30番道路
ポケットに入れていた空のボールを仕舞いバッグを肩にかける。
中身の入ったボールは手に持ち、ヨシノから北に伸びる道路の入り口に私は立っていた。

お爺さんの話によるとここの道路はヨシノやその近辺の子供達が日々バトルを繰り広げている場所で、草むらから出てくる野生のポケモンも元気が有り余ってるのが多いらしい

一つのモンスターボールを手に取りボタンを押して宙に放る。
出てきたストライクは音もなく地面に着地した

「潮江さんが先発になるでしょうから出しておきますね」

ボールの中でお爺さんの話を彼も聞いてたんだろう。私の言葉に問い返す事なく頷いた
だが、何故かじっと見られる

「あの…?どうかしました?」
「いえ、ただ、目が覚めたのかと」
「忘れてください」

朝が苦手だって良いじゃない。
あの元気なお爺さんと一緒に走れば嫌でも目が覚めるんだよ


「ねぇ!そこのおねーさん」
「はい?」

お姉さん、とは多分私の事だろうと不意に掛けられた声に反応し振り返る。
満面の笑みでこちらを見ていたのは麦わら帽子を被った少年。むしとりしょうねん、かな。
さっきの潮江さんと会話していたのを見られていないか不安になったが、ピカピカの笑顔を浮かべているので不審に思われてはいないようだ…
まあ、トレーナーがポケモンに話し掛ける光景なんてよくあるだろうし心配しなくても大丈夫だと思うけど。

「そいつストライクだろ!?いーなー!すげーなー!」
「あはは、ありがとう」

目を輝かして潮江さんに駆け寄り様々な角度で見上げているものだから微笑ましくて笑ってしまう。
潮江さんが少年の輝きっぷりに狼狽えているのも面白い

「な!な!僕とバトルしてくれよ。僕のキャタピーもスゴいんだぜ!」
「本当?じゃあお願いしようかな」
「やった!」

はしゃぐ少年は大変可愛らしい。
でも、私は笑顔を浮かべながらも内心は違う事を考えていた

対トレーナーの初バトル。私が指示を出す役目だ
勿論負ける気はないが、それ云々より手持ちの彼らに怪我一つ負わせるつもりはない

「出てこいキャタピー!」

パカン、と軽快な音と共に緑の体の虫ポケモンが現れる。
少年が幼虫らしき見た目のその子を撫でて「よろしくな」と声を掛けているのを眺めながら、隣に立つ潮江さんに小声で話しかける。

「見た目通り動きは鈍く、スピードはこちらが圧倒的に勝っています。けど相手の動きを下げる糸を吐く。近付いて攻撃するなら一瞬で決めてください。連続攻撃は出来るだけやめた方がいい」

潮江さんが息を呑む様子が視界の端に移ったが、すぐに「分かりました」と返事がくる。

「おねーさんバトル始めようぜっ」
「はい。いつでもOKですよ。ね?」

キャタピーを前に進ませ声を張り上げる少年に笑って、横のストライクと目を合わせる
コクリと頷いた彼は、きびきびとした動作で進み出てキャタピーと対峙した。

「よし、じゃあいくぞ!キャタピー゛たいあたり゛だ!」

少年の掛け声でバトルが始まり、さっそく相手の芋虫ポケモンが身を引いてから跳躍した。
おお…ジャンプ力あるんだなぁ…

妙な感心をする私と違い、ストライクは素早く身を躱した。

「くっそー、次は゛いとをはく゛!」

悔しげながらも表情は実に楽しそうに少年は次の命令を出す。
頷いたキャタピーは体を持ち上げるようにして反らし、白い糸を真っ直ぐ吐き出した。
これもストライクは横に跳んで軽々避ける

「あ〜っ当たんない!っていうかさっきからお姉さん指示は出さないの?こっちにも攻撃してくんなきゃバトルにならないよ!」

キャタピーが必死に糸を吐きストライクが避け続ける戦闘の向こう側で、少年が憤慨した様子で大声をあげた。

「指示ならもう出してありますよ」
「え?」

─ドサリ。

そう話した瞬間に勝負が付いていた。
キャタピーの後ろに回ったストライクが腕の鎌で一撃。その一撃で目を回し倒れたのだ

「ああっ、僕のキャタピー!」
「ストライクの勝ち、ですねぇ」



「お姉さん強いなー!」
「ありがとう」

きらめく瞳と共に向けられた言葉を礼を言って受け取るが、本当は私じゃなくてストライクである潮江さんが強いのだ。
その潮江さんをチラリと見たらばっちり目が合った。
え、なんでコッチ見てるの?
条件反射なのか目を逸らしてしまう私。

「またバトルしようぜ」

負けたのに元気な虫とり少年に気まずさが拭われ助かる。
そんな笑顔の少年に渡されたのは…10円。

ああ、賞金か。勝った方は貰えるんだもんね
確か負けた人の所持金の半分が貰えるっていう…。
10円…うん…子供の所持金なんてこんなもんだよね…

逆にこの少年にお小遣いを渡してあげたいが、悲しい事に私の所持金はこの子より少ないゼロだったのだからあげるお金なんか無い。
現実って辛いなぁ…10円でなに買おうかなぁ…うふふ…


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