呪術 | ナノ
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「名前」
「え、あ…夏油、くん?」

めずらしい。と名前はつぶやいた。
車の準備はできているから先に乗っていてくださいと補助監督に言われ、名前がドアを開けると同級生が乗っていた。
特級である夏油と一緒の任務なんて1年の当初くらいぶりだ。今では特級2人は別行動での任務がメインとなっている。
名前は学生同士で組むか実習という名目で呪術師のサポートで出ることはあっても、同じ学年の特級はかなり久しぶりのこと。

「名前との任務は久しぶりだよね」
「うん…1年の、はじめくらいだっと思う。特級は2人で動いてたし」
「名前は今までどんな人と組んでたの」
「先輩とか、後輩の2人とか…あとはサポートで呪術師の人」
「へえ、そうなんだ」
「……最近1人での任務多いね、夏油くんと五条くん」
「ああ、うん……」

よっと。と名前が車に乗り込み、補助監督を待つ。
基本的に学生や呪術師は後部座席に乗る。2人が並んで乗るのもやはり1年の時ぶりだろう。

「…具合、悪い?」
「え?」
「なんか、調子悪そうだなって、思って」
「そんなことないよ。私たちもうすぐ3年だし」
「…学年と体調って関係あるの?」
「………ない、かな」
「やっぱり具合悪いんじゃ…」

お待たせしました。と補助監督がやってきて車にエンジンをかけて「出ます」という一言もなく車は発進する。
片道約30分。少し年配の補助監督が最近の天気がどうだとか、新人の補助監督がやっと一人前になったとか。好きなことを言っているのに2人で適当に相槌を打って流していた。
目的について補助監督が帳を降ろし、任務を遂行する。
今まで夏油は名前と同じ任務に就くことはそれこそ入学当初以来なかった。
だから夏油にとって名前はトロイ、いえば普通の女子だから守ってあげないといけないという感覚だった。しかし時間の流れは夏油が思うよりも名前が成長していたのだ。
当初の名前は結界術で呪霊を固定して「え、えい!」とやっと呪霊を祓っていた。
それが今では正確に、そして複数の結界術を使って固定、持っていた呪具も軽々と操り、結界術を足場に走り回る。

「すごいな…」
「え?」
「名前、きみ、こんなに出来るんだ…」
「え、な、なに?急に…」
「私、ずっと名前は1年のままだと思ってた」
「……う、ん」
「私が、守ってあげなきゃだって、思ってた」
「ま、まあ…夏油くん、特級だし、私より強いから…ね、うん」

何が言いたいんだろう。と名前は思いながら、それでも夏油をなるべく否定しないようにと言葉を選ぶ。
名前だってそれなりに任務をこなし、そして体力づくりをし、呪具を扱うために似た呪術師の厚意を受けて鍛錬はしている。だから、まあそれなりに。にはなっているはずだ。
おかげで等級は上がって3年には2級にはなれそうだ。

「もう転んで怪我していた名前じゃないんだね…」
「まだ転んで怪我するよ…?五条くんじゃないんだから。夏油くんも怪我、するでしょ?

「そういう意味じゃないんだ」

任務が終わって戻ろうか、となった矢先に補助監督から「急な任務が入ったから行こうか」と予定変更の知らせが入る。
いえば予定通りなんてことは少ないのはもう慣れるほど起きている。それこそ予定通りになることが稀であることは2年になる前に気づいてしまった。それでも特級がいたから比較的予定通りになることはあったが、今名前が一緒にいるのがその特級である。
特級が動くのだから予定なんてあってないようなものだ。
「あー…」という夏油の声に名前は「任務入っちゃったね」と小さな愚痴を漏らして再び車に乗り込んだ。


