ねこ×3
(もしも、忍たま達がポケモンじゃなくて猫耳獣人になってしまったら)



「どういう事なんでしょう…」

なんという事だ。
眉を下げ、己の頭上のふわふわを触っては途方に暮れたように呟く黒門くん

必死に目を逸らす私。

「どういう原理か本物のようだな…ちゃんと感覚がある」
「潮江先輩しっぽだ!尻尾!あ、俺にもある!」

長くしなやかな尻尾を揺らしつつ腕を組む潮江さんと、自分の尻尾を追い掛ける加藤くん。

必死に目を逸らす私。

「つまり僕達、少しだけ猫になっちゃった、って事ですか?」

黒門くんがピンと立っていた耳を伏せ首を傾げた

そして、彼等から必死に目を逸らす私。

「君島さん…先程から何か…大丈夫ですか…?」
「君島さんだけ人間のままですけど仲間外れにはしませんよ?」
「団蔵…絶対そうじゃないと思う…」

三人が一様にこちらを見てくるので「うっ」と息を詰まらせる

「だ、だ大丈夫です。私のことはお構い無く…!」

顔を逸らしたまま手をバタバタ振って答える不審者な私。
そう、私は……

猫が好きなのだ!!

犬やウサギならこうまでならない。でも猫は…猫だけは駄目なのだ…!
可愛くて可愛くて、あの柔らかい体にふわふわな毛並み…つい撫でてしまう。
だから私は三人をうっかり撫でてしまわないよう、視界に入らないようにしている。しかしチラチラ見える尻尾がたまらない。
うおぉぉ…!静まれ私…!岩だ、岩になるんだ…!

「本当に大丈夫ですか?」
「どこか痛いんですか!?」

言葉と共に私の両手を掴まれる。
そして私はついにガッツリ見てしまった。黒門くんと加藤くんが片方ずつ手を握って上目使いでこっちを見上げていた

天使だ…!天使がいるよ…!

「っっ、か、」
「「か?」」

二人揃って首を傾げる猫耳の一年生。
………もう駄目。

「かわいいーっ!!」

ぎゅっと二人を引き寄せ抱き締める。
ふわふわの耳が首元にふに、と触れた。やわらか…!

「えっ、一織さん!?」

ワタワタともがいた黒門くんが上を向いて「ぷはっ」と息をつく。真っ赤な顔を見る限り結構苦しかったようだ
私は我に返り慌てて手を離し距離を取る。

「すすす済みません…っ!」

私は何をしているんだ…!こんな変態みたいな事したら、くのいちじゃないにしても不審者として苦無でバッサリ切られてしまうだろう。
ただでさえ、きっと怪しまれてるんだ。今まで必要以上関わらないようにしていたのに、猫耳が原因でその努力が水の泡になるなんて嫌すぎる。

「君島さん…もしかして猫が好きなんですか?」
「はい…そうなんです…」

チラリと潮江さんを見て言葉を返すが、パチパチと目を瞬かせ黒く長い尻尾を揺らす姿に慌てて顔ごと目を逸らす。

うわぁ…黒猫だよ毛並みの綺麗な黒猫だよぉ…!

ああ、駄目だ。猫に興奮して脳内がお花畑みたいになってる。しっかりしろ私!

「ああ、あの、ですから…私とできるだけ離れててください…!」

これ以上彼らの姿を見れば、自分が何しだすか分からない。
目を瞑りながら後退りして、やっとそう告げる
これならお互いに安全だ…!

「そういう事なら君島さん!」

お、この元気な声は加藤くんかな?良かった察してくれたみたい…

「いっぱい撫でていいですよ!」

察してなかった!

「僕は今ネコですから!撫でてください!」
「ぎゃああっ!やめてくださいっ」

加藤くんが多分、頭を私の掌にグリグリ押し付けてくる。目を閉じているので見えないが掌に当たる感触は間違いなく猫の耳だ。

「ひっ…!や、やめ…っ」

堪えろ私。抗え私。ここでちゃんと拒否しないと…

「団蔵を止めなくて大丈夫ですかね…?」
「そうだな…君島さんがすごく嫌がっているし…」

「君島さーん、撫でて撫でて〜」
「うっ、うあ…このっ、悪い子め!可愛いなチクショー!」

「……嫌がって、ないですね…」
「むしろ喜んでるな」

ああ、もうほんと可愛い!我慢できずにふにふにの耳を撫でて両手で頭を撫でくりまわす。
加藤くんは目を細め更に擦り寄ってきた。完璧ネコだ!

「加藤くんはアメショかな?縞模様に毛足の短い感触…可愛い…」
「あめしょ?」

デレデレと撫でながら耳と尻尾の模様と毛並みを確認する。
元気で無邪気なアメリカンショート、確かに加藤くんにピッタリな気がする

室町にはいない猫の種類を知らない彼はきょとんと首を傾げ、くりくりの目で見上げてくる

「かあいい〜」
「えへへ、君島さんもっと撫でてー!」
「っ!撫でる撫でる!」

さすが甘え上手なアメショ!犯罪級に可愛い。怪しまれて殺されるかも、とか職場の生徒さんだから一線引かなきゃ、とか普段あれだけ注意していたのも吹っ飛ぶ程の可愛さである。

「あの…君島さん…」
「ハッ…!す、すみません!!」

黒門くんに遠慮がちに袖を引かれ再び冷静に戻り、加藤くんから手を離して自己嫌悪に顔を覆う。

自覚してたけど、猫が絡むと本当に見境なくなるな私…!

