ユリコの真似です
クソガk…じゃなかった、ライバル君に喧嘩を売られてますなう。

「あぁ、この塔のレベルも低いし、アンタみたいなトロそうなトレーナーには、低レベルの手持ちを育てるのにちょうど良いのか」

腕を組んで鼻で笑われる。
その後ろで主人公君がまさか自分じゃなくて、通りがかりのトレーナーに突っかかるなんて思いもしなかったんだろう。目を白黒させている。
そういう私も自分の感情をコントロールするので手一杯だ

ダメですよー君島さん、こんな年下の悪口なんて真に受けない。聞き流すのが大人ですよー

脳内で自分に宥めの言葉をかけつつ、必死に怒りを静めようとしたけど
私の堪忍袋というやつの緒はかなり細く、今にも千切れそう。
そんな私よりも先に10歳の元気な忍たまには耐えられなかったようで

「カッチーン。こいつムカツク!ふざけんなっ誰が弱そうなんだよ!」
「フッ、弱い犬ほどよく吠えるって本当だな。いいよ、他が弱すぎて退屈してたとこなんだ。アンタのそのガーディ、僕のポケモンと戦わせてみてよ」

ぶちり。と紐が弾け飛ぶ音がした

ライバル君の言動にすっかり戦闘態勢を取ってしまった団蔵。
オロオロしだす主人公君が可哀想だなぁ、と頭の隅で呟きつつも、私は1歩距離を取った。

─…元の世界のお父さん、いつも「お前には耐え性がない」と呆れてましたね。実家を離れて、世界まで離れた今でも終ぞ耐え性という物は手に入らなかったみたいです。

「私が勝ったら、さっきの言葉を撤回してくださいね」
「ハッ…アンタの弱そうなポケモンに僕が負けるわけない」

ライバル君も距離を取って一つのモンスターボールを手にする。
主人公君は空気を読んだのか、心配気な顔で後ろに下がった

よし、このガキぜってーぶっ潰す。

「いけっ、ゴース」

ライバル君が放り投げたボールからガス状の靄を纏ったポケモン、ゴースが姿を現した。
大きな口がニヤリと笑う。

「さっき捕まえたポケモンだけど、アンタの相手にはこの1匹で充分だよ」
「分かりました。私は勿論このガーディで勝負します。一対一でいいですね?」
「無駄なバトルはしたくない。それでいい」

バトルの確認をしながら、ふと頭を過ぎる。
さっき、って…確かにマダツボミの塔にはゴースが棲息してた気がするけど、出現するのは夜じゃなかったか?
朝一でマダツボミの塔に入った私は1度も出会っていないポケモンだ。
って言うことは、この子昨日の夜から塔に挑戦してるの?子供の成長に悪そう…

ちょっと心配になってしまったが、先程からの団蔵を馬鹿にするような態度を思い出して気を取り直す。

「はぁ……まったく、どいつもこいつも弱そうだ何だって…その目節穴なんじゃないですかねぇ…」

私は兎も角、忍たまの子達は通常のポケモンよりも成長が早く潜在能力も高いように見える。
それを初見の奴らに弱いだのとほざかれるのは我慢ならない。

「一織さん?何呟いてるんですか?」

団蔵が怖々振り返って見てきたが、口角を無理矢理上げて笑顔を返す。

「団蔵くん、火力全開で思いっ切りいきますよ」
「は、はいっ!」
「フンッ。ゴース、したでなめる」

団蔵が慌てて前を向いて返事をするのと、ライバル君が技の指示をしたのを合図にバトルは始まった。

向かってくるゴース、初めて見るポケモンに避けようかと脚を浮かせまごつくガーディに、静かに声をかけた。

「団蔵くん、炎です。抑えずに焼き払ってください」

団蔵がレベル的に覚えているだろうほのおタイプの技はひのこだけ。
それでも、ひのこを出す前に口に炎を集める仕草を見て、きっとコントロールを度外視すればそれ以上の火力が出せる筈だ。
スピードだって、こちらが断然勝っている
真正面の的なんて狙い易すぎる。

ガーディは浮かせた前足をダンッと踏みしめ、四肢に力を込め眼前に迫るゴースを睨み付けた。

「田村三木ヱ門せんぱい、力を借してください……ファイヤーーーッッ!!」

同じ会計委員会の先輩の名前を口にしたと思えば、彼の石火矢を扱う時の台詞を大声で叫び、その小さな体躯から綺麗に一直線の炎を吐き出した。

「なっ!?かえんほうしゃ!?そんなの覚えてるレベルじゃないだろう!?」

焦った声を出すライバル君を尻目に、ごうごうと真っ赤な煌めきはゴースを飲み込み大きくうねる。
熱風が距離を取っていた私にも届くが、我慢して目を凝らす。炎が霧散した後にふよふよと低空飛行しているゴースを見付けた

