呪術 | ナノ
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気分は乗らないが本家からの呼び出しではるばる本家まで来た名前。
一応は現当主の妻、という立場からも面倒ではあるが呼出しとなればそれに従うしかない。頼みの綱の夫は現在出張中である。
要は「子供はまだか」である。いちいち呼び出して言うことか?と名前は内心思ったが口には出さずに「授かりものですので」と言葉を濁す。
まずそれを血のつながった関係でもない名前に言う事の神経もわからないが、そもそもアレをコントロールできずに今まで放置していたそちらにも問題があるのでは?と名前は内心毒づいた。
愛人の一人や二人いるのでは?などと暴言まで吐かれたが、まあ想定内である。
高専生の時から世話になっているのでどんな人間かだって知っているし、呪術師であるのだから人格に期待はしていない。まんまブーメランではあるが、それでも一般家庭出身だからそこまで名前はあけすけにはしない。
まあ御三家と呼ばれるお家なのだから愛人の子であっても金やら色んな力で迎え入れるのだから、そこはここでは問題ではないのだろう。確か加茂家の嫡男がそうであると噂で聞いた。

「あああーーー…つっかれた……」

腹が立ったら甘いモノ。ではないが、無性に甘いものが食べたいと思って本家の帰りにデパートによって、普段では食べない高級スイーツを買ってきた。
なんと言っても一切れ1,500円である。
いくら悟から好きにしていいよ。と言われていてもそこまで好きにしたことはない。せいぜいコンビニスイーツを買ってくる程度であったが、今回は無性に腹が立ったので奮発した。夫の金ではあるが。

「おかえりー」
「え、あ、あれ?出張、は?」
「終わらせた。名前さん本家呼出し喰らったって聞いて。あ、その箱あの名店の箱じゃん!なになに?ケーキ??僕も食べるー!」
「あー…ごめん、今日居ないと思って1切れしか、買ってないや……」
「えーそうなの?名前さんてば、そんな良いモノ一人で食べようとしてたんだ」
「……っぐ、そういわれると、あるようで無い良心が痛む…」
「で?何言われたの?」
「聞いてくれる!?っと、その前に着替えてくる」

本家って格式ばっかり高くて肩凝るんだよねー。と名前は言いながら着替えるために寝室へ。
一応は御三家、一応は夫の実家で義実家である。気軽な格好では行けない。化粧も少し気を使わねばならないし。
そう言えば結婚の際に分家やら関係の家の女性から嫌味のひとつやふたつ、いやみっつくらいは貰うと思ったがそれが無かったのは今でも不思議である。
実際は悟が根回しをしていたので名前に害がなかっただけで、呪いの類は全て悟が祓っていた。それを知らない名前は「案外悟嫌われてて厄介払いポジションなのか?当主ヤバいな」としか思っていない辺り、まあ幸せなのだろう。
リビングに名前が戻れば「ご飯食べた?僕作ったやつだけど温めようか」と聞かれたので名前は言葉に甘えることにした。

「ありがとう。でもなんか悪いな…」
「何が?あ、もしかして名前さんあんまり料理しないから?」
「いや、ケーキ1切れしかない事が」
「あー…そっちね。てっきり僕が料理するのに私しないなんて…ってパターンだと思ったのに」
「そもそも料理しなくていいようにお手伝いさんくるじゃん本家から」
「あのねー、僕は美味しい料理じゃなくて名前さんの作ったのが食べたいんだよ。わからない?」
「そういう感覚があるのが意外。いっただきまーす」
「……どーぞ」

美味しい。と言えば、当たり前でしょ。というあたり五条悟なのだ。

「で?なに言われたの。ていうか、僕が当主なのに妻が呼び出されるっておかしくない?来るのが本当じゃない?」
「まあ来られても面倒だし。子供はまだかだってさ」
「あー……」
「愛人いないのかって。あ、これ御出汁きいてて美味しい…最高」
「愛人……それで、名前さんなんて言ったの」
「うん?子供は授かりものですからねーって言ったけど。愛人に関しては曖昧な笑顔で終わらせた。愛人作るくらいなら離婚するって、ねえ」
「はあ!?愛人なんて作らないし離婚もしないし」
「例えばの話でしょ?まあ子供はねー」
「じゃあ作ろうよ」
「………はい?」

持っていた箸を思わず下げる。
箸置きに置いて、名前は手を膝の上にして正面に座る悟と話をする体勢にする。
いつもであれば「そうねー」とかわすつもりでいたが、いつになく真剣な雰囲気を察したからだ。

