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「羂索様、準備が……」
「ああ、わかった。そうだ##name_1##、それを出しておいてくれるかい?それぐらいなら君にもできるだろう」

じゃあ頼んだよ。と指された先の加茂家嫡男だった加茂憲紀。
混乱を収めるためにまず実家に戻ったのだろうが、事態は好転はしなかった。なぜならこの御三家の加茂家はすでに羂索が掌握している。

「……承知、いたしました。皆が待っていますので羂索様はそちらへ」
「じゃあ頼んだよ。あ、知り合いなら少し菓子でも持たせると良い。それくらいはしても文句は言わないよ」
「はい」

深々と頭を下げる##name_1##。
今現在の##name_1##の主人は夏油の身体に入る羂索。命令に従うのは何も不自然ではないが、彼には不自然に見えるだろう。
東京で活動していたが京都でも出張などで高専に行けば顔を合わせることもあった存在だ。それが今、己の実家である加茂家の当主だと言っている男に従っている。
それを知ってか知らずか、そんな2人を軽く笑ってから羂索は部屋から出て行った。

「どう、して…貴女が」
「不思議でしょう?私も不思議だもの。お金はある?食料もあった方が良いかも。そうだ、血液パックも必要でしょう?準備しましょう」
「………っ」
「警戒しないで。羂索様は私が何かするのを許されているからお咎めはないし。………正直、私もどうしていいか分からないし」
「裏切ったんですか」
「恰好を見れば裏切った、という事になると思う。結果としては今こうして羂索様の元にいるのだから。さあ準備をしましょう、時間が惜しいでしょう?」

警戒しつつも羂索と己に対する態度の違いに違和感を持ちながらも、##name_1##が「早く」と言えば大人しくついてくる。
ここは加茂家、憲紀の実家で嫡男として生活していた。それを##name_1##が我が物顔で歩いているのが不思議で不穏で不愉快である。

「四乃」
「はい、奥様……まだうろついておったか童」
「私の客です。四乃には伝えていなかったわ、ごめんなさい。悪いのだけれど腹持ちのいい物を用意してほしいのだけど」
「……童に、ですか」
「知り合いの教え子なの。いい呪術師に出資するのも御三家の役目でしょう?」
「……わかりました、只今」

老女が渋々##name_1##の言葉に頷いてよたよたと長い廊下に姿を消す。
奥様、というのは今の会話の内容から##name_1##が奥様ということだろうか。
混乱しないわけがないこの状態で憲紀は状況だけはと整理しきれない頭で考える。

「立場を利用しているだけで結婚も何もしてないんだけどね」
「…」
「ここの、今生きている人間は羂索様が色々して、夏油くんの身体に入っている羂索様がここの当主だと思い込んでる。そこに女の私がいるには夫婦の方が便利だからって事みたい。実際こういう状況で従者では四乃さんもいう事聞いてくれないでしょ?奥様のいう事ならって」
「…………意味が分かりません」
「…私も」

困ったよね。と##name_1##が笑う。
嫡男であった憲紀の部屋は##name_1##の権限で触らせていなかったというので憲紀の部屋は荒らされた形跡もなく、出て行ったままの状態になっている。
平常だった時に家の者が掃除をした程度で物の移動も何かがなくなっていることもないようだ。

「今現金を用立ててくるから加茂くんはそこで準備をしてて。あと誰かに何か言われたら奥様に言われていると言えば誰も何も言わないと思うから」
「……いいんですか」
「…なにが?」
「私を、処分しなくて」
「羂索様が私に命じていないから。それに支援しては駄目だとも言われていないし」
「どういう関係なんですか」
「覚えていないくらい前に魂に縛りを結んだ師弟であり主従だよ。こんなにも長く続くとは思っていなかったけど」
「受れて、羂索様のところに戻るようにされているだけの、今はまだ呪術師」

その言葉に憲紀は何とも言えない、神妙でもない、違和感だけがある顔をする。
夏油傑と言えば去年末に百鬼夜行を行い五条悟に処分された呪詛師。
その同期であった##name_1##は京都校の庵歌姫と仲が良く、京都へ来た際には一緒の任務に当たったこともある。特級でもなく、サポートタイプの呪術師でもない1級の、特級2人の同級生だった呪術師。
羂索、と名乗ったはつい最近、いや先日であの現場に言わせたのだから嫌でも知っている。
憲紀自身、##name_1##はとてもいい人であったと認識している。
しかし渋谷での惨事を考えれば死んでいても不思議ではない。京都からの応援という体で向かった現場で生きている人間を探そうというのは無謀であると痛感した現場でもあり、あそこから生還したのはほんの一握り。そして五体満足である呪術師の方がかなり少ない状況であると聞いていた。

