「……!」 「宿儺様だ、挨拶をしろ」 「お、お久しぶりでございます宿儺様」 「裏梅から聞いている。良い結界だ、お前のだそうだな」 「お褒めに預かり、光栄でございます」 「お前も知っている通り、伏黒恵の器だ。良く知っているだろう?」 「は、はい……虎杖悠仁の、身体と思っておりましたので、驚いております」 2人がいない間時間潰しを兼ねて禪院家の中を散策し、言いつけられた結界の番もしなければいけないので適当な本などを持って裏梅が褒めた部屋に戻って時間を潰していた##name_1##。 さすがに保存がきく食品以外は手を出せないので、まだ大丈夫そうな菓子類も持って結界の番をする。五条悟が居ないこの状態で呪術連や高専が禪院まで手が回らない、羂索が上層部を掌握しているのだ。 五条悟、五条悟さえいれば違ったのだろう。 きっと五条悟がいたら、封印されなかったら。と##name_1##は思わず考えてしまった。 「守の役目ご苦労。宿儺様の浴が終わるまで務めるがいい」 「は、はい…羂索様は」 「すぐ来るだろう、アレの事だ」 「親離れができんのか?」 「主人の安否を心配するのも従者の務めかと」 「##name_1##、これから宿儺様は浴を始める。邪魔者は一切通すな、いいな」 「はい、承知いたしました」 ケヒ。と宿儺特有の笑い方が深々頭を下げた##name_1##の横を通り過ぎる。 伏黒恵は##name_1##にとっても交流がある学生だった。 五条悟が面倒を見て、ちょっと見てやってよと一緒の任務に行ったり、オフの時に彼の姉である津美紀も一緒に面倒を見た経験があるからだ。 付き合い自体は長いだろう、およそ10年。ランドセルを背負って、まだ##name_1##よりも背が低い時から知っている。声変わりする前からの付き合いだ。 どうして、どうして。それと同時に虎杖悠仁の異様さを知ったのだ。 彼は指を飲み込んで死にもせず、宿儺に奪われもしていない。どの程度飲んだのは知らないが、それでも1本以上は飲んでいる。それでいて変わっていないのだ。 誰かが彼、伏黒恵に指を飲ませたのだろうか。 誰が、どうして、何故。考えても仕方のない事ではあるが、それでも考えずにはいられない。それは恐らく、伏黒恵を知っているからだ。 知らない元一般人である虎杖悠仁であれば##name_1##の心はここまで揺れないだろう。 「##name_1##」 「羂索様……おかえりなさいませ」 「どうしたんだい?そんな浮かない顔をして」 「…宿儺様の、器が」 「ああ、それか。まあ##name_1##の知っている子供だったようだね」 「ご存知だったのですね」 命じられたままに守をしていれば羂索が戻ってきた。 上機嫌なのは思うようにことが進んでいるのだろう。 六眼の封印、死滅回遊での下準備、宿儺の復活。天元を落とすのも手筈通り、上手くいったか上手くいっているのだろう。 そういう事に関して、重要な事、本心、目的は##name_1##は教えられていない。 信頼がないわけではない。ただ言う必要がないからという理由で教えられていないのだ。 「浴の最中かい?」 「はい。邪魔者は通すなとの裏梅様から」 「ふうん?」 「宿儺様にご挨拶をなさいますか」 「そうだね、話したいこともあるし。でもいいのかい?邪魔者は通すな、と裏梅に言われているんだろう?」 「羂索様は私の主です、邪魔というなら結界を解くまで」 「ふふふ、そうだね。私は##name_1##の主だ」 上機嫌な羂索の後ろに付き、##name_1##も結界の中に入る。 裏梅が準備を始めてから初めて入るそこは、##name_1##が結界を張る前とは違う異様な雰囲気を醸し出している。 陰鬱、言えば呪いが充満しているのだろう。重苦しい空気は##name_1##には嫌なものと感じられたが羂索にはどうという事はないらしい。 耐性がないと言えばそうなのかもしれない。 学生の時から##name_1##は五条や夏油に「呪力感知が本当に下手」と何度言われた事だろう。 そも特級と普通の人間を比べるのが間違っているのだ。 羂索の器は特級、それに比べ##name_1##は普通の人間だ。 「良い結界を張るようになったな、それは」 「だろう?私の自慢なんだよ。試しで結んだ縛りがここまで成長するとは思わなかったよ」 「貴様の持ち物でなければ食っていたところだ」 「ははは。じゃあ死んだら食っておやりよ、宿儺ならば##name_1##も文句もあるまい。まあ年老いて死ぬか死体が残るかも分からないけどね」 羂索に気づき、挨拶どころか、それさえも通り越して##name_1##の死体のやり取りの話をする。 ##name_1##もまさかそんな風にされるとは思っていないので驚いたが、それを表にしてはいけないと黙ったまま。 そんな2人のやり取りを、というより羂索の態度が面白くないと言わんばかりに裏梅は酷く嫌そうな顔をしている。 「なぜ羂索を通した##name_1##」 「主ですので」 「………」 「で、何用だ羂索。貴様の事だ、帰るのにいちいち顔を出したわけではあるまい」 「これからの相談さ。##name_1##、お前は外で待っておいで」 「承知いたしました」 「どうして外へやる」 「##name_1##が戻ったのは五条悟を封印してからだからね、まだ心が呪術師達の方にある。裏切るとは思ってはいないが、私たちの話を聞いていい気分はしないだろう?私の親心だよ。さ、お行き。守をしていた場所で待っておいで。後で声をかけるから」 黙って頭を下げて、逃げるように出て行く##name_1##。 ##name_1##の場合、転生したとはいえ今ある身体に様々引っ張られている。それは今だけではなく、前も、その前も。 今回呼び戻すが遅れたのは五条悟が近くにいたせいもある。 あの男はそういう所に変に聡いのだ。計画がバレて水の泡になっては、それが羂索は許せない。 羂索自身、できるならばもっと早く##name_1##を呼び起こさせて高専内で使いたかった。 しかし、それが##name_1##だという確信が持てたのは成人したあたり。確かに結界術は素晴らしいが確信が持てずにいたからだ。当時の##name_1##程度の結界術は候補には上がるが決まりてがなかった。 しかし成人したあたりから前回を超える結界を張りだしたのが##name_1##。 だから##name_1##がそうだと分かったのだが、近くに五条悟がいたのだ。 「転生体も考え物だな」 「そうだね、まあアレの場合は実験的なもので期待はしていなかったんだよ」 「裏梅、アレが羂索を見限るようなら声をかけておけ」 「はい」 「おいおい、やめてくれよ。死体はあげても生きている間は私が使うんだから」 「アレには入らんのか?」 「結界術は魅力的だけど、この身体と術式よりも魅力的かと言われれば否。あれは使うくらいが十分だよ」 貴様に使われる##name_1##も可哀想にな。と冷静な裏梅のつぶやきが室内に響いた。 |