3匹もボールに入れずにじょろじょろ引き連れて歩いていたら、そりゃあ疑問に思うだろう。
そんな疑問に私は今、全力で答えている。
表情は少し困った微笑みにして。
「私が旅をすると聞いた知人から譲って貰った子達なんです。でも手渡しだったからゲットした訳じゃなくて…」
チラリと隣のストライクを見て弱々しく笑って、また言葉を続ける。
「だからこの子達が私を親として認めてくれてるか、分からない…ですけど」
目を伏せれば潮江さんが戸惑ったように私の名前を呼ぶ。
「だっ、大丈夫です!大丈夫ですよ!」
コトネちゃんが大きな声を上げ、私の手を両手で掴んだ。
喧嘩してたガーディとコリンクの体がビクリと揺れたのが視界の端で映る。
「きっと認めて、ボールに入ってくれます!」
「ありがとう…でも私、モンスターボール持ってないから…」
力強く私を見上げてくるコトネちゃんにやんわり首を振れば、彼女は手を離し自分のバッグをゴソゴソしだした。
「モンスターボールならあります!あげますから使って下さい!」
「えぇ…?そんな…」
おっとー?やりすぎた!ちょっと演技しすぎたらしい。涙目のコトネちゃんに数個のモンスターボールを渡され握らせられる。
無難に説明つけて切り抜けるつもりが…調子に乗って同情を誘ってしまった…!
「これで今ゲットしましょう!きっと入ってくれます!」
「入って…くれますかね…?」
チラリと一瞬だけ潮江さんに視線を送る。
コトネちゃんは何度も首を縦に振っていた
「大丈夫です」
潮江さんが小さく告げたのが耳に入り、私は苦笑ながらもコトネちゃんに頷き返した。
「君島さん…」
先程のコトネちゃんの大声で喧嘩を止めた二人。
話しを途中からでも聞いていたんだろう。
私を見上げていた小さなポケモンにそっと歩み寄る。
「これで、貴方達は私のポケモンになるんだけど…良いかな?」
膝をついて地面にしゃがみ二人に問う。
大人しくなったガーディとコリンクは、同時に頷いた。
コツン、と彼らの額にボールを当てれば、赤い光がその姿を呑み込んでやがてモンスターボールの中に収まった。
ガーディとコリンク、それぞれが入ったボールを握り軽く息を吐く。
立ち上がろうとすれば、草を踏む音がすぐ側から聞こえた。
「え」
側に立っていたのはストライク。
私が立ち上がっても彼の視線はじっと私を見ていて、その目で何を言わんとしてるのかが分かる。
「いいんですか…?」
驚きで声が上擦ったが、潮江さんは確かに首を縦に引いた。
そっとボールを彼の肩に当て、また赤い光がポケモンの姿を呑み込む。
地面に落ちたモンスターボールは1度も揺れる事なく、カチッと動きを止めた。
「良かったですね一織さん!」
「ありがとうコトネちゃん。コトネちゃんのお陰です」
駆け寄ってきたコトネちゃんは感涙の涙を目の端に煌めかせていた。
少し騙したようで胸が痛むが、今更本当の事を話すわけにはいかないので…今度会った時とか美味しいお店で食事に誘おう。
「いいんです!一織さんとポケモン達の絆が見れましたから…!」
「そんな大袈裟な…」
生徒と事務員の関係なんだけどな…。
利吉さん風に言えば゛利害が一致した゛だけである。
「残りのモンスターボールもあげます!ぜひ使って下さい!」
「えっ、いやっ、貰えないよ…!」
手に数個残ったボールをぐいぐい押し返される。
見た目によらずコトネちゃん力強い。
「いいえ。貰って下さい。私はまだいっぱい持ってますからお裾分けです」
グッと手を重ねてコトネちゃんは笑顔を弾けさせた。
「…ありがとう。」
コトネちゃんが天使すぎて、素直に貰う事にする。
笑って礼を言えば、更に嬉しそうに笑ってくれた。
コトネちゃんに何かあった時は助けよう。
「それじゃあ一織さん、また!旅の途中で会えた時は私のポケモン見てくださいねっ」
「うん、楽しみにしてるよ」
影が長くなってきた道の真ん中で、手を振り別れる。
コトネちゃんはワカバタウンに戻り、私はヨシノシティに向かう。
少女が大きく手を振った。口の横に手を添え私の名前を大きく呼んだので手を挙げて応える。
「ポケモンたち一織さんのこと大好きなんですねー!」
そう言って、私が言葉を理解する前にコトネちゃんは走り去って小さくなってしまった。
「え゛、えー…?」
立ち竦んで小さく呟くしかできなかった。
せめて否定させてほしかった。じゃないと彼らも気まずいだろうし、私も気まずい!
これがコトネちゃんに嘘をついた罰なのか。
でも、私が持ち主で良いのか悩んでたのは…本当なんだけどな