「とどめです。このまま噛み付けますか?」
「任せて下さいっ!」

地面スレスレに浮かぶゴースが身に迫る獣に気付く頃には遅く、口に炎をチラつかせたまま牙を立て─炎の牙が決まった。

「す、すごい…あのお姉さんシルバーを一瞬で…」

主人公君が呆然と呟くのがバトルの終了の合図のように、ゴースは目を回して倒れた。

「勝ちましたよ一織さん!」

振り返って胸を反らす団蔵に思わず毒気が抜かれそうになるが、まだ、だ。
ガーディを抱き上げて、頭を撫でる

「言った通り、この子が弱いって言葉撤回してください」
「……チッ、」

舌打ちを鳴らしたライバル君はゴースをモンスターボール戻し、更に目付きの悪くなった不機嫌顔を私に向けた。
大人気ないかと思ったが、無表情を努めて咎める様に彼に近付いていく

「確かに私は強そうなトレーナーに見えないでしょうけど、この子は私には勿体無いぐらい優秀な子です。よく知りもしないのに馬鹿にするのは間違っていませんか?」

俯いて唇を噛み締めるライバル君。
しかしバッと顔を上げ、再び釣り上げた目元を晒すや否や私の肩を押し退けた。

「うるさいブスッ!」
「は、」
「あっ、コラ!一織さんに何言ってんだ!」

あまりにも幼い暴言に理解が遅れ、ポカンとしているうちにライバル君は走って階段を降りて行ってしまった。
その背中に団蔵が吠えまくっているが赤毛はもう見えなくなっている

「ええぇ……語彙力…」

っていうか、団蔵に謝れよ。







「団蔵くん、お疲れ様。見事な戦いでしたよ」
「ふふーん!田村せんぱいの石火矢を真似てみたんです!きっと今はユリコにも負けませんっ」
「うんうん、スゴいですね」

キラキラと得意気な顔を向けるガーディをモフモフと撫で褒める。頭だけじゃなく顎下のモフ毛まで撫で梳く。うん、ここぞとばかりに堪能しているのは私の方なんだけど。

しかし正直、あんな紛うことなき火炎放射が出た時は内心ビビりまくったけどね。塔に燃え移らんくて良かった…

「あの、お姉さん…」
「はい?」

ガーディのつぶらな瞳と視線を交わしていたので気付くのが遅れたが、主人公君が近付いて遠慮がちに声をかけてきた。

「あの!その…すみませんでした!」
「へ…?ど、どうして謝るんですか?」

勢いよく頭を下げられ、疑問が浮かぶ。
ゆるゆると頭を上げた主人公君は本当に申し訳なさそうな表情で。いったいどうしたと言うのだ

「僕…さっきのやつ、シルバーを止める事ができなくて…。この前も止められなかったの後悔したばかりなのに…!」

目線を落としたままギュッと眉根を寄せる主人公君。両手が固い握り拳を作っている。

この前、と言うと
ゲーム通りならば、ウツギ博士の研究所からポケモン盗難事件でも起きたのだろうか?
正面の彼は、言葉通り相当な後悔をしたみたいだ。握り拳が少し震えている

「絶対、今度会ったら謝るように言っときます!」

そう宣言する主人公君。
瞳が使命感に燃えて輝いていて、
彼はどうやら律儀な子みたいだ

「あ、僕もう行かなきゃいけなくて…でも、何かお詫び……」

そう呟いては悩んだ表情を浮べる少年。本当に真面目で律儀な性格のようで、そのまま立ち去るのを躊躇っているらしい。
この様子じゃ、気にするな、と言っても聞きいれてくれないかもしれないなぁ…

「そうだ!お姉さん良かったらコレ使って下さい」

やっと顔を明るくした主人公君は鞄から何かを取り出した。
この少年の気が済むのなら、素直に受け取った方が良いのかもしれない

「えーと、これは…?」
「やすらぎのすずって言って、持たせたポケモンが懐きやすくなるんです!」

掌に乗せられた鈴がちりん、と小さく鳴る。確かにこの綺麗な音色に気持ちは安らぎそうだ

「へぇ、可愛い鈴ですね。ありがとうございます」
「えへへ、きっとポケモン想いのお姉さんにピッタリだと思います!」
「はは、うん、ありがとう…」

ポケモン想い、かぁ……うむむ、さっきライバル君に大人気なく怒っちゃったの思い出したわ。
あんなの見られて普通に恥ずかしい…

「それじゃあお姉さん、ごめん!先行くね!」
「はい。また、」

手を振り階段を駆け下りる姿に手を振って見送る。

「主人公君、いい子だ…!」
「しゅじんこうくん?あの人の名前ですか?」

姿が見えなくなった後で、思わず呟けば腕の中で大人しくしていた団蔵が頭を上向けてこちらを仰ぐ。

「いえ、名前じゃなく……あ。名前聞くの忘れてた」
「………一織さんってやっぱ他人の名前に興味無いんじゃ…」
「ち、違いますよ…?」

次会ったら絶対聞こう。食い気味に聞いておこう。


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