買い物かごの中身
漸く街の探索。
興味津々ですぐ様走り出しそうな加藤くんの様子に、残る2人は遠慮したのか呆れたのかモンスターボールの中で待機すると身を引いた。
そして私は抑制の意味でガーディを肩に乗せている。

いや、最初は好きに歩かせていたが…、何かを見付ける度に走り出してはぐれてしまいそうな彼に、潮江さんと黒門くんがボールの中からガタガタとそりゃあもうガタガタと大きな反応を見せたのでどうにか行動を抑えようとしてこうなったのだ。


そのまま、朝の内に少し散歩がてらキキョウの街並みを見て回ったら、最後は青い看板に吸い寄せられるようにその建物の中へ足を踏み入れる。


お金があったら、まず買い揃えるべき物だった。そうだった。
そんな訳でフレンドリィショップなう。


「えーと……あ、あった。あった。」

やっぱキキョウではきずぐすりしか売ってないのか…。
いいきずぐすり以上の薬らしき物は店員さんがいるカウンターの後方に並んでいるけど、私はジムバッチも持っていないから…売ってくれないだろうなぁ。

まあ、一番レベルの高いであろう潮江さんでも傷薬で間に合いそうだから…
取り合えず、数だけ押さえとこうか。

「君島さーん…そんな買うんですか?」

肩に乗っている加藤くんから珍しくトーンの下がった声が聞こえてきた。

「…多いですか?」
「うん。すごく」

手を止め、買い物かごを確認すると、傷薬がひーふーみー、よー…いつ……えっと…何個だ?
でも、そんな引くほど買ってないと思うんです。

そうだな…あの天真爛漫な加藤くんから静かな一言が出たわけだし、傷薬はこれだけにしとくか。
金銭的にも無駄遣いは出来ないし。

「じゃあ…次は…」

隣の棚へと手を伸ばし、商品のラベルを指でなぞる。

「まひなおし…どくけし、…うーん…」

ああ、こちらも同様に誰でも買えるような棚に陳列されている薬が少ない。
こおりなおし、やけどなおし、は暫く必要ないはずだけど、ねむけざましは念の為欲しかったのに…。

ううん、仕方無い。
麻痺の追加あり攻撃するポケモンって何処にでもいるし、毒は喰らったら致命的だから…この二つの薬だけでも多めに持っとこう。

「君島さぁーん…買いすぎですよぉ…」
「え」

肩乗りガーディがだらーんと前足後ろ足を投げ出し、それはもう怠そうに呻いた。
私は大人しく、手にしていた薬を最後に買い物かごに入れ、レジに向かった。







「ねぇ、君島さん、これ全部薬なんですよね?」
「あ、はい。そうです」

二つあるレジ袋を提げてポケセンへと戻る途中。肩の上から少し身を乗り出して袋を覗く加藤くん。
いや、二つに分けられてる理由は薬が意外と嵩張るから分けられてるだけで、決して私が買い過ぎてる訳では…ない、と思いたい。

「そんなに危険な旅になりそうなんですか?」
「へ?いや、違いますよ?」

不安とかではなく、本当に不思議そうに加藤くんが問い掛けてきたのでチラリと視線を向けて反射的に首を小さく横に振る。

「だってホラ、加藤くん達に戦って貰うんですから、薬は必要不可欠でしょう?」

怪我をさせる気はない、と心の中で公言しつつも現実的には無傷は難しい。
まあ、私が大まかな指示を出す以上は大怪我は絶対に阻止するつもりだけど。
しかしダメージは少なからずはどうしても出てくる。それを常に回復させる用意はしなくちゃいけない。
その為の量だ。
無理ないペースで進んで、こまめにセンターにお世話になるのは心得るけどね。

「…んん?…って事は…この薬って全部僕たちの?」
「はい」

頷いて肯定すると、加藤くんが私に頭突きをした。

「えっ」

いや、頭突きは痛いものではなくて、むしろモフリときましたけど。

「君島さんのは!?君島さんが怪我した時はどうするんですか!?」
「はっ!?いやいや、私は別にバトルしませんからね!?」

何故か声を荒らげるガーディに、私は二重に驚いた。
だって私が怪我する予定まったく無いからね!戦わないからね!

「でも旅の途中で事故とか。君島さん自分の分も用意して下さいよー」

えー…?
むくれた声で言われたって、ポケモン世界でポケモン引き連れた人間が危ない目に遭うって想像つかないけどな…。ポケモンが居れば何とかなりそうだし。
私って旅を嘗めすぎなのか…?

「まあ、いざというときはこの薬を使いますから」
「この薬って人間にも使えるんですか?」
「さあ…?」

どんなポケモンにも効くんだから、人間にも効果ありそう。

「えー……うーん………」

納得しかねるのか加藤くんの微妙な唸り声が聞こえる。

「あ、ほら…薬意外にも必要な物まだ有りますし、節約ですよ」

と、収拾の為に口を出た言葉が思わぬ展開を引き起こす事になる。

「ああ!服ですね!」
「え、…服?」

もっと冒険必須アイテムを想像していた私には寝耳に水レベルの単語だった。
思わず肩に目をやればつぶらな瞳を更に小宇宙のように輝かせるガーディ。

「だって君島さん一着しか服無いじゃないですか!」

あっ。
何だろう。事実なんだけど女心が傷付いた。

「そ、そんな事言ったら加藤くん達こそ服一着も無いじゃないですか…!」

言い返す言葉に僅かに力が入ってしまうのは否めない。
だって…!落乱の世界にトリップしてからは借り物だけど何着か小袖とか事務服も持ってたし。
自分の世界では普通の女性として困らないぐらいは洋服持ち揃えてましたとも!流行りの服とか衝動買いする程度のお洒落はしてましたとも!

なのに…現在は身嗜みとか以前に着る服が一択とか。
いや、今の所毎日きちんと洗濯できてて汚くは無いし、寝る時はポケセン印のバスローブを寝間着代わりにしてますけど。
女子力底辺とはひしひし感じてるんですよ。分かってますよ?何か駄目な感じするの。
でも暫くは仕方無くないですか!?

ポケモンの世界で金銭的にも心身的にも余裕が出る迄は仕方無いですよね!!


……とか、自分に言い聞かせる為にも口に出したいけど、加藤くんを100%困らせるので唇をきゅっと閉める。


「僕達は今はポケモンなので必要ないんです!」

心無しかドヤ顔できっぱりはっきり加藤くんに告げられ、屁理屈が言えなくなる私(成人)

「さあ!君島さん、旅に備えて着替えを買いましょう!」

片前足を上げて「おー!」とノリノリの少年の空気に飲まれる所だったが、ハッと踏みとどまり首を横に振る。
駄目だ!ここで発揮するんだ、現実社会で培った当たり障り無くやんわり拒否する日本人の話術!うおおお唸れ私のクレーム対応力!自分で言ってる時点で対した力はなさそうだけど!!

「いやいやいや、旅と言ってもまだ比較的穏やかな道程の内ですし、今買っても荷物になって旅の邪魔になるかもしれませんよ?それに、これから何があるか分からない以上無駄遣いするより手元に幾らか残してた方が心強いと思うんです。旅に慣れてきてからの方が旅向けの服装を自ずと買い揃えられそうなのもありまして…とにかく今は…」
「分かりました!」

口数多くなり逆に薄っぺらくなりそうな台詞を、加藤くんは深く頷いて止めた。


「つまり…パンツですね!!」


つまり…どういう事だ!?

良かったー…なんとか納得してくれたのカナー…とか一瞬でも思ったのに!


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