呪術 | ナノ
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「今日も死にそうな顔してるわね……」
「いおり、さ……」
「また封筒なんて持って……え、封筒!?ちょっと、まって、まさか」

そのまさかです…と、前回同様に封筒を差し出す名前。
出されたからには受け取らねば、と思わずそれを受けとり、名前と封筒を交互に見てからごくりと喉を鳴らしながら中身を見る庵。
中の書類には「夏油名前を正式に1級呪術師とし、期日より東京にて任務を行え」という内容が書いてある。

「………………、あー…」
「今日、それ渡された……」
「おっはー!名前」
「「おぎゃー!!!」」
「おぎゃあって。あれ?歌姫も一緒?」
「な、なななななんでアンタ、五条がここに」
「それ」

庵が持つ書類をひょいと奪う五条。
五条自身は東京高専の所属だから京都に来ることが珍しいのだ。格好を見るにプライベートである、高専の服装ではなく私服だし何よりサングラスだ。

「名前くんを迎えにきましたー!イエーイ」
「イエーイ。じゃないわ阿保!!アンタね、名前くんの事考えてあげなさいよ!!可哀想でしょ!!」
「え?何が」
「今まで補助監督として京都にいて、それをアンタ達が好きに呪術師にしてさ」
「庵さん…!」
「名前くんはね、こっち京都で人気あるのよ!!補助監督としても人間としても。学生たちからは慕われ、呪術師からは頼りにされてるんだからね!」
「だから、なに?」
「…は?」
「だから、だから何?名前は傑の片割れで実際に呪術師としても才があって実力もある。こっちでリハビリさせてあげたじゃん。てか、名前の我儘聞いて補助監督させて京都にいさせてあげたんだから感謝してもいいんだよ」
「あ、あんたね……」
「名前、引っ越しは五条でやっておくから名前は今日僕と東京ね」

にい。と笑う邪気のない五条。
それに対して2人は「あー、五条ってこういう奴だった」とあきらめの境地になる。
庵は持っていた書類を名前に返し、名前の肩を叩いて「諦めた方が楽になるわ」と死んだ目で応援をする。いや、そういうしかないのだ。そして名前もそう言われるしかない事を悟った。

「急な話だけど学生には私が言っておくわ。三輪なんて名前くんから推薦が欲しいって言ったくらいには懐いてたんだからね」
「……うっす。俺、東京に行っても庵さんにしてもらった事は忘れません……!」
「何したの?」
「酒に酔った介抱してたら頭から嘔吐された事を」
「え、嘘!私そんな事したの!?何時!!」
「呪術師復帰した時、愚痴を聞いてくれると飲み屋で飲んだ時の話」
「割と最近じゃない!!え、嘘…いや、本当か…えー…ご、ごめん………」
「歌姫サイテーじゃん。服とか弁償してもらったら?」
「経費で落とした」
「さすが元補助監督〜」
「というのは冗談で」
「嘘かよ!!」
「いや、吐かれたのは本当。本当に申し訳ないんですけど、こっちの人たちによろしく…挨拶する暇さえない、五条が居るって事は本当即東京なんで」
「そうね……」

じゃ。と案外あっさり五条に連れて行かれる名前を見送る。
あっさり、とは思ったが諦めに諦めを重ねた結果だろう。呪術の世界にきて10年以上だし、あの五条との親交…と言っていいのか不明だが交流も10年以上なのだ。どれだけ文句を言っても通じないなんて日常茶飯事。諦めた方が精神的にも楽だと言う事を無駄に悟っている。


「ということで、夏油名前1級呪術師は五条悟特級呪術師に連れられて東京に行きました」

と補助監督やら学生に報告をする庵。
これも最後に見送った人間の役割だと割り切り、学長に補助監督の長にと言って回る。勿論受け持ちの学生を筆頭に見かけた学生。
割と夏油名前という人間は人望があったのだろう、庵が思う以上に皆が残念そうに溜息をついていた。

「名前さん東京行っちゃったんだって」
「そう。なかなか悪くない補助監督だったのに残念だわ」
「私、復帰直後にメカ丸と名前さんと一緒の任務だったんだですよ」
「それ何度も聞いた。名前さん超カッコいい!でしょ?私も一緒の任務したし」
「私も。まあ悪くはなかったわ」
「でもさ、名前さんあんなに強いのになんで補助監督なんだろ」
「確か…東京の双子のお兄さんが特級なんですよね。夏油傑特級呪術師。そっくりなんですよねー」
「双子だなんて。呪術師にとっては凶兆なのに特級と1級なんてふざけてるわ」
「交流会でみたあの黒髪長髪の先生でしょ?私名前さんの方が好き」
「わかります!私も名前さんの方が好きです。勉強教えてくれるし、たまにお菓子くれるし」
「優しいのは認めるわ。顔も悪くないわね、気遣いが出来る所もポイント高いわ」
「「わかるー!」」

昼休み、女子が教室で話しているのを廊下から聞けばまあ女子。という内容だと庵は思った。
確かにあのくらいの年ごろの女の子、そういう話をするのも悪くないだろう。
双子の片割れと同じ顔なのだから塩顔イケメンに分類されるのもわかるし、人間関係円滑しておけば大抵の事は切り抜けられると言っていた名前だから物腰は柔らかかった。

「あ、先生」
「名前さん東京黙っていくなんて酷いですよね」
「五条家当主の引き金でしょ?あの当主ワンマンだから好き勝手だし、あの人も可哀想よね」
「あ、でもでも。名前さんが東京だってことは、任務ととかで東京に行ったら会えますね!案内も!!」
「確かにー!」
「ちょっとちょっと。はしゃぐのは良いけど名前くん呪術師として東京にいるんだからね、節度持ちなさいよ」
「あ…そう、ですね。それに名前さん1級ですし」
「だいたい1級の呪術師が私達みたいな学生の相手してくれるわけないじゃない。補助監督だったから構ってくれてただけよ」
「真依、そんなこと言ったら駄目ですよ」
「そーそー、真依ちゃんなんだかんだ言って名前さんからお菓子貰うと嬉しそうにしてたの私ら知ってるんだからね」
「な…!そんなことないわよ!」

えー?という女子2人からの疑う声に真依は思わずこぼしてしまった。

「し、仕方ないじゃない!大人の男の人がお菓子なんてくれたことなかったんだもの!」
「「「真依(ちゃん)…!」」」

人間関係の為のとはいえ、案外良い奴だったな…と庵は思った。

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