燈籠が照らす街
街と道路を区切るゲートを出れば、整備された道の両脇に石燈籠が並んで迎えてくれた。目に入る灯りは優しく、ぼんやりと辺りを照らす。

「うわぁ…街ごとに随分と雰囲気が変わるんですね」

加藤くんの感嘆の通り、ヨシノは小さな花々が鮮やかに咲き誇る可愛らしい街並みだったが
ここは青みを帯びた瓦が屋根に敷かれ、灰色の石燈籠の中に仄かに黄色が灯る情緒溢れた街だ。

ポケギアのマップを確認すると、現在地はキキョウシティを指していた。

「ここが、キキョウシティ…」

太陽が遠くの山々に姿を隠し始め、薄暗い景色に浮かび上がるキキョウシティは何故か懐かしい気持ちにさせた。


「や、やっと着きましたね…?」
「…黒門くん、なんかお疲れですね」

特別動き回ったわけじゃなく、ずっと私に抱えられていた筈の彼がぐったりしている。
反対の腕にはまだまだ元気いっぱいの加藤くんが忙しなく街を見渡しているのに、黒門くんは「誰のせいですか…」と頭を垂れたまま力なく呟いた。

…とりあえず、早くポケモンセンター行って休ませてあげよう。
明るい内に着こうと思ってたのに、結局たくさんのトレーナー達にバトルを申し込まれたからなぁ…。私より体力がある室町の少年とはいえ、ポケモンとして戦うのは流石に疲れたんだろう。

殆んどのバトルは潮江さんが活躍して圧勝してくれたけど、コリンクとガーディのレベルを上げる為に二人にも戦闘に出て貰った。そのお陰で懐はあったかい。

その潮江さんは、流石に疲れてるだろうからとキキョウシティが見えてきた時点でボールに入って貰った。
街の中であの大きさじゃ人目にも付くしね。

「街を見るのは明日にしましょうね」

身を乗り出すほど興味を持ってる加藤くんにはちょっと申し訳ないけど、日も暮れてきたし早く部屋を取ってしまおう。
小さなポケモン二匹を抱え直し、燈籠に比べると眩しいぐらいに光るポケモンセンターに向かってキキョウの道を進んだ。





ヨシノと同じく一室借りて、夕飯も頂き存分に休んだ。
誰がどこで寝るかまた議題に上がったが、疲れがピークに達していたのか機嫌の宜しくない黒門くんがまた一蹴して昨晩と同じく私と小型ポケモン二匹でベッドに。ソファに潮江さんが寝ることになった。
くそぅ…どうにか良い策はないものか…

明日の夜までに策を練ろうと横になって考えていたが、私も歩き通しで思ったより疲れていたのか、暗闇の中でベッドに入ればすぐに睡魔に誘われ何も思い浮かぶ間もなく気が付けば朝になっていた。






「おはようございます」
「おはようございます…」

窓から明かりが入ってはくるが、まだ薄暗く太陽は完全には昇りきっていないようだ。
そんな部屋の中でストライクが…ストレッチ?していた。

隣を確認するとガーディとコリンクはまだ寝息を立てている。

「…顔を洗ってきます」
「あ、はい。二人を起こしておきますか?」

洗面所に向かう私の背にかけられた言葉に首を横に振る。

「まだ大丈夫です」

寝起きはあまり喋りたくないから、さっさと顔洗って目を覚まそう。



身支度を整え、洗濯と乾燥も終えた服に着替える。…良い子は乾燥機にかける前に表示マークを確認してね。縮んでないのはポケモン世界のハイテクな乾燥機のお蔭だよ。

ドアを開け部屋に出ると、潮江さんはまだ体操?を続けていた。

「…やっぱり、その体動かし辛いですか?」

違和感から念入りに体の調子を確かめているんだろうかと訊いてみたが、返ってきたのは「いえ、」と否定の反応。
ストレッチらしき動きを止め、自分の両腕である鎌をじっと見下ろす。その表情からは何を考えているか分からない。

「この体には大分慣れてきました。ただ、鈍ったりしないよう鍛練は続けるべきかと思いまして…」
「う、うーん…忍術とポケモンバトルは違うかもしれませんが、昨日あれだけ戦ったんですから鈍る事はないと思いますが…」

忍術に関してどころか戦いの事もまったく分からない私が口出しすると「知った口利くんじゃねぇ」とか怒られそうだが、傍から見ても明らかに充分過ぎるほどだ。
充分彼らは動き回って体が鈍るはずがない。
むしろ休める時には休んどかないと身体を壊しそうなんだけどなぁ…

「…身体を動かしていると気が紛れるんです」

静かに零された台詞。
思わず私も体を固めてしまった

「考えても仕方ない事を考えなくて済む」


潮江さんは常に落ち着き払った態度だから私はずっと勘違いしていたのかもしれない。

そりゃあそうだ。
潮江さんはまだ15歳の子供だ。
そんなの何度も引き合いに出して、彼らの保護者面をしていたのに…
頭のどこかで上級生は精神力も立派に育ったものだと思っていた。頼れる存在だと。大人扱いをしていた。

少し考えれば分かるじゃないか。
知らない場所で、知らない文化で、自分の身体も未知の生物に変わっていて。こうなった理由も分からない、帰れるかも分からない。
物語として知識のあるトリップをした私と比べ物にならないぐらい不安に決まっている。
それでも後輩を守らなきゃいけない、しっかりしなきゃいけない重圧があっただろう。
その状況で唯一頼れるのが私?最近学園で事務員になった異世界から来たとか言う身元不明で挨拶程度しか交流がない女が頼みの綱?

潮江文次郎なら平気だろうと無意識に判断していた浅はかな私。


「あ、あの…潮江さん、私、」
「んー…潮江せんぱいと君島さん早いですねぇ」

私の声を途切れさせたのは加藤くん。
前足で顔を擦りながら欠伸を漏らす。その隣で黒門くんもむくりと体を起こした。

「あれ、潮江せんぱい達どうかしたんですか?」
「いや、どうもしてない。」

潮江さんの返事に二人は寝ぼけ眼のまま首を傾げていたが、私も知らない振りをする事にして話題を掘り返すなんてしない。

「みなさん起きたなら朝ごはん貰ってきましょうか」


だって私には潮江さんに掛ける言葉なんて無い


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