呪術 | ナノ
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「名前って免許持ってる?」

同級生の夏油が離反して2度目の春だったろうか。
学生時代に名前がブチ切れて以来彼の態度は一変して、それはまるでその夏油を真似するかのように。
会うたびに以前の詫びであるかのように食べ物や飲み物を名前におごるようになっていた。
昨晩「明日休みでしょ?ちょっと付き合って」とメールが来たので指定されたカフェに行って勝手に座って勝手に注文して、どうせ時間通りになんて来ないのだからと文庫本を読みながら待っていた。
指定された時間からおよそ10分の遅刻。
長い脚と丹精な顔立ちを隠すようなサングラスは逆に引き立てている。
名前の座るテーブルにつき、「お待たせ」といつものように悪びれずに店員にパフェを注文する。

「持ってるけど」
「あると便利かなって思うんだよね。運転してる?」
「補助監督がついてくれない時とかは使うよ」
「硝子にもさ、教師するならあったほうがいいじゃないかって言われいて」
「…でも、私たちの時先生の同伴あったけど先生の運転はなかったと思うけど」
「呪術界は人で不足でしょ名前ちゃん。なら僕が持ってて生徒を乗せて移動っていうのもアリでしょ」
「もう答えが出てるなら聞く必要ある?」
「あるよ、あるある!おおあり」

そこからは費用がどのくらいだの、期間はどうなのと聞いてくる。
今のご時世であればインターネットというものがあるし、それこそ高専で調べたらいいし、補助監督に聞くこともできる。2つ下の伊地知は呪術師ではなく補助監督になると言っていたのだから彼のほうが詳しいだろう。
そもそも、五条家当主が費用なんて気にする必要があるのだろうか。いや、ないだろう。無駄に金がある、と言っては失礼かもしれないが事実だ。

「てか、名前っていつ取ったの免許」
「18になって実家戻った時。短期で。費用は…いわれるまま払ったから…いくらだったかな、0がたくさんあった」
「何その馬鹿な答え」
「夏油くんの件とか、いろいろ疲弊していまして。まあでもそれでも免許取れたから五条くんなら余裕でしょ」
「まあ僕最強だし余裕っしょ」
「帰っていい?」
「あーん、ダメェ」

お待たせいたしました。と運ばれてきた可愛らしいパフェ。名前の前に置かれそうになったが名前は黙って正面の男性を指して自分ではないとアピールする。
そして置かれなおしたパフェを前に五条は「いただきまーす」とニコニコしている。

「あ、名前も頼んでいいよ。奢るし」
「要件てそれだけ?」
「まあね」
「…電話でよくない?」
「名前の顔も見たかったんだもん」
「教師目指してるの、どう?」
「ん?まあ特に問題はない感じ。上からの嫌がらせはあるけど。心配してくれてんの?」
「ま、一応は同級生のよしみで。夏油くんのこともあったしね」

見てたのに気づいてたのに、なーんにもしなかった罪滅ぼしをしたいのかもね。と頼んでいたカフェオレを飲みながらまた文庫本を読み始める。
もうすぐ新刊が出るというのでまた引っ張り出して読んでいるが、面白いが目の前に五条がいるだけで文章が頭に入ってこない。

「面白い?それ」
「それなりに」
「こーんなグットルッキングガイを前にするより?」
「……なに、それ」

上機嫌に笑う五条に名前が溜息をつく。
まあ文字そのものなのだろう。確かに見た目はいい、カフェの若い女性客がちらちら見ているのだってわかるし、ひそひそとカップルかななんて会話も耳に入る。
名前からしたら止めてくれの一言である。

「ねえ名前さ、一緒に教師しない?」
「しない。何回も言ったでしょ、そもそも五条くんが教師っていうのが意外」
「同期で教師、いいと思うんだけどなー」
「なーんにも良くないです。特級2人、反転術式を他者に使える同級生ってだけで肩身狭いのに。わざわざそんなことする自虐的趣味はありません」
「そんなこと言うけど、名前だって結界術のスペシャリストじゃん。補助監督のベテランだってあんな綺麗な帳降ろせないし、縛りもなく強固なもの作れやしないよ?」
「それしか能がなくて悪かったな」
「褒めてんの。名前も学生から変わらず自己評価低いな」

カラン。とパフェの入っていたグラスが空になり、スプーンが投げ込まれた。
そしてメニューを眺めて「あ!」と声を上げる。
そしてメニュー表を名前に見せて「コレ!」と声を上げる。

「美味そう!」
「?頼めば?」
「これカップル限定。ねえ名前、僕前から君の事」
「カップル限定のスイーツコレクション頼みたいが故に演技するな。別にキスしろとかいつから付き合ってるか聞かれるんじゃなんだから頼めばいいじゃない」
「え、いいの?マジ?さすが名前ちゃん…」
「お金払うの五条くんだし」
「そんなドライな名前ちゃん僕大好き」

きゃ。とハートが付きそうないいぶり。
店員を呼んで「このカップル限定の」と注文して品が来るまで「聞いてよ」と上層部の愚痴が出るわ出るわ。
名前からしてみたら、気持ちはわからないでもないが、それ人の休みに呼び出してまで言わなきゃいけないことなの?と思わず口から出そうになるのを頑張って耐えた。

「私もケーキ食べようかな」
「お食べ」
「そういえばさ、今更だけどなんで学生の時私から食べ物奪ってたの。お金あるんだし自分で好きなの買えるでしょ」
「え、あー…それ、今聞く?」
「嫌ならいいけど。ただ人の休みに呼び出しておいてケーキとカフェオレだけで済ますの?愚痴まで聞かせて」
「名前って本当高専時代猫かぶってたよね……」
「当たり前でしょ。少ない人数で面倒事になりたくなかったし。男子2人は無駄に怖いし同性の硝子は喫煙飲酒してるし」
「じゃあ今は素?」
「質問の答える気がないなら答えたくないって言えば」
「あーん、名前ちゃんのいけずう」

店員がカップル限定の商品も持ってきたので名前はついでにケーキの注文をする。
店員は「え、こんなにあるのに?」という顔をしたが、すぐさまそれに手を出した五条を見て「カップル限定といえどカップルではないパターン」と察してくれたらしい。

「ま、白状するとさ、僕名前とそうやってコミュニケーションとってたつもりだったんだよ」
「クズだな」
「あ、硝子のマネ?上手いじゃん」
「真似じゃねえわ。はー、あきれた。子供っぽいとは思ってたけどガキだったんだ…」
「だってさ、名前ってば何しても笑ってたからさ」
「許してもらえると思って?」
「そ。傑とも硝子とも違う甘え方っていうの?まあ最終的には名前にはブチ切れられたけど」
「やっぱり見た目術式がよくても内面が伴ってないって、最悪なんだねえ…」

先に注文していたカフェオレが空になったので、ケーキが来たらお代わりをしよう。そう名前は思った。

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