「天女様、お手伝い致します」

綺麗に微笑を浮かべ、女の手元に手を差し出すのだが、天女と呼ばれた女はその手をやんわりと遮った。

「いえ、これは私が頼まれた物ですので」

そう告げ、束になった紙を片手で抱え込む。

「そうですか?手が足りない時は遠慮なく仰って下さいね」
「大丈夫ですよ。私ができる範囲の事を任せて頂いてますから」

ニコニコニコニコと両者とも人好きの良い笑顔で話している。
「それでは」と目で礼すると歩き出して廊下の先へ姿を消した女を立花はその場で見送る。

「どうだ仙蔵」
「なかなか手強いぞ、今回の天女様は」

いつの間にか立花の背後に立ち声をかけてきた潮江に、すっと表情を無くして答える。
「天女様」と口にしてはいるがその単語には侮蔑の色が込められていた。

「お前に靡かない天女は珍しいな」
「ああ。優しく声をかければすぐに本性を表すかと思ったが、誤算だな」

会話に応じつつ振り返った立花の顔には先程と違い、皮肉の笑いが浮かんでいる。
くつりくつりと笑いを零す彼と対照的に潮江は険しい表情だ。しかしどちらも冷酷さを帯びていた。

「まあ、時間がかかっても必ず天女様には私達を信頼して貰うさ」
「…ちっ。演技とはいえ、あんな女共に媚びへつらうなんざ胸糞悪い」

吐き捨て更に眉間に皺を寄せた潮江。立花は可笑しそうに少し笑った。

「我慢しろ。これも、最後の為だ。」

同室の級友から目を逸らし、立花は校庭へと視線を移した。眩しい青空に目を細める

「天女様には不様に死んでもらわなければ」

静かに呟いた。





それは朝から雨が地面を打ち付ける日

天女が降ってきた。
雷鳴が轟くように、その報せは瞬く間に学園中に広がる。
今回で10人目だ。

繰り返し繰り返し異世界からこの学園に落ちてくる女達。
もはや彼女達は皆同じ生き物で、一人の女として個人は見られていない。異世界から来た化け物として一括りにされているのだ。

最初に10人目の天女を発見したのは立花だった。

降りしきる雨の中、ふわりと地面に降り立った女は頬に張り付く髪を鬱陶しげにはらったが 、立花が近寄ればニコリと微笑んだ。

「済みません、ここは何処でしょう?」

その問いに立花はもう慣れてしまった笑顔を浮かべ、用意されていた台詞を口にする

「ここは忍術学園ですよ。さあ天女様、学園長の庵へご案内します。」
「忍術…学園…」

一度驚いたように小さく呟いた女だったが、すぐに微笑みを浮かべ「お願い致します」と立花の元へ歩み寄ったのだった。

そんなにも此処に来られたのが嬉しいか。
そう詰りたいが呑み込んで胸の奥に留める。
すぐにこの女を殺してしまっては意味がない。立花は自分に言い聞かせた。

何度も何度も学園を引っ掻き回し汚い高笑いを上げる女共。
これは復讐なのだ。
やられたらやり返す。

忍術学園の人間が負った傷を同じように。
信頼したのに裏切られた屈辱
それをこの天女達にも同じく、いや、それ以上に負ってもらう。
二度とこの場所に来たくないと思わせる為に。

天女が学園に落ちる日が無くなるまで、忍術学園の人間達は天女を騙し続け、裏切り続け、殺し続ける。
区別できなくなってしまうほど盲目的に。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -