彼らの言葉
「えーっと、ゆっくり話すのは町に着いてからにしましょう」
「そうですね、もう日が降りてきてる」
「では、西のヨシノシティに向かいましょう」

まだまだ気になる事や説明したい事はあるけれど、ずっと道端の草むらに留まっているわけにはいかない
彼らも馴れない体で疲れているだろう。休める所で話がしたい。

全員が同意したのを確認し、私は膝をついて黒門くんと視線を合わせた

「そこで黒門くんに相談があるんです」
「えっ?僕に…ですか?」

瞳を揺らす目の前の小さなコリンク。
他の二人の視線も感じるけど、最初に彼に言わなきゃいけない事がある。

コリンクは遠く離れたシンオウのポケモンだ。人に追い掛けられた、という話を聞く限りではジョウトやカントーで目にする事はないのだろう。

「黒門くんはこの辺りでは目立ちます。騒ぎになったり、他の人間に捕まえられそうになる可能性が一番高い」
「そんな……」

愕然と表情を固め呟く黒門くん。
だから私がこれから言う事は酷かもしれない。

「それじゃあ伝七はどうするんですか…!」
「僕は…置いていかれちゃうんですか…?」
「君島さん待って下さい!それはあまりにも…!」

「えっ」
「「えっ?」」

私が言う前に彼らが悲痛な表情でとんでもない方向に勘違いしてるから、驚きの声を上げる。
そして、そんな私の驚きっぷりにポカンとする面々。

「ち、違いますよ!そんな事するわけないじゃないですか!私はただ移動の間だけ抱えて良いか相談したくて…!」
「移動の間だけ…」
「抱える…?」

焦って首も手もブンブン振りながら否定すれば、力のない声で聞き返された。

「私が抱えとけば野生の子と間違えて狙われないでしょうし、歩き回るよりは目立たないかと、思いまして…」

苦笑混じりに説明すれば、彼らの時が漸く動き出した。

「なーんだ、そっかぁ!」
「びっくりした…」
「脅かさないでくださいよ…」

地面に崩れ落ちるポケモン達。
えー…私が悪いの?

「えっと…そういう事なら、君島さん、僕は大丈夫です。」
「うん、ごめんね…?」
「? 謝るなら僕じゃないですか?面倒かけます。」

私に1歩近寄って了承してくれた黒門くんに眉が下がる。彼は不思議そうにしたけど…本当ごめんね


私の謝罪の意味が、抱えられて理解できたんだろう。

「伝七いーなー。君島さんに抱っこされて」

私の両腕で抱き上げられるコリンク。これは10歳の男の子にとってはかなり…恥ずかしい

下から見上げて声をかけてきた加藤くんも表情は悪戯っぽく笑っている。
それを受け黒門くんは俯いて黙ったまま。
少し前を歩く潮江さんも振り返っては気の毒そうな目を送ってきた。


あの…本当ごめんなさい




「言葉が通じなかった…?」

聞き返せば、足許を歩いているガーディは私を見上げてひとつ頷いた。

「はい。攻撃をされた時や捕まえられそうになった時、僕と伝七は必死に"やめて"って言ったんです。"僕達は人間だからやめて"って……だけど、」

俯いてしまった加藤くん。
必死に叫んだのに人間達に追われ心細かっただろう。
腕の中の黒門くんも俯いて一言も喋らない。

私は慰める言葉も励ます言葉も思い付かず、ただ口を開いて音も出せないまま閉じた。

「でも、私には通じてるのは何で…」

バッチリ日本語として彼等の声が聞こえるのはどうしてか?
疑問になって思わず呟けば、加藤くんと黒門くんがバッと同じタイミングで私を見上げた。

「えっと……?」

怖いんだが。

「そうだ。君島さんには通じる…」
「えーっ何でだ!?君島さんぽけもんの言葉分かるの!?」

いや、私が一番不思議に思ってますよ。

「野生の奴らと会った時は特に反応してなかったので、他のポケモンの言葉は聞き取れないと思ってましたが…?」

1歩先を歩く潮江さんが振り返らず言ったので、見てないだろうが反射的に頷いて返答する。
しかし潮江さん流石忍者。よく気が付くな…

「そうです。普通のポケモンの声は聞こえません。だから私は潮江さん達の方が言葉を喋れるようになってるのだと…」

普通のポケモンでは鳴き声しか耳に入らない。
なのに、3人の声は聞こえる。変わらず日本語を喋っている彼等の声は。

「あ、お三方は?他のポケモンの言葉は分かりますか?」

問いかければ潮江さんも振り向いて目を瞬いた。

「あ、そうだ…聞こえますよ!でも、言葉っていうより…」

加藤くんが飛びはね興奮したように口火を切ったが、直ぐにモゴモゴと濁す。
それを続けるように黒門くんが私の腕に前足をかけ、ふり仰いだ。

「ほとんど感情、ですね。しっかりとした言葉ではないです。鳴き声を聞けば何となく思った事が分かる程度です」
「うーん…それじゃあ私が3人の言葉が聞こえるのとは、また違ったパターンですね…」

首を捻っても分からない。謎が謎を呼ぶ。

「まあ、考えても原理なんか分かりませんでしょう」

潮江さんがさっさと前方に顔を戻し言った台詞はごもっともだ。

「ですね、この場に来てるだけで色々と…無意味でしたね。」

あぁ、数時間前に似たような事をそう話したばかりだったのに。
いかんせん私はぐるぐる考えるのが癖なのか。
思考にストップをかけてくれる人がいて良かった…

「便利だから結果オーライってやつですね!」

加藤くんが明るく声を上げる。
でも直ぐに黒門くんが「さすがアホのは組…楽天的…」と呟いたので二人の間に見えない火花が散ったように感じた。
あはは…黒門くんを抱き上げてる私気まずい。


私が特別なのか
彼等が特別なのか…
それとも両方?

この問題は今度じっくり考えよう…。


とりあえず今は一年生の微妙な空気をどうにかして欲しいです。し、潮江さーん…前歩いてないで、仲を取り持ってくださいよーう…


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