「い…たぁ…」 「気が付いたか」 揺れる視界に鈍い痛み。線路が目の前にある。歪む視界の少し先には呪霊たちが立っている。 まわらない頭で状況を、と思うが体が不自由であるが故にあたりを見回すことさえ思うようにできない。 「なに?人質のつもり?こんだけ一般人捕まえた上にまだ欲しがるの?」 「これはお前のためないじゃないわ!頼まれた物に過ぎん」 「##name_1##、さっさと終わらせて回収して戻るからちょっと我慢してて」 「なに?」 「硝子に頼まれてるし、さっさと終わらせるから」 まあ、五条くんだもんな。と鈍い頭で考える##name_1##。 さすが特級、流石五条悟。さすが、流石、サスガ。 痛みのせいで目でさえ半分も開き切らない状態で##name_1##はまるで現実的でない世界を眺める。まるで踊るように呪霊を片付け、ダンスの様に領域を展開させる。 状況を判断できない脳では彼の領域を把握することさえ無理で、全てが一瞬。 ああ、やっぱり五条悟は五条悟なのだ。という言葉、ワードがふさわしい。 誰も彼には近づけなくて、害することもできない。 呪霊に捕まっている自分がなんだとても不甲斐ない。そう思う事しか今の##name_1##には許されないと世界から責められている気さえする。 「ご、じょ……」 逃げて。と続くはずの声だが、彼に後退が許されるのだろうか。と##name_1##はふと思ってしまった。 呪霊の狙いは五条悟の封印。それを伝えたところで、彼は後退してくれるだろうか。 五条悟は最強。封印されるなんてことがありえるのだろうか。 彼を止めることなんて誰も、何もできないのに。 張相の一撃は強烈で、ここで意識を取り戻したのが幸運だったのだろう。 ゆっくりと意識が落ちる最中、美しい男の舞を見た気がした。 「起きたかい?」 「……?」 「今の名は##name_2####name_1##だってね。私も##name_1##を呼ばせてもらおうかな」 頭が痛い。しかし身体は冷えているわけではない。誰かに抱きかかえてもらっているような、柔らかい浮遊感。 視界がはっきりとしない。 懐かしい声。 最後に聞いたのはいつだったか。それは確か、と##name_1##が痛む頭で考える。 「げ、と…?」 「まだしっかりと起きてないようだね。私がわからないのかい?」 「ご、じょ…く、」 「五条悟は封印したよ。呪霊たちはよくやってくれたよ、駒として。君も手元に戻ったしね」 「………?」 「まあ流石五条悟、規格外だよ。獄門疆を使って封印できたけど処理が追い付かないんだ。まあそのおかげでこうして君を抱けているんだ」 夏油傑。去年末に百鬼夜行を起こして最終的に五条悟に処分された、特級呪詛師。 たった4人の高専の同級生、同期。 五条悟のたった一人の親友。 クリスマスに死んだ。 そう、夏油傑は死んだのだ。 動かなければ、距離を取らねばと##name_1##は思うが拘束されているのと頭の痛みで動かない。 「意識はハッキリしたかい?」 「…!げと、う…くん、なの?ごじょ、くんが、」 「まだ意識が混濁しているようだね。ほら、私だよ##name_1##。まあ毎回最初はこうだから仕方ないにしても、寂しいね」 「……ぅ」 よしよし、痛かったね。君の記憶が戻るまで少し不自由だけど我慢しておくれ。 今回は女の身体だね。 ##name_1##が10代のころから知っているよ。記録があるし、学生の時に護衛もしてもらったことがあるからね。 今1級なんだよね、成長したね。2級か準1級どまりだと予想していたけど頑張ったじゃないか。 相変わらず結界術が素晴らしいね。回数を重ねるごとに完成されていくよ、前回よりも数段上を行っている。これじゃあいつか私を追い抜いてしまうね。 「げ、とうく…」 「まだ戻らないのかい?まあブランクというものもあるだろうし、仕方ないか。獄門疆の処理が終わるまではそのままだ。ああ、でも封印の事が早々にバレてしまったからちょっと雑処分しないとかな。でも君を呪霊に任せるのは嫌だしな、だからと言って呪霊にお使いを任せるのも抱いたまま歩き回るのもねえ…」 「だ、れだ…お、まえ……げとう、く…じゃ、ない」 「そうだよ。今回は思い出すのが遅いな…殴られたせいかな。でも大丈夫、ちゃんと思い出すから。私は君に関しては寛容でいるつもりだからね、多少の不具合での無礼は許すよ」 ふふふ。と夏油ではない夏油が##name_1##を抱えて笑う。 コンクリートにめり込み、処理が終わらない獄門疆に一瞥して雑処理に向かうか。と独り言をこぼす。 それには今抱えている人間をどうするか。ここに置いて行くには少々可哀想である。 ではここ、人間の血肉が飛び散る所より少し離れた綺麗な所がいいだろう。見張りには呪霊操術の呪霊を数体置けばいい。本当ならばそんなものには頼りたくはないが仕方がない。猫の手も借りたいぐらいだし、と勝手に言い訳をする。 夏油傑の身体は実にいい。男性で筋肉質でいて呪霊操術を持ち、五条悟の親友であり弱点。それに##name_2####name_1##と同級生で過去の##name_1##の記録まで持っている。 ##name_1##がまだ確実に探している子だと確定する前の記録だ。 抱きかかえて適当なところを見つけて拘束したまま横たえる。 「##name_1##、いい子で待っているんだよ。まあその状態じゃ動けないだろうけど」 「……っぐ」 「あとで手当をしないとね。君も反転術式が使えるようになればいいんだけど、使えるようにならないね。あ、でも今習得されると面倒だからまだいいや」 「ご、じょうくん……」 「心配しなくても大丈夫さ。私がしっかりと封印したからね」 じゃあ雑処理してくるからいい子でまっているんだよ。 まるで親の様に##name_1##の頭を撫でつけ、夏油ではない夏油が##name_1##から離れた。 |