「意味、分かって言ってる?」
「言ってる。そもそも結婚したんだし、自然だよね。それに僕一応当主だし、実力主義だといっても僕が居る限り僕は絶対的な存在なわけだ。万が一術式のない子が産まれても絶対守れる」
「……一応、言うけど、私傑の姉さんなわけよ。離反者の姉を嫁に貰ってるだけで結構な風当たりなわけでしょ?どういうわけか五条家関係の女性からは嫌味がひとつも貰ってないけどさ」
「僕が恐いんじゃない?離反者の親友だったわけだし?」
「………、まあ、うん。」
「まあでも、どっちにしろ名前さんには僕の子を産んでもらわなきゃだし。愛人は必要ないでしょ。子供の世話なら使用人使えばいいし」
「…まあ、確かに、体力あるうちの方が良いのかも、ね……でもなー」
「不安な事あるの?」
「不安な事ばっかりだよ。腹に子供が居て、当主の子供で、初妊娠、色んな不安があるわけ。ブライダルチェッククリアしているとはいえ、ちゃんと妊娠できるかもねー」
「じゃあ今日からしよ」

めちゃくちゃ優しくするし、気持ちよくするし、おねだりだってちゃんと聞く!
ニコニコとしてテーブルに肘をつき、手を組んでその上に顎を乗せて名前の顔を覗く。

「驚いた、そういう事なんて我関せずなのかと思ってた。性欲処理は別として」
「一応は当主だしね。子供が1人いれば大体周りは黙るし。五条で僕が生きている限り僕以上に強い人間は生まれないしね」
「六眼に無限だもんね、言えば最高傑作」
「そいういこと。僕に楯突くなんて馬鹿以外では命知らずって事。だから、大丈夫だよ」
「何が」
「色々と。まあ妊娠したら賞金掛けられるだろうけど、それはまあ僕の子供だから仕方ないよね?ちゃーんと守るし、出産後のサポートも手厚いよ?なんせ当主の子供だもん。まあ暫くは本家での養生って事になるかもしれないけど。あっちの方が絶対的に人の手はあるからね」
「…ふふ」
「え?なんか僕面白い事言った?」
「案外必死だなって思って」
「そう?それなりにはしていたつもりだけど」
「ま、考えておくよ」
「え」
「前向きに、ね」

ではご飯の続きをば。と再び箸を持って食事を再開する名前。
これで話は終わった、とする名前を見て大きな溜息をこれ見よがしにする悟を無視して名前は食事を続ける。
名前だってわかっていた事だ。
いくら我儘の延長での結婚といえど、それは避けて通れない道だあること。腹立たしいが本家が横やりを入れたくなるのもわかる。やっと結婚したと思っても子供が出来なければ何のための結婚か、と不安で仕方がないのだろう。本家としては自身が用意した娘と結婚させたかっただろうに。そのための教育だって分家は躍起になっただろうし、好みだという女にも仕立てだろう。

「ほんと、馬鹿だよね」
「うん?」
「分家の用意された娘さんと結婚したら好きなように出来たのにって思ってさ」
「用意された女と結婚してたら名前さんの支援なんてできないでしょ。それに名前さんだって分家の男と結婚させられてたよ?もしかしたらオッサンとか」
「それこそ悟に取り入りたい男にモテモテだよね、私。そういえば傑が離反してから五条家にお世話になってたけど、そういう人来なかったな」
「当たり前でしょ。僕が言っておいたんだよ『名前さんに下心持って近づいたらそれなりの処分下すからな』って」
「わーお、恐ーい。傑のお姉ちゃんで色々助かったー」
「確かに。傑の姉ちゃんじゃなかったら僕も助けてないしね」
「本当そういうとこだぞ」
「だって事実だし。歌姫だったら笑ってたね」
「うわ、最低。傑に感謝しなきゃ、私の弟として生まれてくれてありがとう!お姉ちゃんは助かりました、色々と。でも離反しないで、マジで」
「それな!」
「親友に、殺させないで」
「本当それ!」
「ごめんね、悟」
「名前さんが謝る事じゃないよ。したのは傑だし。あ、じゃあ今日から子作りしちゃう?」
「それはまた今度ね」

ごちそうさま。と手を合わせて冷蔵庫に入れておいたケーキを出して、それを包丁で半分にしてお皿に乗せて持って来て二人で食べる。
それから事あるごとに「名前さーん」とべたべたして来てその度に名前が「やめてー」と言っていたが、ついに名前が根負けをした。

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