呪術 | ナノ
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「失礼します。夏油さま、名前さまがお見えです」

夏油傑が猿と嫌悪する非術師との会話の最中、秘書である菅田真奈美がひっそりと耳打ちをする。

「おっと、すみません。用事が入りました」
「ま、、待て!夏油!!」
「ではまた今度、それでは」

適当、いや強制的に話を終わらせてその部屋をでる為に立ち上がる。
今相手をしていたのは金持ちの社長で、言えば金回りの良い、傑でいう猿である。
猿は嫌いだが生きていくには金がいる。この世は猿が多い、仕方がないから利用してやろう。という魂胆ではあるが、まあ面倒だ。
袖に縋ろうとする手を振り払って、菅田真奈美に後を適当に任せて戸を閉めて、名前が居るであろう客間に急ぐ。

「姉さん」
「あ、夏油さま」
「今会談中じゃなかったんですか?」
「美々子、菜々子」
「今ね、夏油さまがまだ来れないからって名前さんとこの前クレープ食べてた時の写真見てたんですよ」
「美々子、名前さんが持って来てくれたお菓子食べちゃったの」
「あー、何でいうの菜々子」
「はいはい。姉さんから貰ったお菓子はいいから、ちょっと席を外してくれるかな」
「「はーい」」

名前を真ん中に左右に座っていた双子。
美々子が自分のスマホを名前にこの前の出先で人気のあるクレープを一緒に食べた時の写真を見せていたらしい。
女性3人で楽しそうにしていたのがよくわかる。

「じゃあ、またね名前さん」
「夏油さま、終ったらまた名前さんとお話していいですか」
「もちろん。姉さん、この後は空いてる?」
「うん」
「じゃあ食事でも一緒に行こうか。美々子も菜々子も」
「約束ね!」
「帰っちゃ駄目ですからね、名前さん」

ぱたぱたと足音を立てて双子は部屋をでる。
それを見送るとやっと名前の前に座る。名前の目の前には双子が準備したのだろう、お茶と菓子が置かれている。

「騒がしかったね、それで姉さんが来たって事は依頼かな」
「そういう事。これ五条くんから」
「まったく…姉さんも姉さんだよ、こんな子供のお使いみたいな事して…」
「じゃあ傑も補助監督が来ても追い返さないで」
「そうしたら姉さん来てくれないじゃないか」
「どっちが子供かな…」
「姉さんも高専なんて辞めて私とこっちで呪術師やればいいんだよ、フリーの方が稼げるし。美々子と菜々子も喜ぶだろうし」
「あのね傑。傑があんな風に高専から出たから五条くんが色々してくれて、おかげで私は五条くんの世話になったんでしょ…」

言えば高専とはケンカ別れの様に出て行った弟の尻拭いをしてくれた五条には背けない、と言わんばかりである。実際そうなのであるが。
色々あった事は割愛し、それでも高専の名前を出さずに「五条から」という体で任務を持ってい来るのだ。ケンカ別れしたとはいえ、特級は特級である。
渡された封筒から任務の書類に目を通してみるが、これをわざわざ持ってくるには程度が低い。

「これ特級の私に?」
「ごめん、内容まで私聞かされてないからわからない。難しいの?」
「逆だよ、この程度2級の呪術師で十分だと私は思うよ」
「人手がないの。本当なら私だって任務の予定だけど、傑の所にコレを持って行くっていうのでオフになったし」
「ふーん?悟の奴、断れないように仕向けたな」
「代わりの七海くんが酷い顔で五条くん睨んでたんだから」
「七海は二言目には『労働はクソ』だからね」
「その割に真面目だから、ちょっと心配しちゃう」
「うーん、今度七海を勧誘しようかな」
「やめてあげて」
「給料高専よりあげるけど」
「それより、美々子ちゃんと菜々子ちゃん高専に預ける気ない?」
「ないよ。姉さんが居ても駄目」
「五条くんが誘ってって。まあ駄目って言うと思ってたけど」

