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「苗字名前です、よろしくおねがいします」

吹いてしまえ飛んできそう、消えてしまいそうなほど小さな声ではないが、やはり小さい声だった。
春、入学式。少ない人数での入学式は名前にはとてもこれから4年間やっていく自信を喪失させるには十分すぎた。
中学の時にスカウトされ、いわれるままに入学した東京の高専。敷地は広く、それでいて人数はひどく少ない。
同級生の同性は1人、他2人は男子。
女子はまあまだ名前でも友人にはなれそうだと思えたが、男子のほうは早々に無理だなと判断した。
どうこうと理由をつける前に言えば本能が無理と判断したに近い。
2人とも無駄にでかい、等級とやらは特級。ガラが悪い。こわい。
よし、できるだけ近寄らないでおこう。触らぬ神に祟りなし。よし、これでいこう。と男子2人を見て即思った。
しかし4人というクラスの狭さはそれは無理だということも名前は理解している。
それでも、と思うことは悪ではないはずだ。

「硝子でいいよ」
「じゃ、じゃあ…硝子、ちゃん?」
「ちゃんなんかいらねー。こっちも勝手に名前って呼ぶし」
「う、うん…」

ぷかー。という擬音語が付きそうなくらい煙草をふかす家入硝子に名前は「あ、同性でも友達はもしかして無理かも」と思ったのは入学して2日目を待たずしてだった。
まさか同級生の唯一の同性が未成年で喫煙者だなんて知りたくなかった。
ほかにも先輩がいるはずだが今現在は京都のほうに行っているらしい。それは担任の先生が言っていたので一応情報としては知っている。
共同スペースでスパスパとタバコをくゆらせている彼女は名前がビビるには十分すぎた。

それから早数か月。
なんとか人となりもわかり、名前は頑張って仲良くしようなんということはせず、一線も二線も、三線もたくさん線を引いては一定の距離を持ち続けた。
ここに入学する前はわからなかったが、入学して勉強をして自分以外が規格外だという事わかってしまったからだ。
特級2人は例外中の例外だろう。
呪術界の御三家と呼ばれているうちのひとつの家の出で五条悟。六眼というこれまたすごい目を持っていて次期当主。名前の頭では凄く凄い事しかわからないが世界が違うことは理解できる。
もう1人の特級だって凄い。呪霊操術とやらで呪霊を操る。その数はすごいらしい。
そして同性の同級生の家入硝子は他人を治せる反転術式を使える凄い人。
その反対に名前はとてもしょぼいといっていいだろう。使えるのは結界術。担任の先生と相談して呪霊を結界で動きを封じて呪具で倒すという戦法だ。
いかんせん名前は一般人だったので体力だって人並、いや人並以下だった。体育なんて滅んでしまえという部類の人間で体育が何より嫌いだった。

「名前まだ走ってんの?遅すぎ」
「名前体育大嫌いだって言ってたし。これでも早くなったほう」
「マジかよ。雑魚じゃん」
「女の子で武器もって走るって大変だよ悟。付き合って一緒に走ってあげなよ」
「名前また泣くじゃん」

ははは。と体力づくりの一環の授業で校庭を走り終えた同級生が好きなことを言っているのが嫌でも名前の耳に入る。
名前以外は呪具を使わないが名前は呪具を使う。ならばそれを持つことが訓練であるとそれを持たされての走り込みだ。
呪具はガチャガチャと音を立てるし重いし、もている手は重いし痛い。
ぜーぜーと音が鳴る喉は乾燥と荒い呼吸で痛みを感じる。

「じゃあ私が一緒に走ろうか」
「お前ら体育苦手な人間の気持ちがわからないタイプだな」
「あ?」
「名前!私ら先戻ってるから終わったらおいでよ!」
「え、硝子?待ってないの?」
「薄情じゃん」
「馬鹿。こういうのは待ってないほうがいいんだよ」

ひらひらと手を振っているだろう家入に名前は武器を持っていないほうの手を振って了解を伝える。

「中学の時は一緒に走ると喜ばれたけど」
「それはお前待ちしてたんだろ、それ。名前はそういうの待ってないし期待もしてないだろ」
「てかあれでヒーヒー言い過ぎじゃね?あいつ」
「マジお前らクズだな。名前見て一般女子の勉強しろよ」
「硝子じゃないんだね」
「私は一般的じゃない自覚があるからな」

教室に戻り、各々が好きに過ごしていればやっと名前が戻ってきたかと思えば名前を一番に見た夏油が「え!ちょ、大丈夫!?」と大きな声を上げたので2人も思わずそちらを見る。

「みんなが行ったあと、転んで…」
「医務室行こう」
「いったけど先生いなくて…痛いけど大丈夫、平気」
「鈍くせぇと何してもダメなんだな」
「悟!」
「名前、まず傷口洗ってから治そう」
「い、いいよ…だって、大変なんでしょ?後で先生に言ってまた医務室行くし…」
「手当はしたほうがいいよ名前」
「夏油のいう事に賛成するは癪だけど。そのままだとばい菌入るかもしれないし。先生に言って医務室使わせてもらお」
「いいよ…」
「うわ、血落ちた。汚ねえな」
「あ、ごめ…」
「夏油、そいつ絞めとけ。あと名前医務室連れていくからあとのホームルームよろしく」

おら行くぞ。と家入が名前の上着の裾を引っ張って廊下に出れば点々と血が見える。
名前の頭を軽く叩き、「夏油、廊下もよろしく」と言ってうまく歩けない名前を見ながら医務室に向かった。

「携帯持ってなかった?」
「あるけど…」
「それで呼びなよ、その状態でよく教室まで来れたね」
「頑張った…」
「その頑張りを頼ることに使え。そんなひょこひょこ歩いてさ」
「……ご、めん」
「手、それ転んだだけじゃないんだろ」
「…転んで、呪具落として、切っちゃった…」
「やっぱり。出血の量が転んだ量じゃないんだよ」

今度そんな状態になったら五条か夏油に連れて行かせるからな。といえば名前は消えそうな声で「ごめんなさい…」とまた謝った。

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