閉ざされた扉
──ザッ

ランニングシューズが地面を踏み締める。
隣のコリンクは凛々しく前を向き、そして私を見上げた。その表情を見れば心配はないが、確認すべく声を掛ける

「いよいよですね。…心の準備は大丈夫ですか?」
「バッチリです!僕、絶対勝ってみせますから!」

イナズマの色と同じ黄色に輝く瞳に力強い意志が見え、私も同じく気合が入る。

「はい。勝ちましょう。勝たせてみせます…!」

本当は緊張してるけど、それを口にすれば伝七を不安にさせる気がして、強気に口角を上げた。
頷いたのを確認してから、私と伝七は正面の建物、キキョウジムへと足を進めた。

扉を潜れば、鳥使いのトレーナーだろうか、私達の姿を見て男の人が歩み寄って来た。

「やあ、ジムへ挑戦者かな」
「はい。お願いできますか?」

力強く肯定すれば、男は私とコリンクを交互に眺め「うーん…」と自分の顎を撫でた。
あれ、何でそんな微妙な顔をするんだろう

「見たところ新米トレーナーだよね。」
「えっと…そうですね」

ヨシノシティのお爺さんといい、この人も。
そんなに私って分かり易く新米に見えるのだろうか
ゲームの主人公達みたいに11歳の少年少女でもない成人女性の筈なのに…

「悪いけど、新米トレーナーに時間を割く程うちのリーダーは暇じゃないんだ」
「…は、」
「そうだなぁ、マダツボミの塔で修行して来たらどう?あそこの最上階の長老に認められればジム挑戦を受け付けるよ」
「ちょ…、」

ニッコリと笑った男は私の肩に手を置き、クルリと反転させて扉の外へグイグイと押し出した。
口を挟む間もなく強引にジムから追い出される

「待ってくださ…!」

反論しようと振り返った鼻の先で、無情にもバタンと扉が閉じる。

「どうしましょう一織さん…」

見下ろせば伝七が所在なさげに肩を落としていた。
この子が悪い訳ではない。毅然と対応できなくて流されてしまった私に非がある
だって今の伝七のレベルはジムに挑戦するには充分な筈で…
それが門前払いとはどういう了見か。弱そうに見えた?そんな訳ない。
もしそうだとしたら私がいかにも新米で頼りなさそうなトレーナーだから手持ちのポケモンも弱いと判断されたのだ。
申し訳なくて情けなくて唇を噛んでしまう

あ。
そういえば、この流れ。ゲームと同じだ

気付いたけれど、これは仕方ないんだろうか?
ゲームではポケモン達を強くする為に、プレーヤーに色々学ばせる為に沢山の足止めの仕掛けがある。
それを順番良くクリアしないと先に進めない。

でも、だからって…
充分に闘える筈のコリンクを見て、「修行して来たらどう?」なんて台詞…、
もう修行終わったわ!
一度あの男に向かって言ってやりたいが、
恐らくそう言ってもジムの挑戦は認められないだろう。

「…しょうがない。ちょっと寄り道しましょう」

しゃがんで伝七の頭を撫でる。青みを帯びた毛並みをサラリと梳く
そしてそのまま両脇に手を差し込んで抱き上げた。

「わっ、あの……一織さん?」
「マダツボミの塔、1時間以内に制覇できると良いんですけどねぇ」
「い、1時間…っ!?」

ニコリと笑い掛ければ、伝七は目を見開いて口をポカンと開いた。
それに返す事はせず、サクサクと足を進める
ジムから離れて、街の北側へ。

水辺に囲まれた街一番の高い建築物、マダツボミの塔へ向う

途中、軽快な音を立ててボールの中から2匹のポケモンが姿を現す。
そして憤慨した様子でガウガウと吠え出したのはガーディこと団蔵

「何だよアイツ!伝七と一織さんに向かって失礼だぜ!」
「一織さん…言われた通り塔とやらに行くんですか?今からでもあの男に再度掛け合った方が…」

続いて潮江さんが言った台詞は冷静そうだが、ストライクの体で鎌をギラリと怪しく光らせながら眼付きは凶悪である。

2人の怒りも分かるので、思わず苦笑が浮かぶ

「んー…、でも良い機会ですよ。先の事を考えて炎タイプの団蔵くんを鍛えるチャンスです」
「え、俺を?」

不意に自分の名前が上げられ、大きな瞳を瞬かせる子犬ポケモン。

「塔の名前でもあるマダツボミは草タイプのポケモン。そのマダツボミを手持ちとするトレーナーばかりですから。レベル上げに活用させていただきましょう」

更に言えば、トレーナー達は坊主。つまり…年齢層はこれまでより高いのだ。
これまでの子供のトレーナー達と違って、これで心置きなく賞金を貰える
そう考えて口許が弧を描いていくのが自分でも分かった。

