右から左へと悲鳴が駆け抜けていく。
そして火薬も使ってないのに耳を劈く爆発音らしきものが鳴り響く。

忍術学園の人間を置いてきぼりにシレン(コッパ付き)とサヤの地獄の鬼ごっこは続いていた。

「これは……」

騒ぎを聞き付け集まってきた教師陣は自らの視界を疑った。
しかし、下級生達が震えながら教師の元へ駆け寄ってくるので現実なんだと思い知らされる

「平成から来た天女は…力も体力もないひ弱な人間じゃなかったのか…?」

六年生の誰かが呟いた。
彼ら上級生も顔を青褪め眼前の光景に恐怖している。
憎むべき対象の天女が自分達には到底追い付けない腕力を発揮しているので、ショックが膨れ上がってダメージになったのだろう。

この天女を相手に、果たして復讐は成せるのか。
そう考えた時だ。忍術学園の人だかりの間に何かが飛んできた。
そのまま長屋の障子を巻き込んで建物内に転がりこんだのは人。
善法寺が「僕達の部屋が!」と悲鳴を上げた。

しかし、その後、体勢を低くしたままサヤが走り抜けていき、教師達の制止も間に合わないまま竹箒を斜めに振り上げた。
ゴウゴウと風の唸る音、次にはバキバキィッ、と嫌な音が鳴る。

部屋目掛けて振り上げられた竹箒の剣筋は巨大な風の刃となって、廊下の柱の一つを巻き込みそれでも威力を落とさないまま部屋を切り付けた。
まるでクレーンで吊った鉄球がぶち込まれたような惨状に、善法寺は声が出なかった。同室の食満も無言で項垂れる。

シン、と静まった中、サヤだけがゆっくりと砕け散った部屋へ足を踏み入れる。
それにハッと教師陣が動き出した。彼女を止めないと。
一番先に近付いた土井が声をかける。

「サヤさん待ってください!」

その呼び掛けに彼女は部屋から出てきた。
しかし、右手にイタチの尻尾を掴んで逆さ吊りにし、左手には男の襟を掴んで引き摺って歩いてくる。どちらも白目をむいていた。
土井は顔が引きつるのを必死に抑えながら、首を傾げ話しの続きを促すサヤに制止を試みる。無意識に胃のあたりを擦って。

「あの、これ以上はちょっと…」
「ああ、ごめんなさい。少し頭に血がのぼり過ぎました」

ボロボロの一室と折れた柱を見て苦笑を浮かべ、彼女はニッコリと教師達に笑いかけた。

「では、どこか拓けた場所を貸して頂けますか?そこで改めてコレを片付けますから」
「やめて下さい!お願いします!」

そういう問題じゃない。
教育上かなり宜しくない光景に土井は生徒の為を思って頭を下げた。
他の先生方も必死で止めている。

そのタイミングで、ボフン。と、煙玉が投げ込まれ辺りを包む白煙の中、嗄れた咳が響く。

「ごほっ、ごほごほっ」
「学園長…大丈夫ですか?」

自分で投げた煙玉に噎せたらしい。
煙が霧散したそこで背を丸め咳き込む大川を、山田が呆れた表情で擦ってやる

「うぉっほん!サヤ殿、その腕前見せて貰ったぞ!」
「はい?」

持ち直した大川がサヤをビシリと指差した。
きょとりと目を瞬かせるが、目の前の老人はにんまり笑うのみ

「サヤ殿は平成から来たというのに確かな腕をお持ちのようじゃ!」
「ヘイセイ?私は名もない山に住んでたのでヘイセイという村の出身では無いのですが」

時が止まった。

「「え…?」」
「で、ではお主は天女ではないのか…!?」
「あら、天女と呼び始めたのはそちらではありませんか。異世界から来た女をそう呼ぶのだと聞いてはいますが、ヘイセイから来た女を天女と称するなんて…今しがた初めて耳にしましたよ」

そうだ、彼女は一言も平成の世から来たとは言ってない。
学園に降ってきた時点で天女と決めつけていたから、誰もサヤが何処から来たのか問わなかった。
サヤもまた、そういう物だと言われたのでこちらの事情に口を出さなかっただけだ。

何の事なのか話が見えず不思議そうにする女の前で、大川はダラダラと冷や汗を垂らした。

「えっと…、もう宜しいでしょうか?私この二人には恨みがあるんです。処分しないと気が済みません」

花が綻ぶように笑う彼女の手には相変わらずイタチと男。
その異様な状況に、誰かが恐る恐る聞き返した。

「恨み…?」
「えぇ、害を被ったんですから3倍返しは妥当でしょう。私、恨みは死ぬまで忘れない質なので」

綺麗な微笑みを浮かべる女に、忍術学園の人間が土下座するまで5秒前。
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