二人の親切な人
─ぐ〜…

腹の虫が鳴く…加藤くんの。

「あー…お腹空いたぁ…」

あれから数回野生のポケモンと戦って一年生もバトルに慣れてきた。
気が付けば太陽は頂点を通り過ぎている

「ヨシノシティに…」
「いや、そこらで木の実でも採って食べましょう」

なんてサバイバル!
私の発言は潮江さんのワイルドな提案に被せられる。
一年生は自然に返事して木の実がなる木を探し始めた

室町の人間アウトドア強い…。平成の私には無い発想だった。
でも、ポケモンの世界では確かに木の実を食してるシーンが多い。
ヨシノシティに戻るより良い考えかもなぁ…

「あっ、何かなってる木があります!」

黒門くんの声に振り向けば、それらしき木はあるけど…

「隣に家が建ってますね…」
「人の家の木の実を食べるわけにはいかない。他を探すぞ」

潮江さんの言葉に頷いてその木と家を通りすぎる。

が、゛バタンッ゛とけたたましい音と同時に家の中から人が出てきた。

「待て待て!こんなに目立つおじさんの家を鮮やかにスルーする、そこのキミ!」
「えっ」

めっちゃ指差された。

「おじさんの話を聞いていけ!」

…何故?
お腹も空いてるし、先に進みたいし、この人なんか怖いし、話も大した事なさそうだから…よし断ろう

「いえ、結構です」
「良い物あげるから」

断ったのに直ぐ様粘ってきやがった。
゛良い物゛と聞いて加藤くんがキラキラしだしたけど、余計に怪しい。
うん、断ろう!

「いえ、結構です」
「いいから聞いてけよぉぉおっ!!」

泣かれた。

「えっ、あの…はい。」
「よし!ぼんぐりって知ってるか?おじさんの家の横にもなってる、この木もそうでなぁ〜」

頷いた瞬間にコロッと笑顔になり、先程見ていた木を指して喋り出すおじさん。

「君島さん、攻撃しますか?」

潮江さんが隣に立ち小さく話し掛けてくる。彼の表情はおじさんに対して胡乱げに顰められていた……
気持ちは分かる。
けど、ぼんぐり云々ぐだぐだ喋ってるこの人は変な人だが危険な人間ではないようだ

「あー…いえ、悪い人じゃなさそうですので流石に…」

コソコソと小声で止めれば、潮江さんは目を瞑り一つ頷く。その次に溜め息も一つ。
原因は多分、おじさんの話を熱心に聞いている小さい2つの姿。

「〜で!このボングリケースをあげよう!キミも今日からボングラーだ!」

グイッと押し付けられたケース。
「…ありがとうございます…」と礼を言うけど、ボングリ…別に集める必要ないと思うけどなぁ…
あと、ボングラーって……ボンクラみたいで響きが嫌だ。

「さぁさ!そこのボングリをさっそく!さっそく採ってみるんだ!」

えええ…何でわざわざ…
面倒だと思いつつも、小さな2対の瞳が輝いてこちらに向いていたのでボングリ採りをやってみる事に。

ボングリの木をググッと押せば、成っていた実が軽快な音と共に跳ねて木から落ちた。
それを拾ってボングリケースに入れる

「ふおぉぉ…!」
「!、!!」

ニコニコ笑顔で親指を立ててるおじさんの足下で、感動しているガーディとコリンク。
…私これからボングラーにならなきゃ駄目っぽいな





ボングリおじさんと別れて再び木の実を探す。
興奮から醒めて現実に戻ってきた二人も本来の空腹を思い出したらしく、お腹をグーグー言わせながら木の実を探していた。

「お腹空いた…!」

しかし限界なのか、ついにガーディの小さな体は崩れ落ち地面に座り込んでしまった。

「うーん…ここら辺には無いんですかねぇ…?」
「そんなぁ…!」

正直私には木の実なんてどの辺にあるのか分からないので、首を巡らせて視界に発見できず呟けば、黒門くんもガックリ項垂れる。
しまった…やる気を失くしてしまったみたいだ

「おい、君島さんだってお腹空いてるんだ。二人ともしっかりしろ」
「私は大丈夫です。でも二人はたくさん動いてもらいましたから…早く何か食べさせてあげたいんですけどね…」

潮江さんだってトレーナーバトルの連戦で体を動かしたのだ、口には出さないが相当お腹空いてるはず。
私が一人で木の実をささっと見付けて採ってくる才能があれば良いが、現代人には木の見分けすら難しいという…むしろ移動でひいひい言ってる…

「困りました…昼ごはんどうしましょう…」
「おや、それなら私の所で一緒にランチはどうだい?」

不意に掛かった落ち着いた声にビクリと肩を揺らせば、ちょうど死角になっていた木々の後ろ側から小綺麗な服装の老紳士が出てきた。

「びっくりさせてしまったかな。家の裏から声が聞こえるもんだから気になってね」
「え?お家の裏手なんですか?済みません騒いじゃって…」

まさか木々に囲まれたこの道路に家があるなんて……ボングリおじさん以外にも。

「いやいや、いいんだよ。この賑やかさが好きでここに住んでるんだ。」

老紳士は穏やかな笑みを浮かべて帽子を取った。

「さて、君達さえ良ければ私の家でお昼を一緒にしたいんだがどうかな?ちょっと作りすぎてしまってね」
「えっ、そんな…」
「行くー!」

まさかの言葉に慌てた私だが、それを押し退けるようにガーディが元気よく老紳士に駆け寄る。

「ふふ、そうかそうか。来てくれるか。嬉しいなぁ、楽しい食事になりそうだ」

加藤くんの声は聞こえてないだろうが、駆け寄ってブンブン尻尾を振る様子に気持ちは伝わったんだろう。
膝をついてガーディを撫でる老紳士は素敵な笑顔で。チラリと視線を絡めたストライクが無言で頷いた。

「済みませんご同伴させていただきます。」




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