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2015/02/27 09:26

「戻ったぞ!」
「違うだろうジンパチ、お邪魔します、だ」
「久々の実家なのだからあながち間違いではないはずだ」

ふん。自信あり気に尽八は家主をハグする。
彼、いや少年は以前この屋敷で魔法使いの修業をしていた少年で今は一人前の称号を持って独り立ちをしている。

「まったく、そう頻繁に来るものではないよ。お前の信用問題にもなるだろうに」
「なに関係ないさ。それに隼人も最近一人前になって一緒に仕事をしているんだ」
「そうか…あの坊やがもう一人前か…人の時間は短いな」
「オレだって一人前だ」
「こう頻繁に来られてはその称号も剥奪せねばあるまい」
「それは困る」

そうだ。と尽八は持ってきた手土産を渡して茶を請求する。
ひとつ大きな溜息をついた家主は「おいで」と客間に通して茶の用意を始める。
家事の類は今まで弟子であった尽八が受けていたが、彼はもうこの家のものではない。そうなれば必然的に家主がするほかない。しかし家主は魔法使い、使い魔を使えばいいが折角の弟子が来ているので家主は自分で行う。

「オレが居なくて寂しいだろう」
「そうだな、でも最近新しい子を見つけてね。誘ってはいるんだが、なかなかの強情」
「なに!?も、もう次の弟子を見つけているのか」
「候補だよ。弟子にしても才能があるか、やる気があるのかでは違うさ」

尽八。姓を東堂という。
彼が生まれる当時、その村では大きな飢饉にさらされていた。
そこで子を授かり、何とか生まれた子の一人が尽八である。しかし両親は愛しいはずの子供をやむにやまれず手放すことにした。それはその村にある風習で飢饉を脱するために弱い者は強い者を生かすべきだという考えに由来する。簡単に言えば弱い者には死。このままでは村人に愛しい子を殺されてしまうと考えた親は子を魔法使いが住む森に捨てた。
『おや、ここは子供を置いて行くにはオススメしなのだが』
『そういうことか。確かにその村の風習は古めかしくて笑えるが、当事者からすれば笑えん。よし、では私がこの子を貰おう』
『しかし条件がある。自分たちをこの子の親と名乗ってはいけない。しかしこの子がお前たちに親かを尋ねた時にそれは無効としよう』
親はこの子が生きてくれるなら。と子供を魔法使いに差し出す。
『では名を聞こうか』


「ジンパチ、暮らしはどうだ」
「悪くはない。店も上々だ」
「そうか、それは良い事だ。ほら、なんといったか…あそこの金髪の坊やは跡を継ぐと言ってたよ」
「フクか?そういえば隼人もそう言っていたな。だから隼人はあそこを出たのか」
「さあお茶が入った、ジンパチの好きな菓子も出してあげようね」
「子ども扱いするな」
「弟子は何処まで行っても弟子なのだ、いいだろう」

東堂という姓は尽八の親のモノだ。それを尽八が独り立ちする時に送られ、それ以降『東堂尽八』として生活をしている。
尽八を引き取ってすぐに魔法使いはある事に気付いた。今まで弟子は何人かいたが、皆一様に自立して生活ができていたのだ。しかし今の尽八はだたほぎゃと泣くばかり。困った魔法使いは自分が雌と言う事を思い出し、尽八を己の腹にしまった。文字通りにしまったのだ、食べたのではなく、母体の様にして尽八が成長するまで。

「昔はアイツについてきた子供たちをお前はよく遊んでいたね」
「今でも仲は良いぞ」
「それはいいことだ。同じ種だ、大切にするといい」
「しかし変わらんな」
「うん?」
「姿が一向に変わらんと言ったのだ。老けない」
「当たり前だろう、魔法で老いを停めているのだ。ついでにこの人間の恰好を意のままなのだからな」
「化け物め」
「ははは、その化け物の腹を借りて成長した子がよく言う」

昔から尽八に言う事があるとすれば「この腹を借りてデカくなった雛がよく言うね」だ。
人間はあまりに不完全で生まれてくる。動物の様に生まれてすぐに立つことさえできない。肉食獣であっても歩くのに1年近くもかからないだろうとよく話していた。

「その話はだな…そもそもお前が子育てができないのにオレを貰うのが悪いだろう」
「人間の雛はどんなものかと思ってな」
「可愛かっただろう?」
「いや、面倒で何度食べてしまおうかと思ったね」
「食べたくなるほど可愛かったか!」
「逆だ、面倒だからそれを排除しようと思ってな」
「な!」
「しかし雛の頃から育てたせいか、お前は長い事見ていた気がする」

お前の前の子は今のお前くらいの年できて、ほんの数年でどこかに行ってしまったからな。と魔法使いは笑う。
魔法使いのもとに来る者は流れ者だったり、噂を聞いてくる者、魔法使いが見つけて来たり様々だ。もちろん請えば魔法使いはそれを与える。その代りに去るならば追わない。
魔法使いの元に来て一人前になったもの、そうではないものはだいたい半々であり、魔法使いは「人の一生は短いからね、好きに使った方がいい」と責めることはしなかった。

「そうそう、最近見つけた子なんだが、齢はお前くらいだろうね」
「ほう、見どころは?」
「どかな。身寄りがないと言う事で声を掛けただけだからな」
「そうか」
「なにより化け物と恐がっていたから期待はしてないが」
「なんと失礼な!」
「人ではないからな、こちらにしてみれば慣れたもんだ」

尽八にとって魔法使いは母親である。
しかしそれが普通ではないことも知っている。魔法使いの友人である人の弟子のあの二人でさえ魔法使いはあまり好ましくないと言っている。
人の様で人ではなく、人を超越した何かが使える異様な存在。人間である魔法使いは尽八の様に存在するが、人以上の能力を持っている魔法使いは人以外にしかいないのだ。

「知識を与えた人間の師の気まぐれでこうなっただけの、しがない魔法使いさ」
「それでも…##name_1##・##name_2##はオレの師であり親だ。親を貶されて嬉しい子が居るか馬鹿」
「はははは、こんな化け物を親というお前も十分馬鹿だね。それよりも早くお前の雛が見たいね、あの雛をまた抱くのも悪くない」