ってもいられなかった。

補助監督が運転する車が出入りする門は1つだけ。普段学生であれば実習や任務以外ではあまりかかわりのない場所である。人の気配があまりない、少しだけさぼるにはちょうどいいかもしれない場所。
走ってきたものの、それが名前が飼っていた猫だなんて誰も言っていない。そもそも名前の実家から東京までの距離や猫の体を考えれば絶対といっていいほどないだろう。
門の周りをうろうろと探してみるが猫らしい姿もない。本当に猫がいたとして、そこに大人しくずっといるわけでもないのだ。足があるのだから移動だってするだろうし、猫に見えた違うものかもしれない。
名前が猫の話をした、という記憶があって2人がごみを猫と見間違えた可能性だってある。

「いた?」
「わっ……う、ううん…」
「さっきより早かったじゃん。まだ探す?」
「ううん…家の子じゃ、ないし、たぶん」
「すぐる?」
「優しいって書いてスグルなんだ」
「ふーん?寮戻ろ」
「うん、そうだね」

寮に帰る道すがら自販機コーナーによって名前は自分に飲み物を買う。
「どんな猫」と聞かれたので「黒くて大きい猫」とだけ答えた。おそらく家入だってそれほど猫に興味があるとは思えない。とりあえず、で聞いてくれたのは名前も理解している。

「早く帰ってくるといいね、猫」
「うん…元気だと、いいな」

実家に帰るのもまだいつになるかわからないしね。と名前は笑うが、美味く誤魔化せていたかまではわからない。
遠くで「にゃおん」なんて声が聞こえた気がした。

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