暗闇の洞穴
「………暗くないですか?」

私を見上げて声を掛けてきたであろう、黒門くんの姿は見えない。
それに対して、見えないだろうが右手に持つそれを揺らした。

「大丈夫です。いざと言う時の懐中電灯は借りてきました」
「いや、それなら良い訳ではないんですけど…」

呆れたようなトーンで呟かれたけど、引き返す事はしない。
わざわざ此処に来たのには理由があるのだ

「ひとまず電気技が出るまで、洞窟篭りの修行です」
「そ、そんな修行があるなんて……」
「いーなー!俺も修行したい!」

そう。
ジムリーダーという強力な相手に挑むのであれば、タイプの相性は押さえておくべき。
通常なら一番頼りになる潮江さんは、虫タイプのストライク。
キキョウの飛行タイプ相手には大怪我の可能性がある為、バトルを任せる訳にはいかなかった。
そうとなれば、電気タイプのコリンクである黒門くんにお願いするしかない。

だから電気技をマスターしてもらうべく私と黒門さんはジム戦に向けて修行に来ているのだ。
まあ、隣でガヤ担当の加藤くんがいるのはご愛嬌である
因みに潮江さんはボールの中でお休みだ。
自分達からジム戦に挑みたいと意思表示した手前、口出しはしないらしい。ボールはシンとしたまま上着のポケットの中に収まっている。

できれば遠距離の攻撃を覚えてほしいなー。鳥ポケモンは素早いだろうし。

「だからって、何でこんな真っ暗な洞窟なんですか」

愚痴るように呟く黒門くん。
それに対する答えは決まっている

「これだけの暗さなら、一瞬でも電気が光ればすぐ気付くじゃないですか」
「確かに、そう…です、けど、…これじゃあ、まったくなんにも見えないですよ!」
「あはは本当だ!」
「本当ですねー。あはは」

ガウガウと吠える黒門くんに、加藤くんと一緒に笑って返す。
いやー、大丈夫。入口付近はまだ見えるし、手探りで行けばどうにかなる。はず! 

それに洞窟といえば蝙蝠の巣窟と相場は決まっている。
そんな所で明かりを点けたら大量の蝙蝠がビャーッと飛んでくるに違いない。だとすると、ポケモンの世界では…

「ズバットがビャーッなんてやだ……」
「ズバッ…?びゃー??」
「あ、いえいえ!何でもないです。さ、行きましょう」

怪訝に思ってるだろう黒門くんを急かし、壁伝いに歩き始める。

しかし、ブニッと
何か踏んだ感触が。

「うわっ!ごめんなさいっ!黒門くんか加藤くん踏んじゃいました!?」
「え?僕は大丈夫ですよ。団蔵?」
「俺も無事!」

二人のどちらかを誤って踏んでしまったのかと慌てて足を戻しながら声を掛けると、斜め後ろから平常の声が戻ってきた。

「あれ…じゃあ、一体なにを……?」

まさかコレは野生ポケモンを踏んで怒らせてしまうパターン?
恐る恐る懐中電灯のスイッチを入れ、足元を照らせば………コラッタが目をグルグル回してのびていた。

「わぁっすごい!君島さん踏んだだけで倒したんですか!?強い!」

あ、やっぱり?私のせいですよね…

「室町に来てから運動してないから…太ったんだ…ごめんなさい……」
「こらー!団蔵っお前が無神経なこと言うからぁっ!!」
「おれ褒めたのにっ!?」

胸に痛みを覚えながら修行は始まったばかり。
…私も多少この世界で痩せないかな…

因みに、私がコラッタを倒しても経験値は増えなかった。罪悪感は増えた。






「たいあたり」
「やあ!」

暗闇に目が慣れれば、動くものは多少判別が付く。
黒門くんも何だかんだ見えているんだろう。私が指示した方向に迷い無く向かっていき、野生ポケモンへ的確に攻撃を成功させる。

今倒したのはツチノコだったか、ノコッチだったか。
比較的安全な相手を倒し、こちらを振り返る黒門くん
うっすら見えるシルエットは胸を張って誇らしげだ。

「ドヤ顔してるのかな…見えない…」
「え?なんですか君島さん?」
「いえ、何でもありませんよ」

迷子防止に、と。肩に乗せた加藤くんが聞き返してきたが、室町を生きる少年に何をどうやってドヤ顔を説明しようか。
難しい事は避けようと、モフモフのガーディの頭をぽふっと撫でる。

