おやすみの準備
「明日の為にも、今日はもう寝ましょう」

慣れない世界に慣れない体だし、一年生の二人は人間に追い掛け回されたりもした。
たった一日だというのに色々あって疲れただろう

頷いた三匹のポケモンに向かってベッドを指差した。

「皆さんはベッドを使って下さいね。私はソファで寝ますから」
「えっ!?何言ってるんですか!君島さんがベッドで寝て下さい!」

目を見開いた黒門くんが四本の足で立ち上がって抗議してくる

「いやいや、そしたら君達はどこで寝るの」

ベッドも大きなソファも一つだけ。

「俺は床で寝ても平気です」
「はいっ!俺もっ。委員会で慣れてまーす」

会計委員会の二人が言うが、床で寝るのに慣れちゃう委員会って……
ツッコミを入れたかったが、それだと話がとっ散らかりそうだったので呑み込んで他の言葉を返す事にする

「皆さんには明日から働いてもらうんですから、そうもいきませんよ」
「は、働くって…そんな…」
「だってそうじゃないですか。戦ってもらってお金を得るんですから」

立派な労働だ。
黒門くんはまだ納得できないのか、口を閉じたが顔を顰めている

「ですから、今日の疲れが残らないよう体を休めて下さい」

床で寝るなんて論外だし、私一人ならまだしも彼ら三人がソファで寝るんじゃぎゅうぎゅう詰めで体が休まらないだろう。
このセミダブルサイズはあるだろうベッドなら三人でも伸び伸び眠れる
人間の男の子三人ならキツくても、今はポケモン三匹。その内2匹はコンパクトである

「君島さんの言っている事は確かにそうです」

潮江さんがゆっくり頷いて立ち上がる。そして「団蔵、伝七、」と小動物姿の二人の名を呼びベッドを己の腕である鎌で指した

「お前達はそこの寝台で寝ろ。」
「えー…?」
「ですが先輩…」

渋る一年生達に言葉を返さず顎でベッドを示す潮江さん。二人は二の句が告げずにベッドに上がった。
流石に先輩の言うことには逆らえないらしい

感心していたら潮江さんがくるりと体ごと振り返る。

「あと君島さんもアッチで寝て下さい。この椅子は俺が使います」
「は、い?何でそうなるんです?」

アッチとはベッドの事だろう。が、なぜ私があの子達と一緒にベッドで寝なきゃいけない…!
そんなの私が犯罪で捕まるだろうに

「このソファは君島さんが眠るには窮屈でしょう。でも、今の俺にはちょうど良い大きさだ」

確かに潮江さんの言う通り、
私や人間時の潮江さんだったら足や頭がちょっとはみ出そうなソファ。だけどストライクの姿になった現在の潮江さんの身長なら綺麗に収まりそうだ

「君島さん!」

何と言い返そうか悩んでいたら名前を呼ばれたので振り返る。
ベッドで横になったガーディがきりっとした顔だが瞳を輝かせ、その尻尾でタシタシと隣の空いてるスペースを叩いていた

「俺のとなり、あいてますよ!」
「あ、結構です」
「ガーンッ!」

掌を相手に向け首を振って断れば、加藤くんが沈んだ。口で゛ガーン゛とか言っちゃうあたりがバカ旦那らしいな
でも、いくら可愛かろうと10歳の少年と添い寝なんてできないからね?

黒門くんも呆れて溜め息ついてるし、潮江さんもまた呆れた表情をしてるんだろうな。と思いながら視線を戻したが、予想に反して真顔だったから驚いた

「団蔵もこう言ってる事ですし、君島さんはベッドで寝て下さい」
「えぇっ!?」
「君島さんだって慣れない長時間の移動で疲れたでしょう」

潮江さんは目を閉じ言葉を重ねた。そんな真面目なトーンで言われたら反論しづらい

「俺達も貴女も異世界に来てしまったのは同じです。貴女ばかりが気を遣う必要はありません」
「いいえ、だって私は異世界に渡ってしまったのは2回目になりますから、君達に比べたら…」

言い掛けたが目を開いた潮江さんに見つめられ言葉が上手く出てこない

「慣れるんですか?」
「え、っと…」
「家族もいない、友人も味方もいない世界に放り出される事に゛慣れ゛とかあるんですか?」
「それは……」

私の場合、落乱の世界もポケモンの世界も知っている世界だから彼らに比べたら負担なんて少ないと思ってた。
でも、言い返せないのは何でだ。

無意識に視線が下がってしまうと、小さな溜め息が聞こえた。

「君島さんを泣かせてどうするんですか」

え?泣いてませんよ!?
慌てて顔を上げれば、黒門くんが私と潮江さんを見て呆れていた。
まさか私までそんな表情されるとは思わなかった…!

「は!?泣かせてない!」
「無駄に時間を使って問い詰めてるんですから似たようなものでしょう」
「む、無駄って…」

後輩に毒っぽく告げられ、潮江さんでも開いた口が塞がらないらしい

「早く眠らなきゃいけないんでしょう?いつまで続けるつもりですか」
「だからそれは…」
「ちゃんと話し合ってだな…」
「埒があきません」

小さなコリンクにバッサリ言われ、黙ってしまう年長者の私と潮江さん。

「僕は潮江先輩の言う通り、君島さんが僕たちとベッドで、先輩がソファで眠った方が良いと思いますよ」
「ちょ、待ってください」
「待ちません。団蔵なんてもう寝てるんですから、お二人も早く眠って下さい」

言葉につられ加藤くんを見れば、大の字に腹這いになって眠っていた。いつの間に…

「全員が体を休めた方が良いに決まってるんですから」
「それは…そうですが…」

ここまでむきになるつもりは無かったが、私は大人なんだし子供を優先するのは当たり前じゃないか

「これから先、ずっと同じ事するつもりですか?」
「いえ、あの…」
「早く寝ますよ」

コリンクは体を丸め目を閉じてしまった。私と潮江さんは力なく「はい…」と返事を言う
まさか年下のしかも最年少の一年生に説教されるなんて…

潮江さんはソファに、私は電気を消してからベッドに入った。


年上としての威厳なんてこれっぽっちも無い


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