また一人渋い顔で忍たま長屋に戻ってきた。
その表情をお互い見合って「お前もか」と眉を寄せる

「ったく、あの天女いったい誰狙いなんだ…!?」

食満がガリガリと頭を掻く。自分があれだけ笑顔に親切に接しているのに素っ気ない態度が反ってくるのが気に入らないのだ。

「うーん…まさか、下級生か?」
「いや、それは無い。下級生にも同じだ。先生方にも一線引いた態度だしな」

七松の言葉に立花がすぐに否定を述べる。
潮江が舌打ちをした。
六年生が揃って苛立った表情をした時、中在家が空を見上げた。

「どうした長次?」

不思議に思った善法寺が天を見上げれば、青い空に黒い点。
徐々に、徐々に大きくなっていくそれ。

「!」

善法寺が目を見開いた時には、級友達にもそれの声が耳に入っていた。

「天女…!?」
「何故…!?また天女が落ちてくるなど…!」

近付いてくる、否、落下してくるそれの悲鳴が確かに聞こえる。
庭で遊んでいた下級生や自室で休んでいた上級生も六年生の声を聞き付け慌てて空を確認しに庭に集まる。

一直線に学園に落ちてきたそれはふわりと風を纏ったようにスピードを緩め着地した。

「天…、…女…?」

天女とは言い難い。何故なら降り立ったのは男だったからだ。

「天女ではなく天男か?」

どこか的外れな台詞を七松が呟く。
天男は目を瞬きキョロキョロと辺りを見た。そして己を見ている忍たま達に歩み寄る。

「あ、あの…?」
「コイツ刀を持っているぞ!天女じゃなく間者ではないか!?」
「え!?」

潮江が男の手にある刀を指せば、男は自分の手を見下ろす。確かに刀が握られている。
男が弁解しようと顔を上げた時には、六年生を筆頭にその場にいた忍たま上級生に四方を囲まれていた。

「ま、待てよ!オイラ達は戦う気はないって!」

男の肩からモゾリと白いものが顔を出し慌てた声をあげる。

「イタチが喋った!?」
「妖術か!?」
「違う!オイラは語りイタチのー」
「やはり天女か!?」
「オイラの話聞けよ!」

完全に怪しいものを見る目付きで男とイタチに武器を向ける上級生達。
男も緊張したように刀を構えた時、後ろから下級生の声が上がった。

「天女様待って下さい!」
「行っちゃ駄目です!危険です!」

四年生の田村が振り返った時にはサヤが側を通り過ぎていた。

「天女様!?」

忍たまの間を縫って走ってきた姿に六年生がどよめく。
それと同じく、男とイタチが目を丸めた。

「「サヤさん!?」」
「シレン君…コッパ君…」

しまった、天女の仲間だったのか。
上級生が顔を歪めたと同時にサヤが男とイタチの名を呼び、くしゃりと表情を崩した。そんな顔は初めて見る。
忍たま達が驚き、一瞬固まった時に事は起こった。



「どの面下げて私の前に来やがったクソガキ共!!」
「ぎゃぁああっ!!!?」

一歩踏み出して竹箒を振り上げると、迷いなく男目掛けて降り下ろした。
男の肩に乗っていたイタチの悲鳴が聞こえたが、竹箒が地面に勢いよく叩き下ろされたせいで土埃が巻き上がって目視できない。
地面が砕けたのか小さな小石や土の塊なんかが、一番近くにいた六年生の頬にコツコツ飛んでぶつかる。

「……え?」

呆然と呟いたのは六年生だけではないはずだ。

土埃が完全に晴れきれる前に男が跳び退った。肩に白から薄茶になったイタチがしがみ付いている。

「サヤさん!俺達はもう敵じゃない!」
「そうだよ!オイラ達謝るから…!」

必死に彼女に待ったをかける男とイタチ。男の刀も下を向いて、構えすらしてない。
土煙が晴れればサヤが立っている。
二人の声なんぞ意に介したようもなく目付きは鋭い。まったく笑ってない。
普段穏やかに微笑んでる人間が険しい顔をすると余計に怖い。

くるり、と竹箒が彼女の手の中で回される。

「ま、待っ……!」
「問答無用!!」
「っぎゃーー!!!」

横に一閃された竹箒。
男が慌てて刀で防ごうとしたが、刀が弾き飛ばされる。
飛ばされた刀が食満の数十センチ横の地面に突き刺さった。

「ど、どうなってんだ…?」

その声は少し震えていた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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