Serie | ナノ

笑う


いつもの様にカランコロンと特徴的なベルが鳴る。それに我ながら綺麗に鳴ったと自画自賛しながら定位置へと席に着いた。が、ある一角が賑やかな事に気付く。視線を投げればこちらを見やる快活な眼と合った。

「こんにちは、鈴木さん」
「あ、名さん!こんにちは!」

ペコリ、とその手前で長い髪が揺れた。いつもの女子高校生二人組である。まあ、片やこの喫茶店の上階に住んでいるので、常連客とはまた違った立ち位置なのだろうが。
彼女達が呼んでくれるので、マスターに一言断ってから席を立つ。最初のお冷やを片手に鈴木さん―――鈴木財閥のお嬢様ながらとても気さくな、恋と怪盗に首っ丈な今どきの女子高生の隣に座った。何度かこの喫茶店に足を運んでいる内に知り合った。決して押し掛けではない。


「あ、名さんも参加しましょうよ!」

席に着くや否や、彼女は可憐な笑みを見せながらこちらへと振ってきた。が、総じて女子高生とは突飛すぎるものである。内容がさっぱり分からない。

「ちょっと園子!名さんだって予定があるかもしれないし・・・」
「大丈夫だって〜!名さん、この休みってヒマですか?ヒマですよね!!」
「・・・・・・う、ん。鈴木さんその聞き方疑問系だったかなー?まあ、予定はないけれど・・・何の話?」

寂しい休日を暴かれたけれど、冷静に対処する。それが大人ってものでしょう。・・・やめて、そんな侘しい者を見る目で見ないで。

「今度、パーティーをするんです!で、小さなモノなので蘭やおじ様、ガキンチョ達に―――・・・」
「阿笠博士や沖矢さん・・・あ、そうそう安室さんも来るんです」
「だ・か・ら!名さんもどうかなーって!!」

何故に、だからなのでしょう?
その疑問が顔に出ていたみたいで。

「名さん、安室さん狙いなんでしょう?」
「っぶ、」

飲みかけたお水を噴き出すことは脱がれた、けれど体内は一大事で。激しく咳き込むが、隣の少女は面白そうに口の端を吊り上げて笑っているではないか・・・!
むしろ目の前の少女―――否、女性へと移り変わる危うい儚さを持つ彼女の方が、おしぼりを差し出しながらオロオロと気に掛けてくれている。

「あ、氏さん。これ、使ってください」
「ありがとう・・・ございます・・・」

そっと差し出されたおしぼりを口元に当てて、深呼吸。わたしが、誰を狙っているかだとか・・・・・・そんな淡い気持ちを一分、いやいや一厘も持ち合わせてはいない。昔はあったかもしれないが、ここ数十年は抱いたことさえない筈だ。
ここによく来るのは家から近いのと、ここの―――

「それとカフェラテです、お待たせしました」
「は、い・・・・・・?」

今、給仕のために在る飴色の腕は何と言った?『それと』?
・・・・・・つまりは?

そろそろと目線を上げれば、おしぼりを握っているたおやかな蘭さんの手。ソーサーから引かれる男にしては細い手。この喫茶店のえぷろん。爽やかさ三割増しの甘い笑顔。
反比例するように、吾の頬が引き攣った。一番聞かせてはいけない人間に、一番聞かせたくない言葉を聞かせたことを悟って。隣では声無き声で狂喜乱舞している気配がする。見ないでおこう。

「知りませんでしたよ、氏さんが僕を求めてココへ足繁く通ってくれているなんて」
「ええ、わたしも初めて知りました・・・」
「いつもカフェラテを満喫されるとさっさと帰ってしまわれるので・・・。脈なしだと諦めていたんです。―――でも、お話を聞く限り、諦めなくていいってことですよね?」
「いえ、あき「きゃー!!!安室さん、諦めないでください!」
「あの・・・、興味もな「そうですよ!絶対名さんがここに通う理由は安室さんですから!!」

儚い笑みに色めき立つ少女達が全面的に後押ししている・・・・・・わたしの発言は何処へ?


「では、名さん?今度のパーティーでは僕がエスコートしますね」


約束ですよ?そう言ってわたしの手の甲へ自然と口付ける男を、茫然と見上げることしかできなかった。・・・以前の温もりを返せ。


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