呪術 | ナノ
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※アンケートより
※ジルコニア主


「どおして、名前ちゃん、おおきいのお?」
「…里香ちゃん、だって大きいよ?」
「そおじゃないのお、」

まえと、ちがって、おとなみたい。
特級過呪霊、折本里香。同じく特級呪術師の乙骨憂太についている呪霊。
そして五条名前が五条となる前に友人だった女の子。
乙骨憂太と同じ任務に就いたおり、里香が何かしらの影響で顕現して名前を見つけてまじまじと見て「名前、ちゃん?」と、それが11歳の女の子であれば実に可愛らしく小首を傾げたのだ。

「けが、してるねえ」
「うん」
「憂太あ、名前ちゃん、けがしてるのお」
「里香ちゃん…」
「あれが、したのお?あれ、憂太と名前ちゃん、いじめるのお?」

帳が降りた夜の中、数体の1級呪霊がゆらゆらと揺れてこちらを視ている。
特級である乙骨がいるとはいえ、学生である。まして名前はまだ1級ではないし、上級生と言えどこれほど危険な任務にあたる事はなかった。
手違い、いや、折本里香を理由に処分したい「誰か」が仕組んだのかもしれない。



「………ゆ、め?」

ピピピピピとけたたましく鳴るスマホのアラーム。
ほんの数秒ぼーっとしてからアラームを止め、居心地のいいベッドの中で伸びをひとつ。
夢の中で負った怪我のあった場所をさするが案の上何もない。血が付着することも、生臭い匂いも。
そもそも名前は呪霊になった里香とは会っていないし、なにより呪霊となった里香がこうもコミュニケーションがとれるとは聞いていない。
だから夢、だからこそ夢なのだ。
それにもう折本里香は、成仏しているのだ。

「おはよー」
「あ、おはよう名前ちゃん。今日遅かったね、任務だったの?」
「ううん、ボーっとしすぎちゃった。憂太くんもこんな時間でここで会うなんて珍しいね」
「僕これから任務で。寮に戻ってからまた来たから」
「大事な刀忘れた?」
「…うん、実は」

寮から校舎に行く途中、この時間であれば普段合わない姿が見えて挨拶をする。
名前よりも背が高くなった、幼いころの友人。
名前が声かければ脚を止めて名前が来るのを待ってくれていた。

「名前ちゃん朝弱かった?」
「んー、今日は夢見ちゃって」
「夢?恐い夢でも見た?」
「里香ちゃんの夢」
「里香ちゃんの?」
「呪霊になった里香ちゃんの。おかしいよね、私呪霊になった里香ちゃんに会ってないのに。夢でね、里香ちゃんと会話ができるの」
「……うん」

クリスマス・イブに里香は成仏をした。そう、里香が呪っていたのではなく乙骨憂太が彼女を呪っていたのだという事実が判明して、憂太が里香を解放したのだ。
里香がいなくなって特級だった乙骨は今は4級。白かった制服も他の学生と一緒で黒になった。

「今日は寒いねー」
「う、うん。そうだね。今日は任務あるの?」
「午後から日下部先生とあるよ。午前中は座学」
「ところで2年生って今名前ちゃんだけ?他の先輩は?」
「百鬼夜行でトラブル起こして今休学中。何してるんだろうねー」
「寂しい?」
「んー、ちょっとだけ。まああの2人は2人の世界があったからなあ…あ、でも私も仲悪いじゃないからね?男は男同士の?仲?同性間でしかない?なんていうの?共有部分?みたいなの?があるし」
「う…ん?」
「寂しいけど、1年生には憂太くんも棘くんも真希もパンダくんもいるし」
「ははは、そうだね」

喋りながら歩いて昇降口について少ない靴箱で一緒に履き替えて教室に向かう。
2人の話し声が聞こえたのか1年の教室から2人と1体の顔が出てきたので名前は手を振る。

「今日は遅かったな名前」
「ちょっとぼんやりしてたら遅くなっちゃった」
「明太子」
「おはよー」
「名前さんと一緒に来るなんて生意気だぞ憂太」
「えええ……真希さんそんなあ…」

あはははと笑って名前は自分の教室に向かう。
ホームルームまではまだ時間があるし、ホームルームと言ってもたった1人に対しての連絡事項などたかが知れているというもの。まして比較的素直である、担任である日下部も名前の義兄である五条悟と比べて「お前、本当良い子だな」と言われるのだ。

「おー、おはよう」
「おはようございます」
「じゃあ今日の予定だが昨日言った通り午前座学、午後から任務な」
「はい」

じゃ。と切り上げようとした時だった。
1年の教室の方から「ガシャン」だの「ドシャン」だのと大きな音がしたのだ。
それに対して2年の教室の2人は「またか」という顔をして様子を見に行くこともなく、2人は溜息を洩らした。

「お前の義兄どうにかならんの?」
「一応当主なので…」
「……お前も大変だな」
「私は別に。2年になったら担任は日下部先生なので、やったー!って感じです」
「ちょっと名前ちゃん!?それどういう意味!?」
「げ!」
「五条よ…ここ2年の教室。お前1年担任だろうが。あとさっきの音なんだよ」
「それはもう終わった事だから気にしない。で、名前…僕が何だって?」
「とっても頼りになる当主で義兄さんだなって日下部先生と話していました」
「その手の平の返し、嫌いじゃない!」