「…え、と…そうじゃなくて…その…」

袖を掴んだままモゴモゴと言い淀む黒門くん。
不思議に思って顔を覆う手をそっと外し覗いてみれば…

「あの、僕も…僕いい子にしてますから…撫でてくれますか?」

頬を赤らめ怖ず怖ずと見上げてくる姿。
い組の甘え姿の破壊力…!

「良い子だね…!よしよしよしよし可愛い可愛い」

震える手で撫でてみれば、毛の長い赤茶の猫耳が誘惑してきた。
アメショとはまた違った柔らかく上品な毛並みはメインクーンに似てる。メインクーンの仔猫だ!
なかなか触った事のない、長くすべやかな感触に私はメロメロである。

「君島さん僕もー!」
「勿論です!」

両手に花…いや両手に猫とか幸せすぎる。ここどこのネコカフェ?

加藤くんは少し短い尻尾を犬のようにブンブン振り、黒門くんは箒のように毛の長くモフモフの尻尾を私にピッタリ擦り寄せてきた。
ぎゃー!かわいい…!

両方の頭を撫で耳の裏をかいてやると掌に頭を押し付け、ぎゅっとしがみ付いてくる。
何だろう…何かに目覚めちゃいそうだ。猫パワー恐るべし。いや、猫まっしぐらな私のが恐ろしい…

「潮江せんぱいは来ないんですか?」

加藤くんが振り返って言った。
忘れてた訳じゃないんだが、いかんせん猫に夢中な私は二人とにゃんにゃんするので頭が一杯だったわけで

大事な後輩を誑かした!と怒ってやしないか不安になりそろりと目を上げる

腕を組んでこちらを見る表情は特別険しくはない。いつも通りの顔だ。
目が合うと潮江さんの黒い耳がピコピコと動いた。ひいぃぃ可愛い…!

「そうだな…じゃあ君島さん、お願いします」

そう言って近寄ってくる潮江さん

「え、え?お願いしますって……」
「撫でてください」

事も無げに告げ、むしろ私の動揺っぷりに軽く首を傾げている。
そして、有ろうことか傍に立ったかと思えば少し私の方へ頭を傾けた

「さあっ、君島さん!」
「潮江先輩もこう言ってる事ですし」

左右から抱き付いた一年生に急かされる
潮江さんは待っているのか動かない

えー?良いんですか?本当に撫でちゃいますよ!?触った瞬間グサッて刺されたりしませんよね!?

「し、失礼します……!」

意を決してそーっと潮江さんの頭に触れる。猫の耳が掌に合わせて柔らかく倒れた。
一年生のフワフワさには負けるが、ツヤツヤの綺麗な毛並みだ

「幸せ……!」
「よかったですね!」
「本当に嬉しそうですね」
「喜んで貰えて良かったです」

心なしか忍たま達の声がにゃーにゃー聞こえてくる。

一年生二人は「次は自分も」と擦り寄ってくるので、猫に埋もれてる気分になる。
成る程、これが萌死にそうという感覚か…!

「君島さん!」

加藤くんが私を呼んで笑うので私も笑い返して頭を撫でる。





─…さん!

はいはい、聞こえてるよ

─…君島さーん?

分かった分かった…

「君島さんってば!」
「うーん…?はいはい…いい子いい子…」

耳許で聞こえる声に、何故か重い腕を上げて手探りで撫でる。

「…君島さん…?」

あれ、何かさっきより毛が固いなぁ…
さっきはもっと、フワフワで柔らかくて…?

確めるように撫でるけど、やっぱり毛並みが固い。あとさっきより毛足が長くなった?

「…ん?」

゛さっき゛っていつだ?

ガッと目を開ければ、そこにいたのはパチパチと大きな目を瞬かせるガーディ。勿論猫じゃない

「……、」
「……。」

無言で見つめあう私とガーディ。彼の頭には私の掌が乗っている

「…おはようございます。朝、ですよ?」
「うわぁぁはぁあっ!?ごめんなさいっ!?」

飛び起きれば私はベッドの上にいた。そうだ、ここはポケモンセンターの借りた部屋だ

「えーと…君島さん?起きました?」

声が後ろからかかり、振り向けば戸惑った表情のコリンクと顔を顰めているストライク。

「おはようございます!今準備しますっ申し訳ありませんっ!」

そう言いながら洗面所に駆け込んだ。
いくら朝が苦手な私でも今日はバッチリ覚醒した

…まあ、洗面所のドアを閉めた後に地面に崩れ落ちたんですけどね!
ははは…綾部さんの掘った穴にでも入りたい。


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -