今の状況を説明します。
右手に八左ヱ門、そして左手に俺を抱えた暴君が廊下を爆走してます。
男二人を軽々抱えて走れるとか小平太さんマジ暴君。六年で一番小柄なくせに人間じゃねぇよ化け物だよ。

「ちょーじー!二人を連れてきたっ」
「あだっ」
「ぐはっ」

目的地に着いたらしく小平太は途端に手を離し、俺達は受け身も取れないまま廊下に転がり落ちた。
むくりと体を起こし、座り直して痛む体を労る。

急に拉致されて廊下を宙に浮いたまま進んでいったのが余程堪えたのか、八左が起き上がっても虚ろな顔してる

「七松先輩…力持ちっすね…」
「なんだと!?俺だって八左と小平太ぐらい抱っこして走るの余裕だし!」
「なんでそこ張り合うんですか!」

一番仲の良い後輩に、俺をさしおいて同級生を誉められると男として認められない何かがあるんだよ。
俺だって力持ちだし。生物委員会の後輩全員抱えることも出来るし。本当だし。

「小平太が…すまない…」

プンプンしてると頭上から小さく声がかかる。
見上げれば長次が僅かに申し訳なさそうな顔をしていた。
小平太はというと、部屋の中で布団を敷いている。

「アイツ…一緒に寝るとか言ってたけど、本気か?」

長次が頷く。
えー…俺と八左が一緒に寝るのがそんなに羨ましかったのかよ…
アイツ後輩大好きだからなぁ…八左と一緒に寝たかったのかなぁ…

「中在家先輩…なんで止めてくれなかったんですか…」

八左ヱ門が参ったように問えば、視線がゆっくり外された。
ああ、止められなかったんだな…

「できた。さあ、寝るぞ!」

腰に手をあてコチラを振り向いた暴君はとっても楽しそうでした。


「しゃーねぇな。仲良く並んで寝てやるよ!」

ついでに修学旅行のごとく恋バナでも怖い話でも下ネタでも何でも語ってやろうじゃねぇの。
と、心優しい集吉郎くんが立ち上がって部屋に入れば、横向きに並んだ二つの布団。若干ぐちゃぐちゃ。

「なにこれ?」
「こうすれば4人で眠れる」

ドヤ顔で言う小平太。
あっ、4人分布団用意できなかったんですね把握。

「お前が無理矢理連れてこなけりゃ布団持ってきたのに…」

八左の部屋に置いてきちゃったよ

「取りに戻ります?」

隣にきた八左ヱ門は疲れたように空笑い。
そうした方が良いな、と思った時に小平太がお決まりの台詞を言う

「細かい事は気にするな!このままで良いじゃないか!」

一足先に寝転がって自分の隣のスペースを「来いよ」とばかりにポフポフ叩いている。
何かムカつく顔だったので踏みつけておく。

「痛っ、酷い…集吉郎…最初は優しくしてって言ったのに…!」
「何の最初だ、何の。お前のそういう小芝居なんて誰も求めてねーよ」

何か馬鹿らしくてどうでも良くなったので、小平太の隣に転がって顔面を鷲掴んでおいた。痛がってるけど無視だ無視!

「もそ…」

小平太が端に寝たので、その反対側の端に長次が横になる。さっさと掛け布団を被るあたりもう眠いらしい。

「ほら、竹谷も早く!」
「うん、諦めろ」

未だ困惑し立ち竦んでる後輩に声をかければ、苦笑した彼は俺と長次の間に空いてるスペースに潜り込んだ。


何かお喋りに興じようにも今日はもう疲れた。主に精神的に疲れた。
流石の暴君もそうだったらしく、さっさと灯りを消し全員眠る態勢になる

真っ暗な静寂。

眠気もすぐに迎えにきてくれ、瞼をおろした。


が、暫くすると小さな物音が耳に入る。


カリカリカリ…

「小平太うるさい」

カリカリカリ…

「んえー…?私じゃないぞ。竹谷か?」

カリカリカリ…

「俺じゃないですよ…」

カリカリカリ…


爪で床を引っ掻くような小さな音だ。
俺達3人じゃないなら、まさかの長次?

上半身を起こして長次を見た。
横向きに壁側を向いてる長次から静かな寝息が聞こえる。狸寝入りじゃなさそうだ。つか、寝るの早っ

カリカリカリカリカリカリ…

「…じゃあ、この音だれが…?」




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