「っ!!真希さん!!」 「あ?」 呪具の扱いの訓練を真希から付けてもらっている最中の話だった。 乙骨が青い顔をして真希の背後に揺れる影を見て身構える。 それは大きく、真希の2倍、いや三倍はあるかもしれない。 女性の様な影で、しかし長い腕に手には鳥の脚のような鱗。髪は長く表情は伺えない。 それに胸はむき出しで脚とは別に長い尾で体を支えている。 それは迷うことなく真希へと手を伸ばし、長い爪で襲い掛かろうとしている様に見える。 「離れて真希さん!!」 「ああ、お前来てたのか」 「大丈夫だ、知り合いの式神だよ」 「……え?」 「知り合いっても、まあ親戚のな」 長い爪は真希を傷つけることなく、器用に真希の頭を撫でている。 その風景は言えば母親が子供も撫でる仕草に似ている。しかし見た目が見た目である。 呪いが見えない人間であれば見えないのだから怯える必要はないが、乙骨は見えてしまう。それはまるで里香を呪ってしまった自分の様に。 「しき、がみ…?」 「十種影法術のな。まあこれの主は腑抜けというか、なんつーか。良いヤツ過ぎて可哀想になるくらいでな」 「呪霊じゃ、ない?」 「ああ、違う。会った方が早いな、おい、##name_1##の所まで頼むわ」 その大きな呪霊のような式神は頷いてスルリと真希の影に潜み、頭だけを覗かせて道案内をするように移動を始める。 真希にはなれたものなのでそれについて行くが、戸惑う乙骨は「ま、真希さん!」と声をあげる。すると真希は「こいよ、紹介してやる」と付いて来いと顎で促す。 昇降口付近までくると男性が二人話している姿が見える。一人は補助監督の伊地知と、もう一人は乙骨の知らない男性である。 「##name_1##!」 「真希…」 「どうしたんだよ」 「任務だよ。また勝手に真希に会いに行ったな」 「まだ式神が言う事聞かないのかよ」 「コレだけが聞かないんだ。他のはちゃんと聞くよ、コレだって任務の時は聞くさ」 「あ、あの…」 「うん?君は…」 「乙骨憂太くんです。ほら、特級の」 「ああ、君五条さんの親戚なんだって?五条家今二人が特級だなんて凄いね」 「憂太、親戚の##name_1##。こんな感じの腑抜けだから別に恐くねえよ」 「紹介の仕方が雑だな真希。初めまして、僕は禪院##name_1##。真希の親戚、従兄弟だよ」 「乙骨憂太です。えっと、真希さんには、お世話になってます」 そこで乙骨は小さな引っ掛かりを覚える。 確か真希は禪院の人間で、禪院に良い感情が無かったはず。それなのにこの従兄弟だという男性には比較的柔和な態度をとっているし、相手の男性もそれを気にしていないし真希を悪く扱い様子はない。言えば本当に親戚のお兄さんという感じで、真希を可愛がっている従兄弟に見える。 「礼儀正しいんだね」 「親戚と言っても遠縁ですし」 「潔高、別に敬語いらないよ。任務じゃないし」 「そうはいきません」 「かたいなー」 「伊地知さんと仲良いんですか?」 「潔高とは高専時代の同級生だからね。僕もここにいたんだよ」 「それは私も初耳だ。伊地知さんと仲良いとは思ってたけど同級生だったんだな」 「まあ家に招待することも無かったら真希も真衣も知らないくて当然だよ」 乙骨自身、禪院という家がどういう家なのかは詳しく知らない。 家に招待していないから会った事が無いのは当然。というくらいだから、二人は同じ屋敷にいたのだろう。 それからその男性は真希に「お土産だよ」と袋を渡してから伊地知と任務に赴いていった。 「お、なんだコレ」 「今日親戚に会ってもらった土産。食えよ」 「え、親戚って禪院だろ?」 「しゃけ!」 「##name_1##は別だよ、あれは」 共同スペースに置かれた箱。それに気づいたパンダが興味を示してツンツンとつつく。 真希が言う事が本当ならばそれを聞いた二人は「え、これ食べて大丈夫?呪われたりしない?」と顔を見合わせる。 「優しそうな人だったよ」 「おま、憂太会ったのか!」 「こんぶ!!」 「あれは禪院でも例外中の例外だ。言えば外で作った子供で買われて来たんだよ、感覚は一般人に近いんだよ」 「うわ…闇が深い…」 「しゃけ…」 「だからアイツは私みたいなのにも優しくするんだよ。本家じゃ術式は良いが変わり者で扱いが悪い」 いつの間にか開けられた箱にはまんじゅうが並んでいる。それをもぐもぐとしているパンダと狗巻。そして狗巻から渡された乙骨ももぐもぐとしている。 さっきまで呪われるのでは?と言ってたじゃねえか!と言わんばかりに真希もまんじゅうをとって食べ始める。 「美味いな、これ」 「##name_1##は美味いの見つけるの上手いからな」 「しゃけ〜」 「ん?真希さん、なんか袋に入っているよ。真希へってある」 「あ?」 二つに折られた紙を広げると「お友達とは上手くいっているかな?写真待っているよ。##name_1##」と書かれている。 それをみた面々は次々に真希の顔を見る。 案の定真希は「あのやろう…」と怒りの表情になるが、一度落ち着いて見せる。 「お前ら、何も見てないな?」 「え?」 「見てないよな?なあ?」 「パンダ、ニンゲンノコトバ、ワカラナイ」 「しゃけ!高菜ー?」 「み、みてないよ!」 「そうか。そうだよな。よし、皆適当にまんじゅう持って行け」 その紙は見るも無残にぐしゃりと真希の手によって丸められ、ポケットに突っ込まれた。 |