ふう。と溜息をついて名前がお茶を一口。
姉弟ではあるが、姉である名前は高専では少しだけ肩身が狭い。
1級という等級ではあるが、特級である弟は高専とケンカ別れして所属している高専に迷惑をかけている。同じ高専で働いている人間はそうではないが、上層部には嫌な意味で目を付けられているのは確かだ。
弟の親友である御三家の五条家当主である五条悟にはその件では色々世話になり、今では我儘を聞かなくてはいけない関係になってしまっっている。

「で、任務受けてくれる?」
「姉さんのお願いだしね、嫌だけど受けるよ」
「ありがとう。五条くんがこっちに来てほしいって言ってるよ?戻らないの?」
「戻るわけないよ、姉さんだってわかるだろ?私高専とやり合ったんだから」
「おかげで私は上から酷い事されたんだから。わかってる?」
「前にあの悟に叱られたよ。私としては姉さんにこそ高専辞めてほしいんだけど」
「…堂々巡りだから止めようか」
「………そうだね」
「今1年に式神使いの子がいるから傑に見てほしかったんだけどなー」
「ああ、伏黒恵くんね。話には聞いてるよ。あの男の子供ね」
「可愛いよ」
「私より?」
「傑は可愛いと言うより美人だから」
「姉さんには負けるよ」
「そうやって信者の女性落としてるの?」
「やめてよ、冤罪だよ冤罪。私猿には興味ないよ」

へえ?と名前は意味ありげに笑う。
此処は言えば宗教団体である。その教祖が夏油傑。ここの出入りを許されている唯一の高専関係者となるのが名前である。
補助監督は出入口で入場が拒否され、呪術師は戦闘を余儀なくされる。こんな一般敷地内で意味もなく戦闘行為をする事は許されていないし、まして特級の配下である土地にわざわざ喧嘩を売りに来る理由もない。
故に名前が五条経由での依頼を持ち込むのだ。
その際に「今日の夏油さまも素敵だった」とか「夏油さまはなんてお優しいのかしら」とか、女性の信者が話しているのを聞いているのだ。たまにそこに混じって弟がどんな感じなのかを聞きつつ、それを五条に報告しているのだが。
一緒に食事に行って話して2人でケラケラと笑っているの秘密だが。

「そうだ姉さん、悟と一緒に食事に行くのは止めてくれない?」
「え?」
「一応は悟五条家の当主だろ?変に噂があると困るんだ私」
「噂も何も、私なんて五条派に勝手にされてるからな…可愛い可愛い弟のおかげでね」
「…ぐ。それは私が悪かったけど」
「七海くんはいいの?伊地知くんは?」
「七海はまだ許せる。伊地知って誰」
「3つ下の補助監督。傑の2つ下の子」
「…記憶にないな」
「伊地知くんも関わりが無かったって言ってたしね。傑は、私の人間関係に口出しできる立場じゃないの。おわかり?」
「こうなったら高専とやり合おうかな…」
「やめて。」
「姉さんは私と高専どっちが大切なの」
「言わないとわからないの?」
「……ずるい…」

ぐう。とわざとらしく胸を抑える仕草に名前は思わず笑う。
まあ実際のところ、お互い冗談を言い合っているようなものなので任務の話以外は。
終わってしまえばもう血縁者。久しぶりに顔を合わせての雑談である。

「ところでご飯何が良い?予約取るから」
「んー、特に食べたいものないから…美々子ちゃんと菜々子ちゃんが食べたいものでいいよ」
「そんな事言うとタピオカとかになりそうだから止めようか。真奈美さんに適当に取ってもらうけどいいかな」
「自分じゃないんだ」
「だってこういうのは女性の観点がいいでしょ?姉さんに喜んでもらいたいし」
「そうやって丸投げするの五条くんと一緒。後で菅田さんにお礼と謝らないと」
「…なんで?」
「弟がご迷惑をかけてますって。そうやって真奈美さんに甘えてたら駄目だからね」
「仕事の範囲内だよ」
「範囲外だと姉さんは思います」

えー。という普段の教祖様からは想像できない声と態度が漏れた。

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