「深夜だ…」
「また飯くいっぱぐれた…」
「1年の時もあったね、夏油くん」
「最近はまた多いよ」
「……夏油くん、そば、好き?」
「…好き」
「じゃあ、私あるから食べてくれないかな」
「1年の時のやり取りだ」
「へへへ。実際また送られてきてるんだ。生麺の真空パック」
「いいの?また私がもらって」
「うん。共同キッチンでお湯沸かしてよ、私着替えて持っていくから。あ、お鍋2つね、私うどん食べるから」
「ははは、特級を顎で使うなんて同級生じゃないと出来ないよ」
「そこは同級生のよしみで。あ、そばいらなかった?ごめん…」
「ううん、いただくよ。じゃあ着替えて持ってきてよ、私は名前が来たら着替えに行くから」
「うん」

じゃあ共同キッチンで待ってて。と名前は寮の自室に向かう。
そばが好きじゃないと言っても母親は貰ったからと時たま仕送りに入れてくるのだ。ありがたいが好きじゃない名前にとっては悪くしてしまうほうがストレスである。
だから今回もどうしようかと思っていたのでありがたい。
ささっと着替えて段ボールをあさり、そばとうどんを持ち、ついでにセットになっていためんつゆも抱える。

「お待たせ」
「ああ、大丈夫。まだ沸いてないし」
「じゃあここから私が見ておくから着替えてきてよ」
「ありがとう。めんつゆもあるんだ」
「セットだったみたい。もしなら使って」
「ありがたく使わせてもらうよ。そうだ、ネギ平気?」
「平気」
「確か冷蔵庫にあったと思うから持ってくるよ、もらってばかりで悪いし」
「気にしなくていいのに」

じゃあバトンタッチだ。と片手に持っていた携帯を畳んで夏油は共同キッチンを出る。
それから数分も経たずにお湯が沸いたのでタイマーをセットして麺をゆでる。ざるも2つ用意して、ゆでこぼさないように注意して、と名前は2つの鍋を睨む。

「ごめん、ネギなかった」
「あ、いいよ。夏油くん忙しいもんね」
「鍋私見るから名前はめんつゆお願い」
「え」
「鍋重いし熱いし。それくらいはやらせてよ」
「じゃ、じゃあお願いします。めんつゆ温かいほうがいい?」
「冷たいほうがいいな。氷はいらないよ」
「わかった」

器にめんつゆを入れて水で割るタイプかを確認して、割るタイプだったので水で割る。
少し濃いめにしておけばあとは自分で調節がきくからと少し濃いめにして準備をする。
本当なら水が切れるようにそれようのざるがあったほうがいいのだろうが、所詮は学生寮の共同キッチン。適当な器に茹で上がった麺を入れて2人で座って一緒に手を合わせてから食事にする。

「……名前からもらう蕎麦いつも美味しいけど、どこの?」
「え、知らない…もらいものらしいけど」
「私これ好きだから今度聞いてきてよ」
「忘れなかったらね」
「ひどいな、忘れないでよ」
「私そば興味ないからな…」
「うどん美味しい?」
「うん」
「一口頂戴」
「え、…」
「悟にはあげるだろ?」
「五条くんは奪っていくんだよ。でも、うん。一口ね、一口だけね」
「名前もそば食べでいいよ」
「もとは私のだよ」
「でも今は私のだし」

ははは。と笑ってお互いの麺を気持ち少ない一口分をもらう。

「うどんもいいね」
「そばやっぱり苦手」
「どこが苦手」
「んー、舌触り?」
「案外お子様?」
「ちゅるっとしてるほうが好きなの」

このコシの美味さがわからないかな。と名前も少し演技がかったように言えば夏油は笑った。
少しの雑談を含めながら食べ、2人で後片付けをする。

「また名前に助けられちゃった」
「ちゃったって…鈍くさい人間に助けられて大変不服です、という、アピール?」
「名前って、そういう馬鹿みたいに自己肯定感低いの何?」
「そう?」
「そうだよ。もっと自信もっていいよ」

まあ、考えておくよ。と名前が言えば、「善処してよ」と夏油が名前にじゃれるように蹴った。

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