「現金このくらいあれば足りるかな」
「……恐らくは。」
「後は…血液のパックかな。確か地下にそんな場所があったと思うけど…そこであってる?」
「ええ、そこです。何でも知っているんですね」
「だってどこに行くにもお付きの者がいるより覚えた方が楽でしょう?四乃さんには悪いけどいちいち年寄りと一緒に歩いていられないし」
「確かに。四乃も歳ですからね、口ばかり煩い」
「さっき四乃さんがいたから玄関に置いてくれって伝えてあるから必要なものを持って玄関に向かいましょう」
「………他の、者は」
「羂索様が不要だと思った人間は恐らく処分されていると思う。夏油くんの呪霊操術があれば警備隊も不要だし、身の回りのできる存在がいて、配下がいれば事足りるのだと」
「私は、##name_2##さんの事を裏切者として報告するかもしれません」
「…それでいいと思う。実際そうなんだと思っているし、五条くんを封印した側にいるんだもの。」
「そうやって、高専に居たんですか今まで」
「…渋谷のハロウィンの事件で羂索様が私に思い出させたから、それ以前はちゃんとした高専所属の呪術師だったよ?それは本当。それにもっと前から裏切っていてそうであれば、もっといい立場にしてもらっていたと思う」
「…どういう、意味ですか」
「羂索様、高専とかそういう所の上層部に結構浸食してるの。そうじゃなきゃ夏油くんの身体なんて手に入らない。五条くんもしっかり処分してくれたら、よかったのに」
「…じゃあ、本当に、もう上層部は」
「ほぼ私の手の上さ」
「!!」
「羂索様、会議は」
「##name_1##がなかなか戻らないから止めて来たんだ。それにしても持たせ過ぎじゃないか?」
「持たせるな、とは言われていません」
「そうだけど。地下の血液パックまで持って行く気?」
「あっても使えるのは彼だけです。ここで処理するには面倒ではありませんか」
「…まあ、そうだけど」

そこまでしなくてもいいだろう?と言いたげにする夏油、改め羂索。
先ほどはここまで近づかなかったが、##name_1##との体格の差を見て憲紀は己との差を痛感する。
自分より小柄なのは知っている。それ以上に大きく、呪力も呪霊さえも持っている特級。
それを臆さず面と向かっている##name_1##は、旧友だからか、それとも師弟・主従の関係だから堂々としている。

「禁止はしていないけど、良いとも言った記憶はないよ」
「ではこれから駄目だとおっしゃるのですか?ここまでしたのに、血液だけは渡せない、と?」
「……口が達者になったね」
「もっと早く見つけていただけたら従順だったかもしれませんね。この年まで放っていられたので私の自我の方が強いんです」
「はははは、女の子だねえ。まあ若い呪術師1人どうということはない。それを出したら##name_1##も会議に出なさい」
「承知いたしました」

困ったように笑いながら、小さなため息をつく羂索。
ちらりと##name_1##が援助する憲紀を見てから再度##name_1##を見てからまた奥に戻っていく。
本当に##name_1##が不在のために来ただけ、ということなのだろう。
憲紀にはさほどの興味も示さなかった。むしろ「まだ居たのか」という少々迷惑そうな顔をして。それは憲紀にとって、「お前は気にするほどの能力はない」という酷い侮辱だろう。御三家の嫡男として己を律し、いつか戻ってくるであろう人の居場所を確保するためにいたのに。

「見つかっちゃったので、急ごう」
「え、軽い…」
「さほど怒っているわけではないから。本当に怒ったなら私殺されてるよ」
「え」
「だって言う事聞かないなら殺した方が早いでしょう?私なんていなくても計画は進むし。そもそも私が必要ですらないんだしね」

実験的な縛りで私は従っているだけ。本来ならもう縁が切れているはずだから。とまるで他人事のように話す##name_1##。
「さあさあ」と##name_1##に言われて地下の血液を保存しているところに行き、言われるまま玄関で用意されたものを持たされ、「もう会う事はないと思うけど、元気で」と送り出されてしまった憲紀。
ただ##name_1##の諦めたような、そして無駄な抵抗はしないという態度に少し疑問を抱きながら持たされた荷物を握るしかなった。