呪術 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

「あった…」

ない、ない、ない!と思っていたリップが共同スペースのソファの下にあるのをやっと見つけた名前。
最後に使った時にポケットから落ちたのだろう。自室で散々探して最後に使ったのは、と必死に思い出してここにたどり着いた。
ここで本を読んでいて、唇が乾燥して塗り終わった時に五条に後ろから勢いよく押された時だろう。任務で給金が入り、あこがれだったブランドコスメで買った憧れのリップクリーム。
手を伸ばすが狭くて届かない。棒でうまい事とらないと奥に入って取れなくなってしまいそうだ。
仕方がない。と自室にある呪具を持ってきて、またそこで床に頭をつけながら慎重に隙間に入れていく、そう、その調子だ。と自分を鼓舞して。

「何してるの?」
「うわ!あ、あああ!!!!」

突如上からの声に名前は驚いて思わず持っていた呪具を突いてしまい、名前の大切なリップクリームは奥へ。

「ご、ごめん?」
「奥、行っちゃった…」
「何が?」
「リップ、落として…取ろうと思って、驚いて、奥いちゃって…どうしよう、取れるかな」
「ソファの下に?私ものぞいてもいい?」
「え、あ…うん」

床に頭をつけていた名前が頭を上げ、その場所を夏油に代わる。

「あ、もしかしてあれ?白いやつ?」
「それ。届かなくて…」
「はい」
「え、あっ」
「これでいい?」
「あ、ありがとう…でも、どうやって?手入らなかったのに」
「呪霊があるから。こっちこそ驚かせてごめんね」
「ううん、私が鈍くさいから…ありがとう、大切だったから」
「ブランドのやつだよね」
「初めてのお給金で買ったんだ」
「そっか」
「夏油くん、任務帰り?」
「そう。私1人で任務でね。おかげで夕食くいっぱぐれたんだ」
「………そば、食べられる?」
「え?」
「そば。私あんまり好きじゃないんだけど、実家から送られてきて。よかったら、食べてくれないかな。あ、本当、よかったらだけど……」
「いいの?」

うん。と名前が小さくうなづくと大きな声で「ありがとう!」と肩をつかまれた。

「いやー本当今腹減ってて。食堂も開いてないし食料部屋にもなくて実はここに何かないかと思って来たんだ」
「そ、う、なんだ…今持ってくるね」

リップクリームをポケットに突っ込み、呪具を抱えて急いで部屋に戻って仕送りできた段ボールを開ける。
そばが2袋。『もらったから食べなさい』と付箋に母の字で書いていあるのを剥がし、ついでにクッキーの箱を開けて3枚ほど一緒にもって共同スペースに戻って。「夏油くん」と声をかける。

「これ。あとこれも良かったら」
「え、いいのこんなのに」
「うん。1人だと食べ切れないから。あとお腹減ってるみたいだから茹で上がるまでの腹の足しにでもって思って」
「ありがとう…優しいね」
「こちらこそ、ありがとう。じゃあね、おやすみなさい」
「……おやすみ」

急いで部屋に戻る名前。
このリップさえあればどんな鈍くさい私も、芋である私も、少しだけ最強になるのだ。だってハイブランドのリップだ!とポケットから取り出したリップを手にベッドに横になる。
恐い同級生の男子だって、煙草に飲酒の同性の同級生だって。私だけが知っている私は最強に、少しだけなれるのだ。
ふふふ。と1人で笑ってポーチに入れて。それからベッドに潜り込んで携帯でアラームのセットをして入眠した。
翌朝はいつも通りに朝食を食べて準備をして教室に向かう。
昨日の時点で家入からは「私反転の関係でそっちいかないから」と言われていたので今日は1人かと思って教室に行けば珍しく夏油だけがいた。

「お、おはよう」
「あ、おはよう。昨日はありがとう、助かったよ」
「ううん、私も、ありがとう。五条くんは?」
「悟は寝坊。硝子は?」
「反転術式の関係でこっちじゃないって、昨日」
「そっか。ねえ名前」
「は、はい…」
「連絡先交換しようよ」
「えっ」

席について準備をしているときに言われて名前は思わず固まる。
いや、別に同級生と連絡先の交換くらいは普通だろう。家入とはしている。
でも男子2人とはしてない。だって理由がない、必要もない。それに今までそんなことを言われることはなかった。
それが何故今になって。

「…え?、な」
「私考えてみたら名前の連絡先知らないなって思って。知らないの私だけ?」
「え、あ……五条、くんも、知らない」
「じゃあ硝子は知ってるんだ。私とも交換しようよ」
「え、あ……そんな、いいよ。もったいない」
「なにが?面白いこと言うね」
「メ、メモリ、とか?」
「大丈夫、まだ連絡先入るから。それとも私とは交換したくない?」

うん。とはさすがに言えない。
えーっと、えーっと、とウロチョロと目を泳がせ、どうにか誤魔化せないかと画策する。

「あ、」
「うん?」
「呪具忘れてた…」
「午前座学だし平気でしょ?それで連絡先交換しようよ」
「………い、今まで、困って、ないし」
「これから困るかもよ?」
「硝子いる、から」
「いやなの?」
「夏油くん、今までそんなこと言ったことないのに、どうしたの?」
「昨日の蕎麦のお礼」
「…連絡先の交換が?」
「ん?色々と」
「色々?」
「色々」

・・・。
沈黙が流れる。
夏油はニコニコと力押しを決め込むつもりなのだろう、名前はただ黙って身を縮こませて耐えてはいるが時間の問題だろう。
この手のパターンは圧をかければどうにかなると思っているタイプの人間がよくする。

「ホームルーム始めるぞ、なんだ悟はどうした傑」
「寝坊だと思います」
「……名前、顔色が悪いが具合が悪いのか」
「い、いえ。なんでもありません」
「硝子は本日反転術式の実習を兼ねて公欠扱いだ、ケガするなよ」

はい。という声が重なってから本日の予定が読み上げられた。

/