六年い組の立花と潮江の部屋に人影が二つ。
しかし部屋の主の片方である潮江はここにはいない


「どういう事だい?」

口調こそ強くはないが、善法寺は目の前の級友に鋭い視線をぶつけた。

「そのままだ。サヤさんが天女じゃないと分かったので計画を白紙にする」

事も無げに応えた立花は、善法寺の視線もさらりと受け流しお茶を飲んだ。
眉間に皺を寄せ目を伏せた彼に、立花は湯呑みを置くと重ねて口を開く

「五年生も監視を解いたらしい。何でも、サヤさんに殺気なんか向けられないとか」
「な、なにそれ…?」
「さあ?以前のシレンさんへの惨劇…制裁?に恐怖が刻み込まれたんじゃないか」

くすり、と綺麗に微笑する立花。その余裕に本当は何もかも知っているんじゃないかと善法寺は胡乱げな表情を浮かべたが、肩を竦めるだけでスルーされる

「まあ、五年の本心はともかく…妥当ではないか?私達は復讐に駆られ相手が区別できなくなっていた。情報を誤った」

情報が忍者にとってどれほど大事か知らない忍たまはいない。
その情報を正しく集めていなかったのは事実として突き付けられたのだから、善法寺は閉口して唇を噛んだ

「これ以上サヤさんや天女の事に傾倒するより、己を鍛え直す事が大事だろう…と文次郎と珍しく意見が一致してな」

立花の言う通り、人一倍天女への嫌悪感が強く監視に時間を費やしていた潮江も今ではサヤの側を離れ以前と同じくギンギン鍛練の日々だ。
ろ組の二人も口にはしていないが、天女の対応にあてていた分を鍛練や委員会に戻している

「だからって…警戒を解くなんて…!あの人が危険なのは変わりないだろう!僕達六年生が警戒しないと。後輩が傷付いてからでは遅いんだよ!?」

善法寺は鋭い剣幕で言い放つと同時に立ち上がる。
六年の中で優しいと称される彼だが、今回はその優しさが後輩を守ろうという責任感となり意固地になっていた

「落ち着け。自室が大破されて気が立つ気持ちも分かるが…」
「確かに今でも留三郎が直してる途中で、まだボロボロだけど…」

い組の善法寺と食満の部屋は、シレンとコッパが落ちてきた日にサヤの手によって無惨な状態になった。
数日経った今も修復中で連日食満がトンカチ片手に頑張っている。「不運だ」と嘆きながら


「って違う!そこは今関係ないよっ!」

立花のペースに流され、どんよりと凹んでいたが声を荒らげ軌道修正する

「君達がサヤさんに手を下さないというなら、僕独りでも監視を続けて、いざという時は僕が…!」

立ち上がっては俯き顔を影に隠す善法寺。その両掌は固く握り締められている
思い詰めたように言葉を切った後、踵を反し部屋を出ていく友人に立花は呼び止めた

「待て、伊作」

しかし、その制止に振り返る事なく善法寺は出ていってしまった。

「…無事で済むといいが、」

立花の呟きは彼に届かない。
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