苦い決断
ポケモンセンターのコーヒーが美味い。

ちょっと侘び寂びの雰囲気漂うテラスで熱いコーヒーを啜る。
良い天気。景色が綺麗。空気も美味しい。
ああ、美味しい。

遠くを見つめる私の心情は、現在、
混乱していた。

「トモダチってなんだろう………」

成人して、友達の定義に思い悩むなんて。中学の頃に可愛い女の子友達に媚びへつらってお触りしまくっていた罰でも当たったんだろうか。
ああ、誰かキーのみ持ってこい。

自分を苛む状態異常と戦いながら、私は必死に脳味噌を働かせるが
しかし私の脳味噌が「働きたくないでござる」と返答する。つまり頭が回らない。

必死で、彼等を受け流す案を考えた。
このセンターにどうやって戻ってきたのか思い出せないくらい、夢中で思考した。
その成果はない。

「なんて無理ゲー…」

溜息と共に零れる弱音。
なんで私が弱音を吐いているんだか。
年下の弱音を受け止めるべきなのに、潮江さんどころか加藤くんと黒門くんの一年2人の不安さえ取り除けていないだろうに。

これ以上危険な目に合わせたくない。追い詰めたくない。
と、自分の身の安全云々抜きにしても純粋にそう思っているのに。上手く行かない

忍たまなんだからバトルに興味があって、強さに憧れるのは不思議じゃない。
ヨシノの夜に、手持ちのポケモンとして戦ってもらうのは既に決めたのに、ジムバトルとなると私が怖がっている。ジムになんか挑戦するつもりなかったのに。
いつでも私は行き当たりばったりで矛盾だらけだ

やっぱり、忍たまをジム戦で戦わせない妥協案なんて見付からない

「あぁぁ…どうしよう。前みたいに、キッパリ反対する?」

大道芸をやろうと言い出したときには強く反対できた
あの時も同じく、少しでも危険な目に合うのを予防したかったから
でも、あの時と異なるのは、代案を用意できない事だ。これでは反対しても納得して貰えない。

「くそぅ…詰んだ」

テラスに似合いの木造りのテーブルに前のめりになって頭を抱える。
コーヒーの濃い水面に眉間に皺を寄せた私がチラリと見えた

「………」

こんな無理ゲー辞めてやる。


半分以上残っていたコーヒーを一気に仰いで呑み込んだ。
いつの間にかぬるくなっていたそれは私を温めるどころか寒気さえ感じる。

ソーサーに戻すと、カタンッと高く耳障りな音を立ててしまったがどうでもいい。

「クソ苦いわ……」

口許を手の甲で拭いつつ、立ち上がる。

苦味のお陰か、頭はスッキリと冴えているように感じた。

これから先も、私はきっと昨日の私を裏切って進むのかもしれない。







「決めました。」
「は、はい…」

部屋に戻った私は、まず正座した。
それに倣ってか、異様な空気に押されたのか3匹も行儀良く座る。
ストライクの正座姿なんて他にはお目にかかれないだろう。さすが潮江文次郎である。姿勢の綺麗なストライク初めて見た。

そんな無駄な事を頭の隅で浮かべてはいるも、強張り気味の真顔は崩れない。
どう切り出そうかと悩み、手汗が滲むが、ウジウジする時間が勿体なくて
それに先ほどコーヒーを飲み干した時に勢いは付いたのだ。後は吐き出すだけ。

「ジム戦に挑戦します。私達4人で。」

三匹の目が瞬く。
「4人で…」と潮江さんが呟く。
「と、言うことは…」黒門くんが隣の潮江さんを仰ぎ見た。

「僕達が戦うんですね!」
加藤くんがお座りのポーズから立ち上がって、跳ねるように回り出した。

「…はい。」

あーあ、言ってしまった。思わず溜息を吐きながら目を伏せた。

でも、まだだ。

「君島さん、」

再び目を上げた先で、何かを伝えようと口を開いた潮江さんを制するように片手を上げる。

「だからと言って、無謀なバトルには挑戦できないので、皆さんには私の指示に従ってもらいます。」
「何を今更…」
「前から君島さんの指示には従ってるつもりですよ?」

きょとりと首を傾げるコリンクに笑いかける。

「私、スパルタですよ」

「え?」
「すぱ……?」

不思議な表情の3匹に、表情を引き締める。

「圧勝できるレベルになるまで君を鍛えますから、そのつもりで」
「…………え"」

石のように固まったのを見て、意志が伝わったのが分かりやっと一息つけた。

「さあ、もうお昼です。ご飯を食べたら始めましょうね」

そう話を切り替えて、センターの食堂に向かおうと立ち上がれば
ビリビリと足先から膝まで嫌な感覚が。

「君島さん…?どうしたんですか?」
「あ、足が痺れた……!」
「えぇ……締まらないなぁ」

加藤さんがガクーと伏せたのが、情けない気持ちに拍車をかけた。


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