新米トレーナーは
爽やかな朝がきてしまった。ラジオ体操日和である

「朝ごはん美味しかったですねー!」

子供達は朝から元気で良いなぁ…
ぼんやり思いながら部屋を出る準備。

「朝、苦手なんですね」

え?ああ、私に言ったのか。

潮江さんがじっと見て呟くもんだから、首の後ろを擦って苦笑い。
今朝は私が一番最後に起床したし、言葉も最低限しか話していない。彼の指摘通り、私は朝には滅法弱い。
寝起き自体は良い方なのだが、脳味噌が働き始めるまでに大分時間がかかるのだ。
仕事や学校に支障をきたさないよう前は対策をとっていた。早めに起きてシャワーを浴びて朝ご飯食べて化粧して移動していれば、その間に頭のエンジンがかかってくれる。
でもトリップしてからはそうもいかない。

実は、忍術学園にいる時も朝は頭が半分ほど覚醒してなかった。
だが朝に誰かとお喋りに興じる機会もないし、挨拶さえしてれば済んだので何とかなったのだ。
事務業に取りかかる頃には問題ないぐらいに目が覚めてたし。最低限度話せば無口でも疑問に思う人はいなかった。

「意外です。いつもテキパキ行動してらっしゃるから」
「…すみません」

目を瞬かせながら見上げてくる黒門くんに思わず謝る。
何だか情けなくなるなぁ…

「えーと…じゃあ出ましょうか。忘れ物とか無いですよね?」
「僕たち荷物ないんで大丈夫ですよ!」

そういや何も持ってないんだった…
トレーナーカードとモンスターボールぐらいしか所持品ない。
フンフンと元気いっぱいの加藤くんに曖昧に頷く

「はい、あー…と、皆さんボールに戻しますね」
「だ、大丈夫ですか君島さん…」

潮江さんが顔顰めて訊いてきたけど、返事するのもメンド…げふんげふん…気まずいので何も言わずに3匹ともボールに納めてしまった。
…後で反省します。


中身入りのボールが3つ。空のボールが3つ。
手に持つには非常に辛いので上着の両脇にあるポケットに仕舞った
おお…!これが本当のポケットモンスター。

………まだ脳味噌が寝惚けてるらしい



センターを出れば肌寒くも清らかな風と、柔らかい陽射しが降り注ぐ。
とても旅日和なんじゃないかなー…今日はさくさく進めそうな感じする

「そこのアンタ、新米トレーナーじゃろ!」

思った側から足止め食らった。ポケモンセンターから出てすぐに町の住民らしき老人に話しかけられた。

「ほっほっ、驚いとるな?ワシは一目でトレーナーの経験度が分かるんじゃ!アンタは間違いなくできたてホヤホヤのトレーナーじゃ!」
「は、はぁ…」

急に話し掛けられた事に対して驚いたのだが…お爺さんの勢いに圧倒され、朝早くで頭の回らない私は相槌を打つしかできない。
けどその相槌をどう取ったのか、この人は満面の笑みで頷いた

「よし!ワシが色々と教えてやろう!」
「…はい?」
「さあ、ついてきなさい!」
「えっ、ちょ、」

こちらがよく理解できていないのに、お爺さんは話を進めて歩き出してしまう
ポカンと立ち竦んでいれば大分離れた所でお爺さんが振り返った

「何をしておる!早く来んかい」
「はっ、はい!」

老人にピシャリと怒鳴られ、若者としての条件反射なのか背筋を正して返事をしてしまう。
元気なお年寄りには逆らえない…
慌てて追い掛けるべく駆け出した。

センターの前から始まり、フレンドリィショップ、30番道路、海と案内されていく。
そして最後に行き着いた先は…お爺さんの家だった

「ここまで付き合ってくれてありがとうな!お礼にこれをやろう」

そう笑顔で告げ差し出してきたのは真新しいバッグだった。

「これ…」
「アンタ持ってないんだろ?トレーナーは持ち物が増えてくる。これは必需品じゃぞ!」
「ですが…何もしてないのに頂けません…」

確かにお金を手に入れれば先に買うべきものの一つは鞄だ。
でも、いくら必要だといっても先程会ったばかりのお爺さんにタダで貰うなんて気が引ける。

しかし手を振って断った私にお爺さんは眉を吊り上げバッグを押し付けた

「いいから持っていけ。年寄りの言う事は聞きなさい!」
「う…はい……」

すごい剣幕で言われてしまえば私に上手く断るスキルはない。
やっぱり経験を積んだ人生の先輩を前にすれば、私の当たり障りない会話能力なんて無力でした

「それに久々に新米トレーナーと話せて楽しかったわい。それだけで充分価値がある」

本当に、年嵩の人には口じゃ勝てないのだ。

「ありがとう、ございます。大事に使わせていただきます」

豪快に笑うお爺さんに、私は頭を下げそう言うだけだった。それしか出来る術がなかった


「それにしてもアンタ…せっかくランニングシューズ履いてるのに体力ないのぉ…」
「す、すみません…」

お爺さんに付いていくのに息も絶え絶えで必死な私。
体力不足な私が悪いけど、このお爺さんすんごい足速いんだよ…!


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