じゃあね!!と教室の窓から顔を出して好き勝手喚いて出ていく最強。
このやり取りも言えば数週間に1回はあるので日下部も慣れたものだ。ちなみにあの最強は名前を自分では構っているつもり、らしい。一応は義妹という関係から気にかけているのかと思えば名前曰く「玩具とられたくない子供精神では?」と逆に冷静である。
日下部は溜息ひとつついて「じゃあこれから一般教養の先生くるから準備しておけよ」と頭を掻きながら出て行く。
それから順調、いや平和に午前が終わり、午後の任務も問題なく終了して名前が寮に戻ると、共同スペースに1年の3人と1体が。

「あ、名前さんお帰り」
「任務だったんだろ?飯は」
「帰りに日下部先生と補助監督さんと食べてきたよ、ただいま」
「高菜!」
「……なにしてるの?棘くんと憂太くん」
「ああ、憂太がなーんかウジウジしてっから棘が絞めてんだよ」
「へ、へえ………」

床でギリギリと音がでそうな程狗巻が乙骨を締め上げている。真希ではない分、まあマシなのだろうなというのが名前の感想である。
ニコニコとしている狗巻に対して乙骨は「おかえり」という言葉に全て濁点がついて、ついでに小さい声量で名前の耳に微かに聞こえる。

「……大丈夫?」
「しゃけ!」
「いや、棘くんじゃなくて」
「いーんだよ、気にしなくて。今日ウザかったんだから」
「そうそう。ずーっと溜息ばっかりで、人が聞けば『なんでもない』ってな」
「…そう、なんだ」
「名前は着替えて来いよ、悟が要らないってくれた菓子あるぞ」
「え、先生がお菓子を!?」
「なんか本家から来た菓子らしい」
「あー、お上品な甘さの?なんか納得。じゃあ私着替えてくるね、あと棘くん。そろそろやめよう?」
「……おかか」
「嫌かあ…」

小さな呪霊を出して狗巻の頭の上で跳ねさせて注意を引かせてから名前は自室に着替えに戻る。ついでに持っていた荷物を置いて、簡易的な報告書のメモを書いて。
着替えながら本家から来たお菓子に思いをはせる。
本家からの食べ物は基本的に美味しい。なんと言っても御三家のひとつである、中途半端な菓子なんてもってのほか。まして当主であるあの五条悟が甘党なのだ。
ただ高級品は大抵甘さ控えめ、言えばお上品なお味で義兄には「薄!!」と言われる。本人は甘ければいい、というのかわからないが、どうせ甘いならもっと甘くしてよとこぼしているのを名前は前に聞いた事がある。だからと言ってその時食べていたお菓子をくれたわけでもないが。
たまに名前が外で買ってきた菓子を食べていると横取りされることはあっても、自分のをくれるのは非常にまれである。年1あればいい方だ。

「あ、解放されてる」
「う、うん…ありがとう名前ちゃん…」
「名前さん、これ、悟の」
「あ、これあそこのだ。これ私好きなんだー」
「美味かった!」
「しゃけー」
「で、憂太くんは何をそんなにウザがられたの?」
「え……あー……うん」
「うざ!!」

パンダと名前の声が重なって「真希…」と呟く。
まあ名前は戻って来てからの事なのでまだウザいとは思わないが、同級生にここまでされるのだからさぞかしウザかったのだろう。
ウジウジしすぎた。というかもしれない。
パンダでさえ「あーもう」と困っている。

「今朝、名前ちゃんが夢見たって話を聞いて」
「夢?」
「名前さん何の夢見たの?」
「里香ちゃんの夢。呪霊化して、なのに会話ができる夢を見たんだって、今朝憂太くんに話したけど…え、それ?」
「…高菜?」
「だって………名前ちゃんの夢にはでるのに、僕の夢に出ないなんて」
「え」
「うっわ………思った以上にくだらねえ…聞くだけ損した」
「しゃけ」
「だな。名前、どれオススメ?」
「え、あー……これかな。憂太くんも食べよう?せっかく先生くれたんだし」
「おかか。明太子、昆布」
「そうそう、憂太にやることねえよ名前さん、心配して損した。よって憂太のなーし!」
「そうだな!!俺らで食べようぜー」
「しゃけしゃけ」

この2人と1体がここまで言うのだから、さぞ心配したのだろうというのは名前もわかる。そしてその原因が名前の言葉だったという事も。
ただ、原因が夢だというのだから気が抜けてしまったのだ。それも嫉妬だ。

「ここまで行くと憂太も馬鹿だよな」
「そう言ってやるなって、馬鹿だけど」
「しゃけ!!」
「うん……そこまで行くと馬鹿だよね…」
「うう…酷い。僕だって…」
「重いんだよ」
「重いな」
「重いね…」
「しゃけ」

床でめそめそうなだれる乙骨を全員で囲み、お菓子を食べながら次は誰が切れるだろうかとお互いがチラチラと目配せをしていた。

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