呪術 | ナノ
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「七海くん、久しぶり」
「…名前さん、お久しぶりです。出張、ですか?」

違うよ、交流会のお供だよ。と夏油名前は面倒くさそうに笑った。
引率の手伝い、というのが正確なところかもしれない。
京都校に属している名前は楽巌寺学長と庵歌姫教員の手伝いで来たようなものだ。
前回は前回で大変だったのだが。

「君、ナナミンって呼ばれているんだって?」
「…………、誰から」
「本人だよ、あの宿儺の器の。えーっと、虎杖悠仁、だったかな」
「彼に会ったんですか」
「昨日の夜ね。五条と飲みに行こうかって離してる最中。まさか…き、みが…な、ナナミン…ん、ふは」
「引っ叩きますよ」
「ごめんごめん」

報告か何かで高専に来ていた七海を捕まえてちょっと付き合えと自販機コーナーへ歩きながら話して、名前は「ナナミン」という呼び方にまたツボにはまる。
隣からは盛大な舌打ちが聞こえ、まあ気に入ってないのは気づいていた名前ではあったが辞めさせない辺り七海の子供への甘さが見える。

「いいんですか、仕事は」
「あー、いいのいいの。今学生達野球してるから」
「…は?」
「や、きゅ、う。ベースボール」
「聞こえてますよ。今日は確か交流会の2日目でしたよね」
「そ。五条が細工したんだよ、あれは絶対。ブラックでいい?」
「ええ。それで名前さんは何もしなくていいんですか」
「だって野球だよ?私が何するのさ、庵さんが無駄にやる気だしてるし?楽巌時学長は夜蛾学長と話してるから私は近寄れないし。車の運転もないしね」

ガコンと音を立てて出てきたアイスのブラックコーヒーの缶を投げて渡せば見事にキャッチされて「ありがとうございます」と一礼して蓋が開いた。
そもそも名前と七海建人は出身校は違うので交流があまりなかった。
しかし七海が呪術師に復帰して京都への出張や任務で話す様になり、まあ仲はいい方だろう。七海も名前の双子の兄である傑とは色々あったらしい。

「復帰、されないんですか」
「五条にも言われる。でも今更できないよ、ブランクあるしね」
「上の決定には無駄な物が多い」
「ふふ、同感。君も言うね」
「名前さんのお兄さんは確かに特級でしたが、名前さんはいけても1級じゃないですか」
「双子で特級か…なかなか夢がある。まあ私は傑程の才能はないからね」
「万年人手不足の業界のクセに」
「プライドと自分の保身が大切なのさ、実に人間らしい…いや、猿か?」
「…っ」
「どう?傑に似てた?似てた?」
「……最低です」
「ははは。これ五条の前でやったら殺されちゃうよね」

同じくアイスコーヒーのブラックをの蓋を開けて名前は1口、2口と口をつけて飲む。
軽く笑う名前に対して七海は酷く複雑そうな表情をしているのを名前は横目で見る。
名前自身、傑と五条が親友だったのは知っている。しかし目の当たりにしたのは少ない。なにせ東京と京都である。まして寮に入っていたのだからお互いの生活は見えそうで見えない。電話やメールで聞いていた者と、目で見ていた者では認知に差がでる。
だから、その七海の複雑そうな表情はソレなのだと名前は思った。

「あ、伊地知くん」
「へ、あ…?なにして…七海さんまで」
「私が無理矢理ね。伊地知くんも一緒にコーヒー飲まない?缶だけど」
「あ、いえ…私は」
「なんだ、私とコーヒーが飲めないって言うのかい?」
「面倒な先輩に捕まりましたね」
「五条より面倒じゃいだろ?私これでも補助監督だし?」
「どっちもどっちですよ。伊地知くん、コーヒー貰った方が早く終わりますよ」

七海が冷静に言えば伊地知も伊地知で「で、では」と言うので名前は同じブラックを買って投げて渡す。
七海の様な俊敏さはないが、一応は呪術高専出身者である伊地知もも難なくキャッチして「ありがとうございます」と礼を言う。

「こっちきなよ」
「で、では」
「君の大変だよね、五条の専属に近いんだろ?」
「え!?」
「こっちではそういう事になってるよ」
「えー……」
「実際そうじゃないですか。まあ他の補助監督が嫌がって君に行ってるって言うのが本当の所だと思いますが」
「う…」
「五条が京都来ると私がそうなるから気持ちはわかるよ。無茶振りが酷いんだ」
「そ、そうなんですよ…」
「この前来た時なんて『スイーツ食べたーい』って駄々捏ねて」
「あの人は…」
「一緒に任務終りに食べに行った」

いやー、五条の食べたいものって大抵美味しいから抗えないんだよね。とケラケラと笑う名前。
その落ちは大変だったんだよ。だとばかり思っていた二人は呆気にとられて顔を見合わせる。
あの夏油傑の双子の片割れである、といえば納得せざる負えないが、それでもあの五条と付き合えるだけの不真面目さがあるのかもしれない。

「あまり甘やかさないでください」
「ナナミンは五条のパパなの?」
「んっ」
「貴方が甘やかすとこちらの補助監督に迷惑がかかるんですよ」
「そんなの私の知ったところじゃない。上手く手綱を持てない補助監督が悪い、まあ相手が五条だから難しいね」

すでに底をついた名前のコーヒー。缶の上を持ってくるくると手持無沙汰の様に手首を使って回す。
大きな男性の手では缶コーヒーの大きさはとても小さく見える。
そのまま缶を持ってゴミ箱まで行き、金属音を立てて缶はゴミ箱に飲まれた。

「さて、面倒だけど行くわ。じゃあね」
「何処に?」
「野球してるとこ。私は別にいなくても問題ないんだけど、居なければ居ないで文句言う人が居るんだよ」
「お疲れ様です、コーヒーご馳走様でした」
「どういたしまして」

男性の靴音を立たせて歩いて行く。
名前が球場と化している運動場まで行って見学してみれば、審判に五条がいて名前は思わず吹き出した。

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