「へぇ、先輩達ってそんな風に仲良くなったんですね」
「まぁな。あの後、一緒に大木先生に怒られて更に絆が深まった」
「あの蜘蛛女に比べたら先生の怒った顔も可愛く感じたぞ!」

小平太と俺が組み手の鍛練をしていたら、側を八左ヱ門が通りかかったので休憩ついでに過去の話に花が咲いてしまった。
3人に共通点があるからか、割りとこの3人で連む事は多い。
俺を経由して交流するようになった小平太と八左も、馬が合うのか今では良い先輩と後輩の関係になったらしい。

「しっかし…集吉郎はあの頃と変わったな…」
「お前は全然変わらないけどな」

小平太がじっくりと俺の顔を見やがるので、視線を合わせて顔を見返す。まん丸な目とか変わんねぇわ。

「あー…、七松先輩の言う事、俺も分かります。」

八左ヱ門が参戦し、俺をじっと見る。
お前ら怖いよ。真顔でこっち見んな。

「何ていうか…三緒先輩ってもう少し線が細かった気が…」
「だよな!ちょっと女の子みたいでふわふわしてた!」

うんうん。と同じタイミングで頷く二人。
言ってる事は分かる。

まだ成長期の前だった下級生時代は、背もそこまで高くなかったし筋肉も全然無かった。
だから前世が女の俺は、男らしく。という意識もあまり無かったのだ。それが雰囲気に出てたんだろう。多分。

「それが今ではこれですからね…後輩達に熊みたいって言われてるの知ってます?」
「熊か!六年の間では獅子って言われてるぞ。」

仕方ないのだ。
だって身長も骨格もムキムキ成長して、長次や木下先生にも負けないガタイの良さを手に入れちゃったんだもの。

「一年生の時にやった女装の授業なんて可愛かったなぁ。普段よりずっとしおらしくて……あれ?昔は集吉郎の一人称゛私゛だったよな?」
「あっ…、確かに…。」

本人そっちのけで盛り上がっていた二人の目が再びこちらに集中する

「あ、ああ…まぁ。でも、今も目上の人に対する時は゛私゛って言うだろが」

流石にこの外見で゛私゛は似合わないからなぁ
゛俺゛の方がピッタリだと思って直したのだ。下級生の内に直したので、現在は違和感なんてまったく無い。

「なぁんだ。特に深い意味は無いのか…。実は女の子でした!とかだったら面白いのに。」
「いやいや、俺達ばっちり風呂なんかで三緒先輩の裸見てるでしょ」

……びっくりした…!
小平太ってたまに的のど真ん中をスパァンッと射てくるから怖い。さすが野生児。
いや、これで前世と結び付く可能性はゼロに等しいだろうけど。八左ヱ門の台詞に乗っとくか…

「なに馬鹿なこと言ってんだ。下級生の頃からずっと俺の立派な分身見る機会あっただろうが」
「先輩もなに馬鹿なこと言っちゃってんですか!?」
「あ?俺の分身が立派じゃないと言いたいのか?」
「下品な事言わない!」

八左に怒られた。解せぬ。
お年頃の男子と言や、下ネタトークだろ!あれっ?違う!?
あと小平太笑い転げるな。背中に座ってやるぞ。

「そんなんだから、くのたまの子達が近寄らないんですよー」
「なん…だと!?ちょ、ちょっと待て!その話マジか!俺そんなくのたまの子に嫌われてる…!?」

超ショックなんですけど!
前世が女といってもこの体だし、行く行くは結婚したい。家庭的な奥さん欲しい!可愛い彼女が欲しい!
なのに女の子にモテない…だと…!?

「見た目からしても女は怖がって近寄って来ないだろうな!」

さっきまで大笑いしてた小平太が起き上がって笑顔で残酷な事を言い放つ。

「俺超優しいのに!心は繊細で純粋なのに…!」
「せ、繊細…?三緒先輩が…?」
「後輩にはモテてるから良いじゃないか!委員会に入ってきた一年もすぐに懐いたって聞いたぞ」

頭を抱えて、今までの女の子達との交流を思い出す。
隣で何か言ってる二人うるさい。

「つか、お前達だって女の子にモテないだろうが!汗臭いとか獣臭いとか土臭いとか虫臭いとか!」

二人にキッと顔を向け吼える。

「確かにな!」
「そうですけど…それ三緒先輩も同じですよ?」

くそ…っ、ダメージ与えるはずが全然効き目ねぇ…!むしろこっちが痛い。

「でも可愛い女の子と仲良くはなりたいな!」
「ですねぇ…」
「うんうん…」

3人で頷いていたら、ぬっと影が出来た。

「そんな七松君、三緒君、竹谷君に朗報です…。」
「しゃ、斜堂先生…」

見上げれば斜堂先生が立っていた。
斜堂先生が俺達3人集まってる時にわざわざ声をかけるなんて、嫌な予感がする…

「私の受け持つ一年ろ組の子達が、近頃長屋で嫌な寒気がすると言っているんです…」
「一年ろ組の子達ですか…」

呟く八左ヱ門の顔が引きつる。
それもそう。あの子達は視えることは無いようだが、何か感じてしまう事が多々あるのだ。

「それで眠れないと困っています。君達3人で其処から遠ざけてください。貴方達はそういう女の子からは人気ですから」
「捕食的な意味で!?」
「化け物からモテても!」
「つまりは私達は餌なのか!」

口々に言い返せば、斜堂先生の目が鈍く光った

「やってくれますよね」
「やります!やらせて頂きます!」
「わーい後輩達の為に頑張るゾー!」
「いけどんに化け物退治だっ」

急にやる気を見せた俺達3人に、斜堂先生は満足気に頷き「頼みますよ…」と言ってすすすーと去っていった。

姿が見えなくなった後に3人顔を見合わせる。「どうする?」と。

「や、やるしかないんじゃないですか?怖いですけど…幽霊より斜堂先生のが怖い。」
「それは激しく同意だ八左。」

まさか俺が常々思ってた事と同じ考えだったとは…

「けど、私達が何かした所でどうにかなる幽霊なのか?」

小平太が首を傾げるが、俺と八左ヱ門は「それを言っちゃ終わりだ!」と睨み付ける
小平太は眉を下げて頬を掻いた。そんな可愛こぶっても許さん。

「兎も角、斜堂先生の口振りから察するに女の霊なんだろ?口説いて説得だ!」
「何が悲しくて死んでる女を口説かなきゃいけないんですか…」
「言うな八左。俺だって生きてる女の子に言い寄りたいわ」

3人で何とか幽霊を長屋から離すように誘導しないといけない。こんな時こそ忍の術だ!俺の話術が火を噴くぜ…!

「幽霊が可愛い女の子だったら良いのになぁ…」

小平太の呟きに俺も八左も黙って虚空を見上げる
アイツらって大抵どっか欠けてたり、人間の骨格してないからなぁ…

「怪談話に出てくる美人の幽霊なんて嘘ですよね…」

八左ヱ門の一言が妙に胸に突き刺さった


その夜、一年長屋の近くで野太い悲鳴が3つ上がる事になる




3人寄れば獣臭
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