「もう!君島さん!ちゃんと見てて下さいよ!」
「ええっ!見てます、って………え!、ちょっ、今…!」

何故か憤慨する黒門くん。慌てて返事を返したが、視線の先でパリッと小さな音と共に確かに、白く輝く線が煌めいた。

「あ、れ…?」

急にキョロキョロと己の身体を見回すコリンク。その小さな体躯の周りをパリパリと今度はハッキリと紫電が走った。

「もしかして、僕………?」
「や…った!やりましたよ黒門くん!電気がちゃんと出てます!」

あ、出てますって言い方は変だな。
でも、やっぱり細い電気がコリンクの体から放たれては消え、また放たれているのだ

「あ、あの君島さん…僕どうしたら…!」
「大丈夫です。あとは落ち着いてコツさえ掴めれば!」
「こ、コツって…!?」

急に体に纏う紫電に混乱した黒門くんが、ぎこちない動きでこちらを見上げる。僅かな動きでも電気に触れてしまわないか心配なのかな。君が放電してるんだから大丈夫なんだけどな
だけど、やはりコントロールするのは難しいのかコツが分からず必死に聞き返してくる。

「うーん。目を瞑って、己の中に流れる力を意識するとか?頭のてっぺんから爪先まで」

漫画なんかでありがちな方法を説明してみると、黒門くんは素直に目を閉じた。
すると、今までランダムに発生していた電気が静かに小さなものに変化してきた。

「次は、どうしたらいいですか?」
「えっと次は、その流れる力を一気に体の外に追い出す感じ?」

次と言われて、何となく電気技が出せそうな、適当な事を言ったのが間違いだった。


両目を開けたコリンクが「一気に…出す!」と口に出した瞬間、
洞窟内が光に支配される。

─ズドォン!!!

黒門くんの正面にまごうことなき雷が落ちた。
間近で見てしまった私は上下左右が分からなくなるぐらい視界が狂い、慌てて座り込む。
暫くしても視界はなかなか戻らないし、チカチカする。
耳鳴りも酷い。

「…君島さん!これって、上手くいきましたよね!?」

間を置いて嬉しそうな黒門くんの声が聞こえたが、私は洞窟の壁に手を添えるだけで立ち上がるのは無理そうだ。

「えーと…そう、ですね。次からは半分くらいの力でやりましょうね」

完全に私の判断ミスだ。
確かに、潮江さんが通常のストライクより強かったんだから、忍たま一年の黒門くんが普通のコリンクより強いのは予想がつくはずなのに。
まさか、初めてでこんな威力を発揮するとは思わなかった。

「あは、は…効果は抜群だ…ってことかな…」

因みに私は全タイプの技どれが当たっても効果は抜群の自信がある


「伝七すっげー!」
「ふふん、当然さ!僕は優秀ない組だからな!」
「それさえなければ完璧なのに…」
「なんだと団蔵!」

二人の楽しげな(?)声が聞こえてくるが、私の目はまだ洞窟に適応しない。
取り敢えず黙っておいて、二人が盛り上がってるのは邪魔しないでおこう

「だいたいなぁ、は組にはプライドというものは無いのか!」
「プライド?いつも元気に出席するプライドならある!」
「皆勤賞狙いなのか!?勉強ももう少し頑張れよ!」
「勉強は全くできないというプライドがある!」
「それはプライドと言わないからな!?」

賑やかで何よりです。

「うー…そろそろ慣れてきた、かな?」

何度か瞬きをして、目をこらせば洞窟の岩肌などがうっすら視覚で感じ取れるようになってきた。
これなら立ち上がっても平衡感覚が麻痺せず働いてくれるだろう。

「君島さん、大丈夫ですか…?」
「具合悪い?」

気遣わしげな声が聞こえたかと思いきや、目の前にコリンクとガーディが座り込んでこちらを見上げていた。

「う…わ!びっ…くりしたぁ…!」

今まで二人で離れた所で遊んでたかと思っていたので、すぐ傍にいた事実に驚く。
キョトンと首を傾げる二匹に苦笑いを返した。

「黒門くん凄いです。こんなに早く電気技が使えるなんて」

二匹の視線を遮るのも含めて、労るように彼等の頭に手を乗せる。

「さ!続きです!これを鍛えればジム戦圧勝も夢じゃないですよ」

思いもよらない強力さに驚きはしたが、嬉しい成長だ。
まさか自分の指示で電気が使えるようになるなんて、本当にポケモンを育てているようでテンションがかなり上がってくる。
流石にはしゃぐのはみっともないので、高揚感をやる気に変え、立ちあがって手を叩く

「ドンドンいきましょう!」
「っはい!」

黒門くんも何だか嬉しそうにして立ちあがる。加藤くんもニッコリ御機嫌に尻尾を振った。

この勢いで、対戦相手を探そうと一歩踏み出した瞬間、
まるで遮るように地響きが足先から身体全体に振動してきた。

─ゴゴゴゴ…ドゴォンッ!!!

「え?」

小さく呟いたのは私だったのか、それとも2人のうちのどちらかだったのか

地鳴りが大きくなり耳を劈き、訳も分からないうちに足元が崩れて全てを呑み込んでしまった。


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -