「大丈夫ですか?」
「放っておいてください…」

顔を両手で覆い廊下で蹲る土井に、
「急に真後ろから声をかければ確かに驚くか…」とズレた見解を脳内で呟き納得したサヤ。
彼女は幼少時より山の中でモンスターに囲まれ暮らしていたので、土井の耳が真っ赤になっている理由が分からず、言われた通り放って置くことにして視線を外した。

そして今度は自分を見上げてくる三人の子供に視線を合わせ、見下ろした。

「「「サヤさんおはようございます!」」」
「はい、おはようございます」

朝から元気に声を揃えた乱太郎、きり丸、しんべヱはお世話になってるはずの教科担当の先生をチラとも見ない。
そして土井の言葉を聞き入れたサヤも一切触れない。

「サヤさん、この障子どうしたんですか?」
「昨夜、壊しました」

乱太郎の問いに、事も無げに告げたサヤ。表情はいつもの朗らかな微笑みである。

たが、一年は組のトラブルメーカー三人組はメンタルが鉄並みなので動じない。
「そうなんだぁ」と頷く程度だ。

「サヤさんも寝相が悪いんですか?僕も寝相酷いんですよぉ…」

しんべヱが照れた様子で頭を掻いた。
寝相のはずみで障子を壊したと勘違いされた女は目をパチパチ瞬かせる。

「いえ、昨夜は侵入者がいたものですから。反射的に部屋の外へ投げ飛ばしてしまいまして」

投げ飛ばす以上の事をしたのだが、わざわざ口にはしない。

「侵入者って…あ!サヤさんもう知ってるんですか?」

乱太郎がポンと手を合わせ、思い当たる人間が居たのかニコニコと話し出す。
それに一早く反応したのは土井だ。
慌てて立ち上がり、乱太郎の前に掌を向け話を止めた。

「いや、サヤさんの部屋に来た人間と、乱太郎の言う侵入者は別だ。ほら、3人は早くその侵入者の情報をは組のみんなに伝えてきなさい」
「あ!そうだった!」
「せっかく近道したのに、ここでお喋りしたら意味ないや!」
「早くみんなを集めなきゃ!」

土井に促され、3人は顔を見合わせる。
そして土井とサヤにペコリとお辞儀をしてから走り出した。

「じゃあ土井先生また後でー!」
「サヤさんも早く朝ご飯食べた方が良いですよー!」

手を振りにこやかに見送ったサヤだったが、3人の姿が小さくなった瞬間、隣の土井に問うべく唇を開いた。
その声色が冷静過ぎて、土井は背筋に悪寒を走らせた。

「で、今朝になって侵入者が現れたんですか?私に言いたくない事情があるのなら聞きませんけど。」
「っ、いえ、言いたくない訳ではありません。ただ、先に事情を説明する必要があるので、シレンさん達とご一緒に話を聞いて頂けませんか?」

学園の事情として通せば掘り下げはしないのに、わざわざ部外者である己とシレン達に説明があるとは余程の事態が起こったのか、それとも自分達に対する警戒心が解けたのか…推測が頭を過ぎるもどちらにせよ話を聞く前からは思考しても然程意味は無い。そう頭の中で締め括り、サヤは頷いた。

「では、そうですね。朝御飯にしましょうか」
「あ、はい。」

段々とサヤのペースに慣れたのか、すんなり受け入れただけでさっさと必要な次の行動に移る彼女に土井は苦笑しながらも縦に首を動かすに留めた。

「ああ、そうだ。シレン君とコッパ君なら私が呼んで来ますよ。お二人共寝坊助ですから、まだ寝ていると思いますし」

そう申し出たサヤは優しげに唇をたゆませるが、土井は額に冷や汗を滲ませ、どうしても逸らせない視線の先の物を怖ず怖ずと問い掛ける。

「そ、それは有難いんですが………サヤさん、どうして…槍を持っているんです?」

いつの間にか彼女のしなやかな手には得物である黒い刃の大槍が鈍い光を放っている。

「ふふ、すみません。これは…八つ当たりです」

口許に指を当て楽しげに微笑むサヤ
思考まで固まってしまう土井。

「や、八つ当たり………?」

笑みを深める女に、「しまった。聞き返さなきゃ良かった」と後悔するがもう遅い。

「だって、どうしてもシレン君達を見るとぶちのめしたくなるんです」

実に穏やかな見た目で凶悪な言葉を告げるサヤに、土井の胃は痛む事を忘れ空笑いが漏れるだけだった。

「…生徒に影響が出ないよう、程々にお願いします……」
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