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その時夏油は意識を取り戻した。いや、戻ってきたのか何かもわからない。
およそ10年前に見慣れた教室、机、椅子、黒板、ドア。
己の身には黒い学生服。時計を見上げればアナログな掛け時計がまだ始業には少し早い時間を指している。
心臓が酷く早く鐘を打っている。

「……っ」

乙骨の前に倒れ、かつての親友であった五条悟によって幕を閉じたであろう人生。
それが何故、どうして。これが走馬灯というのであれば酷くゆっくりな話だ。自分の知るかぎり同じ速度で時計が進んでいるのだ。

「あれ?1人?」

おはよう。と同級生の##name_2####name_1##が入ってきた。
パッとしない同級生。4人いるうちで一番普通、容姿だって芋くさい、社交辞令で素朴だという女子。正確も純朴、素直。悪く言えば面白みも何もない。

「…夏油くん?」
「あ、…お、はよう…」
「今日は硝子実習で遅れるんだって。昨日遅くに呼び出しがあって」
「そ、そう…なんだ……」
「五条くんは?」
「え…?」
「いつも一緒でしょ?ケンカでもしたの?」

こんなに喋る子、だっただろうか。と一瞬迷う。
いや、違う。##name_1##は大人しくて、控えめで、余計なことはしゃべらない子だった。

「違う…」
「冗談だよ。任務?」
「違う」
「……?」
「誰だ、お前…」
「…?」
「##name_1##は、そんなこと言わない」
「…げとう、くん?」
「##name_1##は余計なことは言わない。誰だ、人の友人の皮を被った呪霊か、呪詛師か!!」
「げ、」
「走馬灯で酷い幻覚もあったもんだな!!」

##name_1##が着こうとしていた机を投げ倒し、##name_1##の細い首に手をかける。
細く、柔らかく、あたたかい。

「…っ、ぐ、が…!」
「……っ、……っっ!!」

女の口から嗚咽が漏れる。首に指が沈む。わずかな呼吸に縋るそれが動くたびに指から鼓動を感じる。
女の手が抵抗するが勝てるはずもない。体格も力の差も段違いなのだ。

「なに騒い…何している傑!!今すぐ##name_1##をはなせ!!」
「違う!!こいつは##name_1##じゃない!!」
「傑!!!」

担任の夜蛾が必死に2人を引きはがし、##name_1##はせき込みながらもやっと酸素を取り込む。首には酷い手の痕がくっきりと残っているので酷い力がかかったのが一目でわかる。

「##name_1##、大丈夫か。職員室に行きなさい、医務室勤務の呪術師がいたはずだ手当して医務室で待機してなさい」

ひ、ひ、ひ。と##name_1##が変な呼吸で夜蛾の指示に頷き、夏油を酷く恐ろしいものを見る目で見て逃げるように出て行く。

「…殺さなきゃ」
「傑」
「アレは##name_1##じゃない…##name_1##の皮を被った、何かだ」
「どうした、##name_1##だ、何も間違ってない。ふざけるには悪質過ぎるぞ、昨日の任務で脳でもやられたのか」
「違う、違う、違う!違う違う違う!!あれは!!##name_1##じゃ」
「落ち着け!!」

バシン、と夏油の視界が揺れるのと同時に衝撃が走った。
頬がじんわりと痛む。どうやら殴られたらしいというのはゆっくりと自覚した。

「この件に関しては話し合わないとならない。傑、お前の顔色も酷いぞ。後で医師のところに行こう、それまで寮の自室で待機していなさい」
「……はい。すみません、すこし、錯乱していたようです………」


****


「夏油、お前##name_1##の首絞めたんだって?」
「あ?何それ。つーか。それで##name_1##休んでんの?」
「………」

##name_1##の首、手のあとべったりついてて酷いよ。という家入の声に夏油は黙るしかない。
事実なのだから。
あの時以来夏油は##name_1##に会えていない。いや、会えない状態が続いている。考えなくてもわかる、夏油が##name_1##の首を絞めて殺そうとしたからである。
実際あの時には##name_1##を殺そうと、殺意を持っていたのは間違いない。あの時の##name_1##は偽物に見えた、いや、まだ偽物かもしれないと疑ってしまう。
目の前の2人は確実に本物であるという自信はあるが、##name_1##だけは偽物かもしれないという疑心が払拭できないでいる。

「……##name_1##の、様子、どう?」
「ハイネック着て、別室で授業受けてるんだってさ。まあ夏油を近くには寄せられないからな」
「なんで##name_1##の首なんて絞めたんだよ。首絞めセッ久好きなの?セフレだっけ?」
「##name_1##が、偽物だったから。だから、殺さないとって、思って」

その言葉に家入は「げ」と嫌な顔をし、五条は理解できないと眉間にしわを寄せる。

「##name_1##の皮を被った偽物だから、殺さないとって、思って。だって、##name_1##はそんなにおしゃべりじゃないのに、あんなに余計なこと、ぺらぺらと喋るから」
「……##name_1##、何言った?」
「硝子は実習があって遅れて、悟は?って。ケンカしたの?って」
「……別に、##name_1##がそれ言ってもなんもおかしくないだろ。##name_1##が硝子の今を教えて、俺がどうしたか聞くの、なんかおかしいか?」
「いや?普通だろ。私だって言うし聞くが?」
「俺も」
「…私、おかしいのかな」
「おかしい」
「おかしいな」
「つか、俺オマエのせいで##name_1##に会うなって夜蛾センに言われてんの」
「え?」
「デカい、男。夏油と同い年。今の##name_1##が嫌がる要素持ってるもんな」
「前髪普通だけど?」
「前髪だけな」

トラウマの可能性、という事だな。と
確かに背格好は近い部分が多い。
夏油自身、どうしてそんなことをしたのか、という疑問がある。
この高専に偽者、または呪霊が入ってくるという可能性はかなり低い。それだけセキュリティがしっかりしているに、だ。漠然とアレは「##name_1##ではない」と思って行動に移した。味方である人間を殺そうとした事実、精神の錯乱というのかもしれない。
夏油がこうしていられるのは恐らく夏油が特級呪術師だから、だろう。
一般常識であれば拘束されるなど自由がないはずだ。

「……どうして、私処分されないんだ」
「特級だからじゃね?三下の##name_1##より傑の方が大切だっていう上層部の腐った考え」
「もしかしたら##name_1##、京都校に転校かもな。夏油に殺されかけたんだし」
「………私、##name_1##に謝ったほうがいいよね」
「それこそ##name_1##パニック起こさね?自分の首絞めた男だぞ?そういうセッ久が好きならいいけど、そういうんじゃないんだろ?」
「ま、夏油は##name_1##にこれからの人生のトラウマ植え付けたわけだ。自分よりデカい男への恐怖心、マフラーなどの首に巻けない、フラッシュバック。本当反吐が出るね」

まだ花の10代の女の子にな。と酷く冷たい声で家入が非難する。
同じ女子同士で仲が良い、だけではない。##name_1##は一方的ななんの非もない被害者でお前は一方的な暴力をふるった加害者なんだ。と突きつけてきている。何の間違いもない。
あれから##name_1##の保護者が来ることも、夏油の元に両親が来ることもない。
完全に伏せられている証拠だ。
##name_1##の首が回復したら京都校に転校、もしくは他の分校に転校。それが嫌なら地元に返されるのだろう。きっと口封じのために色々な縛りをして。

「##name_1##が何したよ」
「わからない…なにも、してない。ただ、##name_1##が偽者だから、殺さなきゃって」
「こわ」
「また会ったら、私、また首絞めちゃうのかな…」
「自制できないの?」
「わからない…でも、あの時は、偽者だから、殺さないとって」
「これはもう駄目だな」
「夜蛾センに報告しておく」
「俺も」
「……?」


※※※
ここまで書いたけど断念した。
変な正義感を持った夏油を書きたかった気がする。