「ふふ、頼みましたよ団蔵くん。サクッと行って、全滅させてきましょう」
「は、はーい……」

是と応えた団蔵にニッコリ笑顔を返し、早足でマダツボミの塔に続く橋を渡った。
絶対今日中にジム戦は終わらせる



「潮江せんぱい…あれって、もしかして一織さんが1番怒ってる?」
「…みたいだな。目が、笑ってなかった…」

後ろで小声で会話する2匹も。腕の中で固まる伝七も。
様子に気付かないほど怒り心頭の女性が、その日マダツボミの塔を震撼させた。







「ひのこ」
「はーい!」

バトルが始まり、ポケモンが相見えた瞬間に素早く指示しては、煌めく火の粉が鮮やかな黄緑のポケモンに降りかかる。

「ああっ!僕のマダツボミがーッ!!」

一撃である。
坊主達のマダツボミは目を回しバタバタと倒れていく
悔し気な坊主から賞金と、たまに激励の言葉を貰って早足で塔を登っていった。

中央の柱が軋む音をたてグラグラと動く様に段々と酔いそうになるが、できる限り考えないようにしてひたすら先に進む。
因みにこの場は私と団蔵の2人だけだ。伝七と潮江はボールの中で休んで貰っている。
特に伝七には大事なジム戦が控えているので、こんな所で体力を消耗させる訳にはいかない

「団蔵くん、疲れてませんか?」
「まだまだ大丈夫です!」

余裕ある元気な声に笑いが零れつつ、また前を向いた。
今まで初撃で倒してきて、団蔵のダメージはなんとゼロ。ただスタミナが心配だったが、忍たまの彼には要らぬ心配だったようだ。
むしろ私の筋肉痛に不安を感じるが、足を緩める気はない

「疲れるどころか調子いーです!ちょっとずつだけど、出せる炎が大きくなってる気がするんですよねー!」

跳ねるように横を並走するガーディ。
確かに先程から、火の粉と称される技よりも、目に見えて立派に形作られた炎を操っている
火の玉レベルだ。…そんな技無かった気がするが

つらつら考えたまま角を曲がれば、目の前に野生のコラッタがいた。
ハッと身構えた様子だったが、こちらに牙(前歯?)を向ける前に倒してしまおう

「団蔵くん、ずつき!」
「りょーかいです!」

指示を出せば走っていたそのままの勢いでコラッタに突っ込んでいく。
ガーディの頭突きを体に受けたコラッタは軽く吹っ飛んでいった

「今の内に行きましょう」
「はいっ!」

完全には倒してなさそうだが、先を急ぐため
再度立ち向かってくる前に走ってその場を離れる。

何度目かの階段が見えてきて、迷わず駆け上がった
流石に息が上がるが、何とか登りきる。
体力…もっと付けなきゃなぁ

「一織さん、大丈夫ですか?」
「はぁ…大丈夫、です。はぁ…」

登りきれば、何となく今までの階層と雰囲気が違っていた。

「やっと、はぁ…最上階…ですかね…ふぅ…」

じんわり滲む汗を手の甲で拭いながら、少し足を緩める。

「待てよ!シルバーッ!!」
「フンッ…うるさいな。僕はこんな所に用はない」

うん?

厳かな雰囲気の筈が不意に二つの少年の声が響き、目を向ければ、修行僧を押し退けながら赤毛の少年がこちらに早足で向かってきていた
その奥からはキャップ帽を被った少年も。

こ、これは…またゲームの展開?
確かに、マダツボミの塔の最上階で、主人公より先にライバルが長老を倒して、その後さっさと姿を消す流れだったような…
今がそのタイミングなわけ!?

「何だよアンタ、邪魔。」
「あ、はい。すみません…」

階段上がってすぐ通路の真ん中で立ち止まっていた私に、赤毛の少年─恐らくライバル君はギロリと目付きの悪い顔をむける。

「オイ!関係ない人にそれは無いだろ!」
「そうだそうだ!一織さんに謝れ!」

サッと横に退いた私だったが、その様子にキャップ帽の少年─多分主人公君がライバル君の肩を掴む。
更に便乗するように団蔵が牙を向いて吠えた
慌てて団蔵を宥めようとしたけれど、自分に歯向かう姿に機嫌を更に悪くしたのか
ライバル君は肩の手を払いながら、ガーディを冷たい目で見下ろした。

「耳障り。アンタ、こんな弱そうなポケモン連れて恥ずかしくないの?」

ガーディから私へと嘲りの目を移したライバル君。


えーと、この糞ガキ今なんて言った?


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