続く道
「いいのかなぁ…こんな高価そうな物…」

ポケモンじいさんの家から旅路に戻り、次の街へと続く道を歩きながら手に持つ小型の機器に目を落とす。
液晶には現在の時刻がデジタル数字で示されている

「いいじゃないですか!おじいさんも嬉しそうにしてたし」
「そうですけど…」

お昼をお世話なった上に物を頂くなんて恐れ多かったが、加藤くんの言う通りあんなにニコニコ笑顔を浮かべられると断りきれなかった。

「君島さん!それ僕にも見せてください!」
「あ、はい。どうぞ」

ぴょこぴょこ足下で跳ねるガーディに歩みを止めて、手の中のそれが見えるように彼の傍にしゃがんだ。

「わーわー!すごいですねコレ!」

私の腕にグイグイ体を寄せ画面を覗きこむ加藤くん。
電子機械なんて、彼ら室町の人間には想像もつかない物体だろう。加藤くんは興奮気味につぶらな瞳をキラキラさせていた

「あの…君島さん、それでコレって一体何なんですか?」

加藤くんに続いて黒門くんであるコリンクも傍にきて興味深そうに覗きこんでいる。

「これはポケギアですよ」
「「ぽけぎあ…?」」

そう、ポケギア。
金銀でトレーナーはみんな持っている必須アイテム。旅をしていると色んな人から機能を追加して貰えてグレードアップしていく物。
ゲーム内では主人公の母親が序盤にくれる物だが、こんな機能性があるわけだし金額にしたら高い筈だ

それをタダでくれたポケモンじいさん。
「貰い物だけど私は使わないから。旅をする一織ちゃんに使って欲しい」と言って私の手に乗せた老紳士

…何か御返しできたら良いんだけど

「タダより高いものは無い、って言うしなぁ…」
「何ですかその言葉、きり丸に教えてあげなきゃ!」

小さく呟いたつもりが、しゃがんでいたこの距離では加藤くんに聞こえていたらしい。
詳しく知りたいのか期待した瞳を向けてくる。
ので、視線を遮るように彼の頭にポンと手を置いて直ぐに立ち上がる

「さぁ、今日は夕方前には次の街へ着くと良いですね」

ポケギアを仕舞いながら告げ、歩きだしたが小さい二人の反応がない。

あれ?

振り返ってみると、二人はまださっきの場所から動いていなかった。
声をかけようと思った時にストライクの鋭い目がこちらを捕らえてる事に気付く。
うーん…潮江さんの視線まだ慣れないなぁ。それにしても、あんなに睨むなんて…面倒になって誤魔化したのバレたかな

「先行っときますよー?」

いいや、もう。今さら弁解しだすのも更に面倒なので声を投げて先に歩いとく事にした。

「ちょ、君島さん何で置いていくんですか!」
「待って下さいよー!」

慌てて走ってきたのか後ろから焦った声と共に、脹脛あたりに突撃された。軽く当たっただけの衝撃だったので転ぶなんて事はなかったが、そんなに必死にならなくても…数メートル先を歩くだけなのに。

「いやぁ、すぐ後から来ると思いまして」
「君島さん…僕たちの扱い雑になってきてません?」

隣に並んで歩き始めた黒門くんに胡乱げに訊かれ思わず足を止める。

「えぇっ!?」
「「えっ」」

ガッと二人を見下ろせば、私の驚きに二人も肩を跳ねさせ動きを止める。


そんな馬鹿な。

流石に今の状況では些細な言動でザックリ殺される事は無いだろう。自分で言うのも何だが、私は利用価値のある存在だ。
でも、彼らが忍者の卵で普通の人間より人を殺める術を知っているのは変わらない。むしろポケモンの姿になっている今こそ殺傷能力が上がってるじゃないか
そんな子達相手に雑に扱ってるなんて意識はない。
それに大事な生徒さん達だ。雑どころか、この世界で危険な目に合わないように出来うる限り力を尽くそうと思っているのだ。…今のところ具体的な策はないけど。

「そ、そんな事ないですよ。ただ、少し面倒な所はあるな、と思ってるだけで」
「それが雑になってるって事だと思います」

なん…だと…!?

黒門くんにきっぱり言われ胸に突き刺さる。

「あの…君島さん…?」

立ち止まったまま胸を抑え過去の行動を振り返ってみた。そんなに分かりやすく雑だったっけ?
…うむむ、全く見に覚えがないです
でも、黒門くんに言われるぐらいなんだから、知らず知らずに態度に出てしまったんだろう。

よし、悔い改めなければ

「分かりました。行動を見直したいと思います」
「……え?あの、」

戸惑った表情のコリンクと、きょとんと首を傾げるガーディの元に膝を付いた。





「どうでしょうか潮江さん」
「は…、えぇと…良いんじゃないですか?」

潮江さんに向き合って伺い立てれば肯定の意を頂けたので、彼に怒られる事はなさそうだ。

が、バタバタと右腕に振動が
見下ろせばコリンクが四肢を藻掻かせ必死に私の腕から脱け出そうとしていた。

対する左腕のガーディは大人しく収まっている。
そう、私は両腕に黒門くんと加藤くんを抱えているのです

「あ、あの君島さん、これは…」
「すげー!君島さん二人も持ち上げるなんて力持ちですね!」
「ちょ、団蔵うるさ…!」
「伝吉見ろよ遠くまで見渡せるぜ!」
「僕は伝七だ!何で今ごろ間違えるんだよ!」

うんうん。楽しそうで何より。
このまま次のキキョウシティに向かおう

「潮江さんも私の側に居てくださいね」
「は?はぁ…」

歩き出しつつ後ろを振り返って言えば、一瞬ポカンとしたがしっかり頷き数歩近寄るストライク。

これで、どこからどう見ても彼等を大事に思っている事が分かるだろう。



「あ、そこのポケモン大好きそうなお姉さん!バトルしようよ!」
「はい。望むところです!」

ほら、ね。



「君島さんっ、僕が言いたいのはそうじゃないんですー!」

腕に抱えたコリンクが咆哮に似た悲鳴をあげた。


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