呪術 | ナノ
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「あ!えーっと、名前さん!!」

任務が終わって疲れたと思い、学生も利用する自販機コーナーでお茶を買って飲んでいると聞き慣れない青年から声を掛けれ、名前は取りあえず会釈をする。
見ればいつか見た義兄の受け持つ男子学生である。
確か名前は「いたどり ゆうじ」、宿儺の器であると伊地知が言っていた。
性格はとても人懐っこく、名前さんも機会があれば仲良くなるかもしれませんね。なんて言われていたのを思い出した。

「任務終り?」
「え、ああ……は、い」
「あ、俺虎杖悠仁!五条先生が担任で、今1年!」
「五条、名前です」
「知ってる!この前聞いたから。俺これから先生に稽古付けてもらうんだ」
「そ、そう…なの」
「そ。あ、先生に会っていく?」
「いいえ」
「即答!先生がね、名前さんと仲良くしたいって言ってたよ」
「結構です、お断りです、死んでも嫌です」
「……嫌われてるぅ…」
「特級と同じことをしろと言うのが間違っているでしょあの男」
「まじで?それは…無理だよな」
「でしょ?」
「……なんだ、意外と話やすいじゃん名前さん」
「………君が、懐っこいからでしょう。私、こんな風に話掛けられることないから」

事実である。
五条悟の義妹という事を抜いても、去年まで呪詛師に捕まっていた呪術師など腫れもの扱いだ。相手があの夏油傑だということを引いても、まず呪詛師に良いようにされていた呪術師なのだ。同じ術式だからこそ、特級と1級では大きな差がある。それを理解しているのば1部の人間であって全員ではない。
名前を馬鹿にする人間だっているだろう。

「じゃあ強くなればいいじゃん」
「……簡単に言ってくれるのね。上から見るのと下から見るのでは印象が違うでしょう?」
「でも、差は同じだろ」
「…、時間はいいの?あの人が時間通りに居るとは思わないけど」
「あ!そうだった。また来る?」
「………え?」
「あ、高専所属だからまた会えんね!またね!」

バイバーイ。とあまりに元気よく手を振るものだから名前もつられて手を振ってしまった。
手を振るなんて。と思わずあげていた手を見る名前。
そういえば、そんな事をしたのは夏油に捕まっていて、そこに居た女の子たちにした以来だ。あの子たちは今何をしているのだろうとふと思い出した。
あそこでの暮らしは悪い物ではなかったもの事実。まあ夏油がいるだけで正直居心地が悪かったのはあるが、あそこでは呪霊を取り込まなくてよかったし、任務もない。遠くに見る人間が呪霊を連れてくるのを眺めたりしていた程度だった。
あそこで一応は夏油に大切にされていた自覚はあるが、前にやられた事を思い返すと好きにはなれない。
ミゲルは確か乙骨という遠縁の男の子の子守りに使われているのは誰かから聞いた。

「おや、名前さん。どうしたんですかこんなところで」
「…あ、伊地知くん」
「帰らないんですか?任務が終わってお疲れでしょう?」
「うん…帰ろうと思うんだけど、さっき、いたどり、くん?に話掛けられて、」
「虎杖くんに?彼凄いでしょう?」
「うん。凄かった、驚いた。フレンドリー過ぎない?」
「名前さんが言うんですから、やっぱり凄いんですね」
「手振って『バイバーイ』って、思わず振り返しちゃった」
「仲良くなったんですね」
「いいえ、まったく。ちょっと話して、バイバーイって」

え、それだけで?と伊地知が聞くので名前は頷く。
ここに七海が居れば年上に対してその態度はなんだという説教が始まりそうである。
しかし幸か不幸か彼は不在である。
今居る二人が「若いから?」「いえ、彼の性格ですよ」「七海さんをナナミンなんて呼ぶし?」「ご、ご存じで…?」と無駄に小声で話す。

「…呪術界にそぐわない子」
「そうですね、私も同感です」
「私に尻尾を振っているってわけでもないし。馬鹿ね」
「ばっ!?」
「だって私に尻尾振って死刑をどうにか!って事かと思ったけど、全然みたいだし。まあ私に尻尾振ってもなんのうま味もないけどね。私とクソアニキは仲悪いし」
「口が悪いですよ…」
「伊地知くんだけだよ、まだそんな事私に言うの」
「そう、ですか?」
「そうだよ」

ふふふ。と名前が軽く笑う。
名前がこうして話せる相手はここでは伊地知くらいだ。京都であれば先輩にあたる庵歌姫がいる。京都に居た時には「五条の妹だなんて可哀想」と色々と気にかけてくれたり、外に連れて行ってくれる良い人だった。
今はもう義兄の目の届く範囲に、ということで東京を中心に呪術師として活動しているので会う事は極端に減ったが、それでも名前にとっては良い先輩である。

「この前の交流会で久しぶりに憲紀にあったんだ」
「え、そうなんですか」
「たまたま。大きくなってびっくりしちゃった。私夏油さんに捕まっている間、結構長かったんだなって」
「……私は、夏油さんあまり関わりが無かったので」
「そっか。私なんて捕まってたからありまくりだよ、面倒な事に!去年だって大変だったんだから」
「そうですね、私達も大変でした」
「お疲れ様です」
「ははは」

すると名前のポケットからヴーヴーとスマホのバイブ音が聞こえる。
どうやら高専に迎えが来たらしい。それを察した伊地知が「お疲れ様でした」と帰る様に促した。

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