少女より
「い組はいつもそうだ!」
「は組だって毎回毎回…!」

…どうしようかなぁ。

もうすぐヨシノシティに着くはずなんだけど、思わぬ足止めを食らっていた。
目の前ではガーディとコリンクがぎゃんぎゃん言い合いをしている。

困る私の隣には呆れた表情のストライク。
潮江さん…止めてくれないんですね…

加藤くんが黒門くんをからかった瞬間から二人の空気は悪かったが、段々とヒートアップし黒門くんは私の腕から飛び出し地面に降りて喧嘩になってしまった。

「どうしましょう…?」
「放っときましょう。」

小声で潮江さんと会話すれば、予想に反して放任主義な返事が。
思わず「え?」と聞き返したけど潮江さんは二人に目を向けたまま薄く笑った。

「い組とは組が仲が悪いのはいつもの事です。きっと多少不安が解けたんでしょう」
「あぁ…これ、普段通りになったんですね…」

潮江さんが一緒だから安心したのかな。そう思えば可愛らしい喧嘩だ。
でも…できれば早めに終わってほしい。せめて続きは町に着いてから、じゃ駄目かな。


「あー!本当だっ。こんな所にガーディとコリンクがいるなんて!」

喧嘩を眺めていたら耳に飛び込んだ高い声。
声の方角に顔を向ければ、走ってくる少女の姿が見えた。

「まさかジョウトにコリンクがいるなんて…!って、…ん?」

私達の近くまで駆け寄り立ち止まった少女は、頭に被った白いキャスケット帽のズレを直した所で私と目が合った。
パチパチと大きな目をしばたたいて私と隣のストライクを見、ガーディとコリンクを見て、また私に目を移す。

「こんにちは…もしかしてお姉さんのポケモン…?」
「うん、そうです。」

苦笑混じりに答えれば、少女は残念そうに眉をハの字にした。

「そうなんだ…お姉さんの…」
「ごめんなさい。もしかして騒ぎになってますか?」
「そうなの!29番道路に見たことない珍しいポケモンがいるって噂になってて…!」

彼女の口振りから推測できたが、やっぱり噂になっちゃってたか。
少女が来ても気付かず喧嘩する一年生達とは違い、潮江さんは少し身を固くしていた。警戒してるんだろう。

「でもお姉さんが連れてきただけだったのね」

否定も出来ないので苦笑で返す。

「あ、私コトネって言います。ワカバタウンのトレーナーなの」

そうニッコリ笑った彼女、゛コトネ゛って主人公の女の子…だよね?

少女、コトネちゃんの名前に一拍間を空けてしまったが何とか不自然にならない内に笑顔で自己紹介をする

「私は君島一織です。一応この子達のトレーナーで、旅をしています」
「一織さんですね!よろしくお願いします」

ペコリと軽く頭を下げた彼女につられ、私も頭を下げる。
顔を上げればすごくキラキラした表情のコトネちゃんがいた。

「それにしても、旅をしてるなんて素敵!どんな所に行くんですか?」
「いえ、旅は始めたばっかりなんですけどね。ジョウトは歴史の古い町並みが残ってる場所ばかりですから、それを見に」

妙に話が不自然になったり後々怪しまれないように、真実じゃないけど嘘にはならない範囲で喋る。
コトネちゃんも笑顔で相槌を打つだけで私の話を信じてるようだ。
どこの町のどの建物が綺麗だ、とかまで教えてくれた。…立ち寄った時は見に行こう。

「…それにしても、ガーディとコリンク仲良しなんですね」

世間話の区切りで、コトネちゃんは微笑ましいとばかりに小さなポケモン2匹に向き直る。
加藤くんと黒門くんはまだ喧嘩していた。

「あは、は……そう見えます…?」

文字が汚いだの嫌味ったらしいだのお互いの文句を言い合ってるのだが、コトネちゃんは2匹を眺めて「可愛い〜」と漏らした。
どうやら私以外の人間には確かに鳴き声にしか聞こえてないようだ。

「一織さんのポケモンちゃんたち元気いっぱいですね!」
「いやぁ、元気が良すぎるみたいで…」

心の底からは笑えない状態で「あはは」と口から零せば、隣の潮江さんが慰めるように「面倒かけます…」と呟いた。

「ボールに入れないんですか?」

首を傾げたコトネちゃんはキョトンと尋ねる。
その言葉に潮江さんも不思議そうな顔をしたけど、彼女の前で会話をする訳にもいかずコトネちゃんの質問に答える事とする。

「実は…この子達、知り合いから貰ったばかりなんです」

潮江さんが私を見たが、私は話しを続けるべくコトネちゃんに向かって困ったように微笑んだ。


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