本日も暇なサヤは庭掃除という無難な仕事を貰い、竹箒を手に枯れ葉を掃いていた。

「天女様お手伝い致しましょうか?」
「いえ大丈夫です。もう終わりますから」

これで何度目だ。
忍術学園の生徒に笑顔で同じ台詞を吐かれ、サヤは似たような表情で断る。

「そうですか…遠慮なさらないで下さいね。では、また」
「お気遣いありがとうございます」

六年生の制服が去っていった後もサヤの微笑みは崩れなかったが枯れ葉を掃く手付きが荒い
この短時間で少年達に揃いも揃って同様な言葉をかけられ、断りの台詞を返したのだ。彼女だって疲弊する。

「何を焦っているのか…」

ここ数日になって少年達が声をかける頻度が上がっていた。今だって特別人通りが多い場所ではないのに少年達が数分毎にサヤの元へやってきたのは偶然ではないのだろう。
相変わらずにこやかな笑顔と優しい台詞にそぐわぬ殺意の籠った目を向けられ、彼女の内心は戸惑いをとうに越えて苛立ちに変わっていた。
何に駆られて明らかに嘘の好意を示してくるのか。疑問に思いはするが、それ以上にサヤもまた焦っているのだ。

幾度待てども帰り方を教えてくれない。
自分で探して見付からないならこうも苛つきはしないのだろうが、学園側は情報を一切伝えない所かサヤの行動を制限して彼女自ら情報を得る事を阻止している。

日に日に「帰り方を探す」という明言が嘘かもしれない。そんな考えが強くなる

自分より以前の天女達はどうやって帰ったのだろうか。
まさか、羽衣を見付けて天上に帰ったとか笑えないオチなのか。
サヤは浮かんだ仮説にせせら笑って自分で否定する。
例え以前の天女がそうだとしてもサヤはそうもいかない。
神やら何やらのお偉いさんの力を借りて帰るより、神を叩きのめして力業で帰る方が彼女の性に合っている。

「本当に…神は録なのがいない…」

元の世界に君臨してる神々を思い出してこめかみを揉む。

「カカ・ルーは何の意図でこんな真似を…」

口にしたのは罠を司る神。
通常の罠なら彼の神にこれといった意図はない。しかし、世界を越える罠なんて今まで見たことも聞いたこともなかったのだ。
それが、あのタイミングで

「余程シレン君が大事なんですかねぇ…」

サヤの記憶だと、シレンを気に入ってるのは旅の神クロンだったが、罠神カカ・ルーにまで好かれていたとは驚きだ。

「風来人シレン…」

呟いて回顧する。
まだ青年の域に達していない若さで、各地を渡り歩く腕前と経験。
失敗しても繰り返しダンジョンの冒険に挑む不屈の心、弱きを助け悪しきを挫く真っ直ぐな刀。
純粋すぎる心根を思い出しサヤは眉間に皺を寄せた。

「あの子達さえ来なければ…」

そう言いかけたところで言葉を切る。
そしてまた荒い手捌きで竹箒を動かした、その時にぶわりと風が吹き抜けていく。

「クロンの風……?」

その感覚はサヤが見知ったもので、ハッと顔を上げる。
辺りを窺えば忍たま長屋の方が騒がしい。

「いったい何が…」

胸騒ぎを感じサヤは箒も持ったまま駆け出した。

忍たま達の色とりどりの人だかりが長屋の前の庭にできている。
中央に常磐色の色彩があり、それ以下の上級生がちらほら。下級生は少し距離をあけて様子を見ているようだ。

「あ、天女様…」

外側にいた下級生が気付いて呟くが、サヤの耳には入っていないのか、じっと人だかりの中心に目を送っていた。
生徒達の間から青と白の縞模様がちらつく。

「シレン君…?」

その気配に、その声に、サヤは止まっていた足を再び動かす
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -