なんじゃif
(!)お好きな地方のちょこっと都会な街並みを想像ください
どこもかしこも甘い。
空気も匂いも甘ったるい
気温は寒いが人々の温度は温かくなる今日はバレンタイン。
そんな中、昨日の夕方にとある街に辿り着いた私達。
華やかな街並みに目を輝かすポケモンな忍たま達を構いもせず、私はポケモンセンターの宿泊部屋で死んでいた。
「うえ……は、吐きそう…」
「だ、大丈夫ですか一織さん…」
伝七の小さな前脚が一生懸命私の背中をさすってくれている
「まさか一織さんが甘いのダメなんて知らなかったー!」
「うぐ…ご、ごめんなさい…」
いや、チョコの1つや2つ食べるぐらいなら、私だって甘いお菓子は好きだ。
でも、こうも街中が甘い匂いに包まれてどこへ行ってもチョコやらポロックやらポフィンやら…流石にこれは辛い。
そう弁解しようとしたが、少しでも頭にお菓子が浮かんだだけで気持ち悪くなり、謝罪だけに留めて再び口許を抑えソファに頭を預ける。
その頭を団蔵の前脚がもふもふと労わるように撫でた。
あぁ、忍たまと言えどいたいけな少年達は甘いお菓子が大好きだろうに。
私が部屋に引き篭もってダウンしてなければ、駆け回ってリボンやバルーンで飾られた街並みを見たり、色とりどりで可愛らしいお菓子を頬張っていただろう。
「うぅ…皆さんだけで遊びに行ってはどうですか…?付き添いはできませんが…こんな日に危ない事は起きないでしょうし…」
イベントの日はみんな寛容になる。
恐らくポケモンだけで外に出ても住民は笑顔でお菓子を別けてくれるだろうし、お金を渡しておけば御使いポケモンとして優しく対応してくれるだろう
そう思って息も絶え絶えだが提案したら、忍たま達は顔を見合わせた。
「こんな状態の一織さんを1人残してはおけませんよ」
「潮江くん……」
ストライクの鋭い顔が珍しく困った様に笑った
普段の怖さが激減し、むしろ優しげなイケメンストライクに見える。緑の体が神々しい
「僕も…一織さんと一緒に居ます。何か欲しい物とかあれば直ぐに言ってください」
「伝七くん…!」
いつもはツンツンの伝七も今日は私を甘やかしてくれるらしい。
小さなコリンクの体でソファにちょこんと座り、釣り上がっていた金色の瞳を細め心配げにこちらを見ている
「えっと…、じゃあ、コーヒーが飲みたいです」
「えー…あの苦ーい飲み物ですか?一織さんよくあんなの飲むよなぁ…」
「だ、団蔵くん……」
2人は甘やかしてくれるっぽいが、そう世の中上手くいかないと言う事だろうか。
残る1人の団蔵に顔を顰められ、つぶらな瞳は半目になって私を見下ろす。
「せっかくお菓子がいっぱいあるのに食べられないなんて…そのコーヒーにマシマロぐらい入れたら良いのに…」
「あざとい!…じゃなくて、クソ甘いですよそんなの!」
マシュマロをマシマロと言ってしまう馬鹿旦那は今日も絶好調である。
こんなの後輩大好きそうな食満や鉢屋にでも聞かれたら、「こんな可愛い後輩を誑かしてんじゃねぇ羨ましい!」とかって刺されそうである。
「一織さん口が悪いです」
「あ、はい。すみません」
伝七に普通に叱られる。
ビビった…勝手に忍術学園の先輩達をショタコンに仕立てあげた事を見透かされたかと思った
「団蔵も、菓子は我慢しろ。確かに、こう匂いが充満していれば苦手な人には辛いだろう」
潮江がそう諭す。
2人が外に出ない判断をすれば、団蔵1人街へ出掛ける訳にもいかず。必然的にお菓子は食べられない事へと繋がってしまった。…申し訳ない
「うー…仕方ないなぁ!じゃあ一織さんはお菓子の代わりに体で払って下さいよ!」
「っゴフ!?ゴホッゴホッ!!」
「え、…体で…?」
思いがけない団蔵の申告に潮江が派手に咳き込んでいたが、それは置いておき、団蔵へ恐る恐る聞き返す
「俺はブラッシングを所望します!」
いつの間にやらブラシを咥えてガーディは目の前に座っていた
「念入りに!」
「あ、はい……そういうやつですね…」
体で払うとか、決していかがわしい想像はしていないがブラッシングで許してくれるとは、やっぱり団蔵も私に甘かった。
甘い香りの代わりに部屋の中はコーヒーの落ち着いた香りが漂う。
それにホッと一息入れつつ、膝の上に寝そべるガーディの背に丁寧に丁寧にブラシを滑らせた
「ふへー…極楽極楽ぅ」
「団蔵…親父くさい…」
「臭くない!良い匂いだし!」
「そういう意味じゃない!」
一年生のいつも通りのズレたコントを聞きながら毛玉を集める。冬毛に生え変わったせいでモコモコと大量の毛玉が取れた
「わー…凄い量ですよこれ。伝七くんもやった方が良さそうですね」
シンオウ地方に棲息するコリンクに目を移す。
まだ小さい体でも顔の周りには鬣があるのだろうし、次はコリンクをブラッシングしなければ!
「うんうん!伝七もやった方がいいぞ!気持ち良いから!」
「え、えっと、じゃあ…お願いします…」
交代で遠慮がちに私の膝に横たわるコリンク。青い毛並みにブラシを通した
「痒いところとか無いですか?」
「大丈夫です…気持ち良いです」
ウトウトと微睡む伝七の姿が微笑ましい。ポケモンからするとブラッシングはかなり極楽のようだ
団蔵みたいに葉っぱや枝が絡まっていることもなく、スムーズにブラシを滑らせるが、それでもかなりの毛玉が取れた。
「よし、大量!」
「ありがとうございました」
ふるりと身震いして立ち上がるコリンク。心なしかスッキリした表情だ
「それじゃあ次は潮江せんぱいの番ですね!」
明るい団蔵の発言に、私と潮江の「え」という短い言葉が同時に出た。
ストライクの緑の虫ボディに視線を注ぐ
ブラッシング…ブラシ?ブラシいる?
手に持つブラシと虫ボディを交互に見るが、どういう手入れが正解なのか分からない
「あの、では…背中だけ手拭いか何かで拭いて頂けると…有難いです」
「なるほど!」
やっぱブラシはNGだった。
私よりは小さいが、それでも人間のサイズと変わらないストライクの背中をタオルで拭いていく。
池でも何処でも寝れる潮江だが、学園では忍者たるもの匂いがしてはいけないと毎日風呂に入っていた身だ。そりゃあ綺麗好きなんだろう
「こんな感じでしょうか?あ、羽はどうします?」
「はい、充分です。羽は…敏感なので触らないでおいて下さい」
なんと!ストライクの羽は敏感らしい。
ちょっと潮江の口から敏感とか単語が出てエロいと思った私は変態だろうか?
ショタコン道に進んでしまっているのだろうか?
…そんな事無いと思いたい。
「これだけで良いんですか?」
各自のブラッシングは終わったが、折角のバレンタインのイベントをこんなチョコ関係ない形で消化して良いんだろうか。
とは言ってもあの街並みに出ていってチョコを入手するのは私の死亡フラグである。街のド真ん中で嘔吐する自信があるよ
「勿論です。僕は凄く嬉しかったですよ?」
「そうそう!お菓子も好きだけど、俺達は一織さんの事だって大好きですからね!」
ソファに座る私に両側からコリンクとガーディが擦り寄ったのは、バレンタインマジックだろうか
「じゃあ、ブラッシングが私からのバレンタインって事で」
まあ、日頃の感謝の気持ちをお菓子ではないが、ブラッシングで返せて良かった
「…でも、そういえばバレンタインって、確か好きな男の人へ女の人からお菓子を渡す日でしたよね」
「あれ、じゃあ一織さんは俺達3人が好きって事ですか?」
街に入ってから耳にしたこのイベントの内容を思い出し語る一年生2人。六年生の潮江が視線を反らして微妙な咳払いをした。
あれ?好きな人というのは間違いではないが、どっちかと言えば友達や職場の人に感謝を伝える感覚に近いんだけど…
「よ、4人で結婚するのは難しいのでは…?」
「その発想はなかったかな!」
真剣な顔で団蔵が言ってくるものだから、慌ててツッコミをいれる
「違いますよ!違いますからね?そんな事したら私が犯罪者へ待った無しですから!ストップショタコンダメ絶対!潮江くんも目を合わせないようにするの止めてくださーい!」
気分の悪さはどこへ消えたのか。結局その後の1日費やして説明と言い訳を繰り返した
その日の夜は何故か全員で同じベッドで眠った。
狭かった。