呪術 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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「名前さん!」
「…あ、憲紀?久しぶり、大きくなったね」

報告書、および任務の関係で高専に行けば今日はどうやら交流会らしい。
ここに京都校が来ているというのは去年東京が勝ったのか。という程度の感想しかなった名前。そもそも去年の今頃は夏油に誘拐されている最中で高専の様子などは全く知る事が出来なかった。
今日来てやっと「ああ、交流会。そんな物もあった」と思い出したくらいに。
確か先輩である庵歌姫が教師をしていたし、自分に懐いていた憲紀も高専に入ると言っていたから…今何年生だろうか。と思いながら廊下を歩いていると懐かしい様な、それでいて違和感のある声で呼びとめられた。

「…、戻って、来られたんですね」
「戻る?京都には戻れないと思うけど…あ、憲紀今何年生?身長伸びたね、何センチ?その格好…個性的、だね」
「違います、呪術師から解放されて復帰されたという事を言っています!今3年、身長は180くらいです」
「そっか…大きくなったね……何年振りだっけ」
「え……それよりも!どうして連絡してくれないんですか」
「私一応五条家の人間だし、憲紀の連絡先知らないし。でも報告で知ってるでしょ?」

変な子。と名前は笑って歩き出す。
報告書を出さなければいけないし、任務だってある。
怪我をしているのは気にはなるが、交流会だ。殺さなければいいという不文律があるくらいには物騒な交流会で無傷の方がおかしいのだ。
出来ればもう少し名前自身憲紀話しをしたいが、ここは義兄がいる。あの義兄は加茂家の嫡男と名前が親しくするのがあまり気にくわないらしい。
東京校の方に連れ戻された時に言われているから間違いはないだろう。
名前からしてみれば懐いていた子を少し構うくらいは許してほしいが、あの義兄に文句言われるのは苦痛である。

「待ってください、」
「ごめんね、任務があるの」
「話す時間さえもないんですか」
「ちょっとね…京都校の子が東京高専のこんなところに居ていいの?」
「庵先生を探していたんです、そこで名前さんを見つけて」
「あれー?名前、なにしてんの?」
「義兄さん…任務の報告書の提出と任務です」

うげ。という言葉が名前の口からポロリと出てしまったが取り繕う。
もう10年以上義兄義妹という関係ではあるが、10代の頃の恨みやら関係やら、その他諸々で名前は義兄が嫌いである。勿論感謝する部分はあるにしても、好きになれない部分があまりに多い。
立ち止まり、軽く義兄に頭を下げてすぐに逃げようとするが空気の読めない憲紀が「五条家当主」と声を掛けた。

「うん?何かな加茂家嫡男の加茂憲紀くん」
「義兄さん、そんな言い方」
「名前さんと少し話がしたいのですが、名前さんはそんなにも忙しいのでしょうか。京都に居た際にとてもお世話になったのでお礼もかねたいのです」
「あー君だっけ、名前に懐いてたって子。うんうん、そういえば加茂の当主に言われた事があったわ。名前少し時間あげなよ、急ぎなの?」
「報告書の提出、任務まで15分程度ならあります」
「15分あれば名前なら余裕でしょ?普段時間守ってる名前だなら多少遅れても許してもらえるよ」
「15分も要りません、では名前さん、場所を変えましょう」
「え」
「僕同伴するけど?」
「は?」
「だって名前は家の呪術師だよ?御三家である加茂家嫡男とはいえ、名前の彼氏でもないんだし。一般人ならまだしも呪術師は駄目でしょ」

それとも僕がいると何か不都合ある?とアイマスクで表情は伺えないが、可愛らしく小首をかしげる格好は実に名前の癪にさわった。
しかし名前も一応は大人である。ここで憲紀を引っ張って行こうものならいい口実を与えるのはわかっている。名前はひとつ咳払いをして「ここで問題ないなら、ここでいい?」と諦めた声色で問うた。

「…お元気そうで良かったです、もう京都には戻られないのですか」
「京都もいいんだけど…」
「あれ?名前京都好きだったの?」
「ええ」
「……ごめんねー?ほら、一応名前は僕の妹だからさ。こっちの方が都合が良いんだよ五条家としてはさ。あっちに置いておくとお爺ちゃんがなかなか名前に会わせてくれないし」
「…そうですか、残念です。あれから鍛錬を重ね、色々成長した姿をお見せしたかったのですが。では高専を卒業し、こちらでの一緒の任務の際はよろしくお願いします」
「…うん、待ってる。ちゃんと勉強してね」
「はい」

では。と一礼して庵探しをするのだろう、憲紀は去っていく。
それを見送り、名前はまた大きく溜息をついて少し後ろに居る義兄に「これでいいですか」と声を掛ける。

「うん?」
「憲紀を威嚇する事ないじゃないですか。まだ学生なんですよ」
「別に威嚇なんてしてないよ。僕はただ名前は京都でどんなだったのかなーって。まあ加茂家の当主からは聞いてたから、嫡男とはどうなのかと思ってね」
「年の離れた弟の様なものです。昔は私より小さかったのは覚えていますけど」
「うわ、ひっど。それだけ?僕が聞いてるのは結構懐かれてたって話だけど」
「身の上話をしたら懐かれただけです、仲間意識が芽生えたのでしょう。では私はこれで」
「あれ?あ、任務だっけ」
「はい。報告書の提出もかねていますので」
「……名前も青春らしい青春なかったもんねえ」
「何が言いたいんですか」
「いや、奪って悪い事したなーって思っただけ。じゃあね」

ヒラヒラと手を振って、長い脚で散々名前を引きとめた男が去ってゆく。
意味が解らない。と名前はまた溜息をついて報告書を提出しに歩き出す。
名前に青春というものに未練はないし、羨ましいと思う事もない。
親に売られた身である、やるべきことをしていただけだ。奪ったのは義兄ではない、だから謝られたところで名前には何もないのだ。

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