「お久しぶりでございます裏梅様」 「……そうだな。今度は女か」 「はい」 「せいぜい宿儺様に食材判定されないよう気を付けるのだな」 それで。 と裏梅は##name_1##に興味がないと言わんばかりにすぐに羂索の方に向き直り、己が主の宿儺についての話を始める。 ##name_1##の知っている範囲では虎杖悠仁が宿儺の器として呪術高専にいるという事。 同級生だった五条悟が話題にしたことがあったので知っている。 「いつか##name_1##にも七海みたいに見てもらうからねー」と笑っていた最強は今は封印されてしまっている。小さな小さな箱に、あの大きな男が入っているとは考えられない。酷く不気味なその箱はどこかに保管してあるらしく、##name_1##には所在を教えてもらえないまま。 「##name_1##、私は裏梅と禪院家に行くけどどうする?」 「禪院…?」 「宿儺の浴をする場だよ。ちょうどいい場所でね、どうせあの家は壊滅しているし」 「どうする?と言われましても、羂索様が付いてこいと言われるならば」 「##name_1##、付いてこい。お前に宿儺様のために結界術を使う光栄を与えてやろう」 「まあ##name_1##の結界術の程度を見るにはいいか。前よりも完成されているのは報告からあがってるし、いいね。そうしよう」 回数を重ねるにつれて結界術が向上しているから、もしかしてもう私をこえてしまったんじゃないかな。なんてニコニコしている羂索に興味がない裏梅。 裏梅はそもそも##name_1##には少しも興味はない。 ただ協力者である羂索の従者。裏梅が大切なのは主である宿儺だけ。それゆえ##name_1##が男であっても女であっても些細な事。ただ協力者の従者、従者同士を考えて主の食材にはせいぜいならないようにな、という忠告だけしておいたのだ。 羂索が禪院に行くといい、連れられて行けば酷い有様だった。 ##name_1##も知っている禪院家の真希がやったらしい。らしい、というのはそう羂索が言ったからで##name_1##がそれを見たわけでもない。確かに彼女は家を嫌ってはいたが、何があってこうなったかまでは##name_1##には推測できなかった。 かつて居たフィジカルギフテッド、と言えば耳障りは良いが呪術の家系で呪力のない純粋な力と勘という化け物の再来かもしれないと酷い扱いを受けていたというのは東京の高専にいれば自然と耳に入ってきた。 女性同士、呪具を扱う。という点で五条から「よろしくね」と言われていたし、##name_1##自身リスペクトしてくれた真希は可愛い存在だった。 「死体なんて見慣れているだろう?」 「ここまで腐敗しているのは、さすがに。今の身体になってからそうそう遭遇いたしませんので…うええ」 「宿儺様がお見えになる前に汚すなよ」 「…努力いたします」 「ちょうどいい場所があるはずなんよね、懲罰室?部屋?というのがあって、そこに呪霊溜めこんで処分とか色々使ってた部屋。うげ、変なの踏んじゃった。先に通る道だけでも掃除しておくか。##name_1##も吐いたら面倒だし」 呪霊操術を使い、何の呪霊かは知らないがあたりの死体を食べるように処分していく。 領域を使わずとも死体が残らないタイプの呪霊なのだろうな、と勝手に##name_1##はそれを見て感心する。 呪術師として高専にいた時はそういう呪霊と当たったことはあるが、その状況を見たことはない。なんせそれを祓うのだから現場に遭遇するという事はすなわち死を意味する。 「うげえ…」 「え?吐くの?」 「いえ…色々衝撃的な映像で…気分のいいものではないなと思いまして」 「この程度で音をあげるな。貧弱者」 「…申し訳ありません」 「余程高専で可愛がってもらっていたんだろうね。昔はこれなんてまだ可愛い物だからね」 「早くその浴に良いという場所に案内しろ。来たことがあるんだろうに」 「昔の事だからね、それに加茂家の事はわかるけど禪院の家までしっかりと把握する機会がなかったんだよ。あと五条家」 「……、」 「この身体で五条家に行っていればまた違ったんだろうけど」 あれ?と思った##name_1##の反応に対してなのか分からないが、あれだけ仲が良かったのにと思ったのも事実。 しかし思い返せば##name_1##らが学生だった頃は今の学生とは確かに違った。今の学生が学生らしく居られるのは五条悟のおかげだろう。もし彼の様な存在が学生時代にいたならばきっと灰原の悲劇も、夏油の離反も防げていたはずだ。 「##name_1##は五条家の事知らないの?」 「同期ではありましたが、そのような交流はなかったので。せいぜい実家に帰った時の土産のやり取りです」 「その五条悟も弱点を羂索に突かれるとはな」 「私は棚ぼた。それにそのおかげで裏梅だって宿儺復活しただろ?」 「それは話が別だ。そも、虎杖悠仁が器だが宿儺様が自由ではない」 「はいはい。宿儺自体が強力なんだから仕方ないだろ?まず普通の人間じゃ毒にやられる。それでも無事なら器になりえるんだけど。我ながら強すぎる器を作ったものだよ」 「ふん」 疑問を抱きつつ、羂索が「あ、ここだここ」と言いながら入っていった部屋に##name_1##も従って入る。 中は暗く、また腐敗臭がする。 ここでも誰かが死んでいるのだろうという事だけはわかる。すでに外にあった死体さえ顔の判別ができないのだ。 先ほどと同じく呪霊が誰かの死体を食べるように処理をする。 気色の悪い。と思わず##name_1##は顔をしかめた。 「どうだろう」 「ほう……ちょうどいい」 「で?##name_1##の結界を何に使うつもりだい裏梅」 「邪魔が入らない様にしてほしい」 「裏梅様、帳となれば目立つのでは?」 「誰が帳と言った。結界を張るのだ」 「呪術師から見れば、すぐに…」 「敷地内に張れとは言っていない。ここの部分だけでいい、言えばこの一室。せっかくの準備を邪魔されてはかなわんからな」 「それであれば。しかし、私でいいのですか?」 「うるさいやつだ。私は準備に集中したい、だからお前に任せてやる。それに宿儺様を迎えにも向かわねばらんのでな、その時の守をしてもらう」 「え、そんな勝手に…私のなんだけど」 「どうせお前の事だ、1人の方が動きやすいと少し出るのだろう?何もせずにいるより役目があった方が良いだろう」 「ではここで裏梅様のご準備を手伝い、そして宿儺様が来られるまでの守をしたらよいのですね。羂索様、よろしいでしょうか」 「おや、やる気じゃないか。そういわれてしまえば私はもう何も言えないよ、そうなさい」 「はい」 ##name_1##がすぐに結界を張れば裏梅は##name_1##を驚いたような顔をして見る。 裏梅の想像を超える結界。結界の主たる##name_1##は疲れたような顔も辛そうな顔もしていない。平常の顔をして、溜息をつくように簡単に。 「……いい従者を持ったな」 「ははは、そうだろう?ここまで成長するとは思っていなかったよ。そうだ##name_1##、ちょうど身体が男女だし、子供でも産んでみる?」 「やめてください、それは旧友の身体です」 「ははは、振られたな」 「うーん、今で言うイケメンだと思うのだけど##name_1##の好みではなかったか」 何か言いたげな##name_1##を笑う羂索。 それとは反対に裏梅は##name_1##の結界に感心した。 昔にあった、前の羂索の従者は結界が得意というだけの子供でしかなく、受肉体を得るほどの才も能力もなかったものが、と。 |