ちゃんと説明して誤解は解いておいた。何も私は残虐的思考で「出会うポケモン全部叩きのめせ」とは言ってない。
「どうですか?経験値溜まった感じします?技とか出そうです?」
「あー…動きは良くなってきてると思います…」
「技は…」と呟き難しい顔で首を捻る潮江さん。流石にレベルが幾つも上がった訳じゃないだろうし、数十分で技を覚えたりはしないか。
うーん…追々経過を見よう。それによって予定も変わる。
難しい顔のままの潮江さんが気を逸らしてくれるように、気付いた周囲の変化を言葉にする
「少し…道が平らになってきましたね」
「そうですね。麓に町とかあるでしょうか?」
町か…、潮江さんの言う通り町がすぐあれば助かる。
野生のポケモンから推測するにここがジョウト地方っぽい事は分かるが、どこら辺かは分からない。
コラッタ、オタチ、イトマル、ポッポ…ゲームでは序盤に分布するポケモンだけど、どこにでも居そうなポケモン達だ。
「君島さん、建物が…」
「本当だ…潮江さん、私の側から離れないでくださいね。あと大人しくしててください」
潮江さんが木々の間に建物を見つけ教えてくれた。
何の建物か分からないが、中に人がいそうだ。ここが何処あたりなのか知るチャンスになりそう。
でも、潮江さんが喋るストライクだと騒ぎになったら大変だ。悪い組織に絡まれたりするのもごめんだし。
そう考えて潮江さんにポケモンのふり…黙って動かなければ普通のポケモンだろうから、指示を出したのに、
彼は不服そうな気に入らないような驚いたような複雑な顔で頷いた。
◆
「下りれますか……?」
「…いけなくはないです」
あ。胡乱げな顔。
こんなに表情があるストライクって目の前の彼だけだと思う。…ほぼ顰める系統の表情ですけどね!
「っよ!」
建物を目の前にして結構な段差があった。回り道はなさそうなので意を決して飛び降りる。
私の身長の半分以上あるだろうか…その段差を降りれば着地した足がジーンと痛む。
転ぶような不様な事にはならなかったが膝まで痺れるわ。小学生の頃なら余裕だったろうに…歳には抗えないな…
「…大丈夫ですか?」
見かねた潮江さんの声がかかる。
「あ、大丈夫、です。今行きます」
そう言って踏み出した足はやっぱりビリビリしてるけど、目の前の建物にやっと入れるんだから我慢だ!根性だ!
建物に入る直前に側に立っていた立て札らしき物に気付く。
書かれていた文字を全ては読めなかったが、一部の単語が目に飛び込んだ。
マウンテンロード…?
自転車で走る道はサイクリングロード、だよね。
マウンテン…山道?
うーん…どこだっけ?
◆
ああ、成る程。この建物は道路や町の境目にあるアレか。
入った瞬間理解した私と違い、後ろにいるストライクはキョロキョロと建物内を観察している気配がする。
建物内はシンプルで、入ってきた入口の他にもう1つの出入口が真っ直ぐ正面にある。
縦長の空間には左右にカウンターのような物があるだけ。その片方のカウンターの中に男性が立っている。
男性は警備員らしき服装をしていて、入ってきた私に対してニコリと笑った。
「済みません、ここから一番近い町はどこですか?」
カウンターへ歩み寄って問えば、男性はニコニコと愛想よく答えてくれた。
「西に向かえばヨシノシティに着くよ。反対の東にもワカバタウンがあるね」
「ヨシノとワカバ……ありがとうございます。」
地理が分かった所で男性に一礼して、入ってきたのとは別の出入口で外に出た。
「君島さん今のはどういった建物だったんですか?」
出た瞬間に訊いてきた潮江さん。周りに人影はないが声を潜めている。
「今のは…そうですね、関所…みたいな物ですかね…」
「関所…ですか?」
目を丸め聞き返す彼の反応も最もかもなぁ…
別に取り調べをされた訳でもない。
「この世界の関所ですから…」
他に説明が思い付かないから曖昧に笑って誤魔化す。
「そうですか…。で、どこに向かいます?」
納得してない声音だったが、それ以上掘り下げる事はなく次の話題に移った。
行き先、大事な話である。
さて、どこに向かうか…。
伝説のポケモンはヨシノもワカバもどちらにも関連ない。
それにワカバタウンには研究所があるが、私には伝手もないしウツギ博士に会った所で急に協力は頼めない。カントーへ繋がる道もあるが、あそこは水に遮られているし…
それを考えると先に進む道のあるヨシノシティに行くのが妥当だよね。
それを口にしようと顔を上げた時、腹にすごい衝撃があった。
「君島さーんっ!!!」
「っっ!?」
ものすごい勢いすぎて悲鳴すら出ない。
お腹を押さえながら下を見ればガーディが私にキラキラと目を向けながらしがみついていた。
っていうか、このガーディ…私の名前呼んだ…?