─舞台はシンオウ地方へと移る………
「この辺は幽霊が出るって噂もあるから気を付けてね!」
「あはは、気を付けます。貴方も地元だからって気を抜いちゃ駄目ですよ?」
バトル後にトレーナーと手を振り別れる。
暖を取るために防寒ジャンパーの下に詰めた加藤くんが鼻先を出した。
「ゆゆゆゆゆ幽霊が出るそうですよ!どうします!?」
「えー?あ、加藤くん鼻が凍っちゃってますから」
ギュッとジャンパーの中に加藤くんを押し戻す。モフモフあったかいです。ありがとうございます。
「なんで怖がらないんですか!もし出たらどうするんですか!?」
「それは吃驚ですよね。」
「いや、びっくりどころか、悪い幽霊に呪われちゃうんですよ!」
「あらー、じゃあ戦って勝ちましょう。」
「無理ですよ!」
「いや、いけます。加藤くんが駄目なら私が戦います」
「男らしい!!じゃ、なくて!」
「はいはい」
加藤くんと会話しながらもサクサク歩く。いや、ほんとシンオウ地方の雪凄まじいからね。早く一息付ける場所に行きたいわけですよ。
ボールの中の他の忍たま達も疲弊してるだろうし。
その時、カタリと潮江さんのボールが揺れた。
「潮江さん……?」
「え!?まさか本当に幽霊ですか!?そうだ潮江せんぱい出しましょうよ!会計委員会の部屋にいた算盤小僧も手懐けたお方ですよ!」
「でも虫ポケモンはこおりタイプには弱いし…」
「こおりじゃなくてゆうれいです!ゆうれい!」
ゴーストタイプにしてもノーマルの技は効かないしなぁ…
なんて悩んでいると、
ひやりと、耳元に冷気が触る。
「ほう、文次郎もいるのか。」
慌てて振り向けば、目に映ったのは………
何処までも白い世界の中で真っ白な着物のようなフォルム、冷たいアイスブルーの瞳、頭部には氷で出来ているのか角のようなものが二本。
「ユキメノコ………」
「ユキメノコ?ああ、この動物の名前か?確かに周りはそう呼んでいたな」
流暢に聴こえる日本語は目の前のユキメノコからであり、それが"彼"が忍たまである事を示す筈…なのだが…果たして?
「その声、やはり仙蔵か!」
潮江さんのボールがガタガタ揺れて、外にまで聞こえる大声を出す。
ユキメノコは両目を細め、袖に似た手を口許に添えるとそれはもう美しく微笑んだ。
「ふふ、相変わらず喧しい奴だ。事務員さんも、苦労をかけました」
「え、ああ、いえいえ」
流石アニメで女装の変装が多い立花仙蔵。一つの仕草が罪なぐらい美しい。
しかし、これでこのユキメノコが立花さんだと確定した訳だが………
ユキメノコってメスしか存在しないんじゃ…?
「どうかしましたか?」
「立花さんて、実は女だったりします?」
「どうしてそうなるんですか!?」
「もふ!」
真面目に問い掛けたのに、ジャンパーの中から加藤くんが飛び出し顔面アタックされた。
「立花せんぱいは男ですよ!ちゃんとした男の人ですよ!」
尊敬する委員会の先輩だからか、ボールの中から黒門くんに猛抗議を受けた。
因みに加藤くんは未だに私の顔面に貼り付いて降りてくれない。
仕方ないからそのまま頭を下げる。
「失礼なこと言って済みませんでした。」
「いえ、どうやら賑やかな旅のようで何よりです。」
クスクス笑うユキメノコは大変お美しいだろう。さっきから同じ事を言っているが、何度でも言おう。超美しいのだ。
「…まあ、立花さんならそんな事もあるかなぁ」
無理矢理納得したキッサキシティへ向う雪道。